紹介
全国で7000話におよぶ民話の採録者として知られる著者が、子どもたちのために岡山県内で採話した民話集の第3集。紹介している全63話は、春夏秋冬の四季に分けて収録した。短い話が多く、子どもたちに理解できる文章で、漢字は小学校低学年でも読めるようにしている。子どもへの読み聞かせ、親子読書にぴったりの一冊で、民話を語る手ごろなテキストである。
著者は、民話の採録が困難になるなかで、なんとしても伝承を残していきたいと思い、自分の言葉での語りを始めた。
語り手を増やすために「立石おじさんの語りの学校」を開き、修了生を中心にした語りのグループづくりを支援してきた。
そして連絡組織「岡山県語りのネットワーク」を結成し、今日に至っている。
本書は、こうした語りを行う人たちのためにテキストとしても活用できる。
目次
一 春の民話
1 桃太郎
2 美咲町の桃太郎伝説
3 ヒガンとヒーガン
4 オオカミとキツネ
5 ウズラの知恵
6 カラスの巣
7 彦一の頓智
8 太郎と泥棒
9 清兵衛と大黒様
10 お花観音
11 大力持ちシンザ
12 大食いゴンタ
13 歌のある家族
14 一つ目の村
15 鬼の手形岩
ほか
あとがき…
前書きなど
民話、民謡、謎々、諺などの口承文芸は、ほぼ口承の世界では消滅したといってよいだろう。調査を始めて六十年、いきいきと伝えられたものが消え去るという現実が来るとは想像もしていなかったことだ。
もちろん、現在でも伝説や世間話は、わずかではあるが伝承されているし、現代民話(現代伝説)といわれる、いまの時代の中で新しく生まれている話もあるが、大きくみると「伝承は消滅した」と言っても誤りではなかろう。
では、伝承は消えても別の形で生き続けている。民話についてみると、出版物、読み聞かせ、朗読、ストーリーテリング(狭義)、新しい語りなどで生きている。
岡山県内でも、図書館でのお話会は、多くの民話作品を読み聞かせたり、作品どおりに語るストーリーテリングが行われている。
私は、作品を暗記することがたいそう苦手であることもあって、ストーリーテリングは不可能だ。子どものころ父母の語りを聞いて育ったが、もっと自分の言葉で語った方が、子どもたち(大人もだが)の心を捉えるのではないかと思っていた。
民話の採録が困難になるなかで、なんとしても伝承を残していきたいと思い、自分の言葉での語りを始めた。