紹介
木はずっと見守り続けている、子どもたちが成長していく姿を…。サクラ、ケヤキ、イチョウ、ソテツ……校門で、校庭で、運動場の片隅で。学校の木は、幼い記憶のよりどころ。懐かしい思い出と共に、木々の姿を思い出す人も多いでしょう。本書は、岡山県内にある幼稚園から大学までの28校、30話の“学校の木”と“人”の物語を集め紹介したものです。
子どもたちが大事に守り育ててきた木、長い歴史に彩られた木、地域とともに親しまれてきた木…学校の木にはさまざまな物語があることがわかりました。そして欠かせない大切なものだということを改めて痛感しました。学校の木はいつも私たちのこころに寄り添っていることを知ってほしい…そんな願いをこめてこの本をお届けします。
目次
1.昔、あの木の下で
二十二本の卒業記念樹 旧岡山市立犬島中学校
緑の雲海、ふたたび 岡山市立大井小学校
かくれんぼ 赤磐市立笹岡小学校
伝統を形にしたもの 岡山県立倉敷青陵高等学校
六十年ぶりの木陰で 岡山市立大宮小学校
次代へ、思いをたくして 岡山県立岡山操山高等学校
よき伝統を守りつつ 倉敷市立本荘小学校
あの頃も、今も 高梁市立落合小学校
戦禍をくぐりぬけて 岡山市立旭東小学校
2.木のある風景
桜の系譜 岡山県立岡山朝日高等学校
運動場の真ん中に立つ 井原市立芳井小学校
元気くん 瀬戸町立江西小学校
小さな手のひら 岡山大学附属幼稚園
クリスマスツリー 浅口市立鴨方西小学校
おばあちゃんの校歌 総社市立神在小学校
校長先生の落ち葉掃き 吉備中央町立吉川小学校
学校の宝 岡山市立可知小学校
菅原道真の足跡に咲く 玉野市立大崎小学校
小さな命を育んで 瀬戸町立江西小学校
古木とみどりの少年隊 新見市立本郷小学校
3.歴史を語る木
軍靴の傷跡 岡山大学
建学の精神を貫いて 興譲館高等学校
ダム湖に沈んだ歴史を受け継ぐ 鏡野町立奥津小学校
百年の老松 赤磐市立笹岡小学校
柳川の歴史とともに 旧岡山市立深柢小学校
繁栄をみた島で 笠岡市立神島外小学校
方谷お手植えの松 高梁市立高梁幼稚園
百年の伝統を、未来へ 岡山県立岡山御津高等学校
新しい歴史を 岡山市立中央小学校
ゆるぎなきもの 岡山大学資源生物科学研究所
前書きなど
学校の校庭から、大きな木が姿を消した。
校舎の建て替えや運動場の拡張、難しい維持管理、落葉が近隣に迷惑をかける…様々な理由で、近年、学校の木々は姿を消してしまうことが多くなってきた。
一方で、学校の枠を超え地域ぐるみで大切にされるなどし、その命を永らえている木もある。
“自分探し”ということが言われだして、もう久しい。物質的な豊かさと引き換えに、自分自身を見失ってしまった人の増大。中高年の高い自殺率やニートと呼ばれる若者たちの出現が、それを象徴しているように思える。自分を見失い、現代を漂う人たち。そんな時代だからこそ、しっかりと大地に根を張った木の姿に、人は癒され、ふと自分自身の来し方行く末と重ね合わせてみるのではないだろうか。
造園および緑地事業に携わる中で、私たちは、たくさんの思いをかけられながらもやむを得ず切り倒された木、逆にかろうじて伐採を逃れ移殖された木…様々な木の姿に接してきた。
木は自らの力だけで立っていることはできない。木を守り、育てる人に支えられて、その姿を見せてくれる。だが、一方で私たち自身が木に見守られ、支えられているのだということも忘れてはならない。学校にある木、子供たちに愛されてきた木は、だれもが一度は身を置く学び舎という時間と場所で、ずっと人の営みを見守り続けてきたといえるだろう。
今、学校に残されている木を、子供たちを慈しみ育てるように守り、次世代に伝えていくことは、失われた自分自身を取り戻すことにほかならないのではないか。そんな思いで、私たちが“学校の木”と“人”の物語を書き記しました。