目次
一 吉井川流域の地形と地質
二 吉井川流域の地球化学図
三 タタラでできた湿原
四 吉井川下流の先史時代遺跡
五 吉井川の高瀬舟
六 吉井川を上った瓦、下った瓦
七 吉井川流域の金属生産にかかわる地名と信仰
八 吉井川流域神社の分布について
〜データベースによる初歩的研究〜
前書きなど
はじめに
岡山理科大学『岡山学』研究会は、岡山理科大学の総合情報学部の教員が中心となって、「岡山」という地域を、自然科学、人文科学、そして情報科学などのいろいろな方向から検討し、明らかにしていこうという目的で作られた研究会です。
一九九九年に発足して以来、これまで、「岡山市朝寝鼻貝塚」や「備前焼」、「吉井川」などに関してシンポジウムを開くなどして検討してきました。そして二〇〇二年一二月に、「備前焼」を対象としたシンポジウムの内容をまとめて、『備前焼を科学する』という本にまとめました。おかげさまで好評を得ることができました。
そこで、そのあとの「吉井川」をテーマにして開催したシンポジウムの内容もまとめたらどうかという話がでて、第二冊目をまとめることにいたしました。
今回は、地学・生物学・考古学・歴史学・民俗学の分野の方々に、自分の得意とする方向から「吉井川、およびその流域の自然と文化」を検討してもらいました。
まず、能美洋介さんは、情報地質学の専門家ですが、「吉井川の地形と地質」というテーマで、鳥取県との県境に位置する三国山系から流れ出した吉井川が香々美川・加茂川・吉野川・金剛川などと合流しながら瀬戸内海にたどり着くまでの周辺の地形や地質の多様性を明らかにしてもらいました。
次に地球化学が専門の関達也さん、地球科学が専門の能美洋介さんと山口一裕さんに「吉井川流域の地球化学図」というテーマで、吉井川周辺にはどのような鉱山や鉱物があったのかを、川底の砂や泥から語ってもらいました。
三番目に、植物生態学が専門の波田善夫さんには「タタラでできた湿原」というテーマで、奥津町などの森林公園の湿原がずーと昔からの時間の中で自然にできたのではなく、今から二、三〇〇年ほど前の江戸時代頃の鉄作りのタタラによってできあがったという新鮮な驚きを述べてもらいました。
四番目に、考古学が専門の小林博昭さんに「吉井川下流域の先史時代遺跡」というテーマで、数万年前から二千年ほど前までの人々の生活の場︱遺跡︱のありかたや、生活に必要としたモノ︱道具︱遺物などの種類とその特性を述べてもらいました。
五番目に歴史学が専門の在間宣久さんには、「吉井川の高瀬舟」というテーマで、かつての岡山県下の南北交通の主役であった高瀬舟の実態について述べてもらいました。
六番目に考古学が専門の乗岡実さんには、江戸時代の瓦が津山・柵原・和気・西大寺などでどのように生産され、運ばれたのかを吉井川の水運との関わりで述べていただきました。
七番目に民俗学が専門の高野洋志さんには、「吉井川流域の金属生産に関わる地名と信仰」というテーマで、鉄作りの神様の一人である「金屋子神」について述べてもらいました。
そして最後に、東アジア古代史が専門の志野敏夫さんと情報地質学が専門の能美洋介さんに、「吉井川流域神社の分布について」というテーマで、流域に分布するいろいろな神社のデータベース(一覧表)を作成することによって、この地域の人々と自然の関わり、信仰のあり方などをどのように考えるかを述べてもらいました。
「吉井川を科学する」という目的がどれだけ達成できたかよくわかりませんが、ご一読いただき、みなさま方の心の片隅に、何か残るものがありましたら、幸いです。
二〇〇四年一一月一日
岡山理科大学『岡山学』研究会代表 亀田修一