目次
1章 「吉備」とは 渡辺道夫
2章 備中高梁の豊かな自然環境 村本茂樹
3章 城下町としての高梁 朝森 要
4章 山田方谷という改革者 渡辺道夫
5章 吹屋ベンガラ 臼井洋輔
6章 「男はつらいよ」の舞台 菊池城司
7章 桃とピオーネ−「果樹王国」備中の先進性− 碓井 崧
8章 日本のハイデルベルク 藤田和弘
9章 福祉社会のツール 塚田健二
10章 高梁における健康と福祉 吉田健男
11章 高梁のフラクタルな魅力 臼井洋輔
12章 高梁から見た日本−過去・現在・未来− 臼井洋輔
前書きなど
吉備国際大学に入学してきた学生は、備中高梁のキャンパスにおいて4年間をすごす。備中高梁は岡山県の中西部にあり、かつては「備中の国」の中心地として栄えた由緒ある街であり、天守閣のある城では日本一高いところに現存している備中松山城や、小堀遠州作庭の庭をもつ頼久寺、江戸時代の姿をととめる武家屋敷館など多くの文化遺産が点在している。吉備国際大学の学生たちにとっては、高梁市全体が大学のキャンパスになっているといってもよいほどで、大都市の大学生には味わえない経験にたくさん出会うことができる。
吉備国際大学の「吉備」という名称は、どういう意味なのだろうか。学位記授与式で高梁市から「山田方谷賞」が授与されるが、山田方谷はどういう人物なのだろうか。ここで学生生活を送るうちに、この街についてさまざまな疑問が生まれてくる。吉備国際大学における全学共通教養科目の一つとしてオムニバス講義「日本論」(2単位)を開講することになったのは、大学時代をすごすことになる備中高梁の歴史、社会、文化などについての理解を深めるとともに、大学が所在する備中高梁を日本の地方都市の典型の一つとして位置づけて、日本社会および文化をよりよく理解する手がかりとしたいと考えたからである。本書は、そのための教科書・参考書として使用する目的で作成されたが、それだけにとどまらず、備中高梁に関心をもつ一般読者、とりわけ高梁市民の方々にも興味をもっていただけるのではないかとも期待している。あくまで具体的なローカルな素材を手がかりとして、それをグローバルに展開することによって、日本とは何かを考えるヒントを与えることを意図しており、その意味では、いわゆる郷土史とは一線を画し、しかも抽象的で先験的な「日本論」とはならないように注意を払ったつもりである。
本書は、吉備国際大学に在職する有志を中心とする「備中高梁学」研究会によって執筆・編集された。数回の研究会を経て、編集・企画に一年間を費やし、目次が構成された。研究会では、本書に収録できなかった多数のテーマが候補として取り上げられ、議論された。テーマによっては、外部の専門家に執筆していただいた。本書のねらいがどこまで果たされたかは、講義を聴講する学生諸君や一般読者の判断にまつほかにないが、何らかの有益な示唆を与えることができれば、「備中高梁学」研究会のメンバー一同、望外の幸せであると思っている。 吉備国際大学「備中高梁学」研究会