目次
【機構長コラム】「村井吉敬先生、さようなら」小口彦太
【フィールドから――Photo Essay】 村井吉敬のフィールド
【特別寄稿】 逝きし友へ◎村井吉敬教授とインドネシア研究 後藤乾一
村井吉敬の仕事◎民衆の穏やかな暮らしを描き、その破壊者を批判する 中村尚司
村井吉敬プロフィール
Nation Stateを超えて◎民衆際自治と越境民主主義 村井吉敬
インフォーマルな人びとをつくる工場◎豊かになれない 福家洋介ィ
東インドネシア、海民の社会空間◎ゲセル島で村井さんと考えたこと 長津一史
ハンギョレ新聞2013年3月26日◎日本の「東南アジア研究の大家」村井吉敬逝去 韓洪九
村井先生を送る日に 徐 ヘソン
「さようなら」というわけではない グナワン・モハマド
桜の木をパプアに咲かせてくれた村井先生 デッキー・ルマロペン
ヨシノリ・ムライ、わたしの特別なセンセイ、教室の外だけどね D.M.スダルタ
村井吉敬さんへ 感謝をこめて ルーベン・アビト
【特集】変わるインドネシア
インドネシアの経済◎発展の足跡 加納啓良
インドネシアの政治・外交◎好調な経済を支える政治的安定 増原綾子
地域紛争とインドネシア共和国史 松野明久
現代インドネシアにおけるイスラーム、メディアと政治 見市建
民主化の変化と「小さき民」 上野太郎
私はなに人? インドネシア人? 大川誠一
【書籍紹介】 小林英夫・坪井善明
【アジアを食べる】食のハラールをめぐる多様な声と実践 砂井紫里
What’Going on? 早稲田アジア研究機構からのお知らせ
【アジアのNGO 活動現場から】パプアのチョコレート――先住民族の小さな挑戦が始まった 津留歴子
巻頭口絵写真:上空から見たジャカルタ
にほんに
前書きなど
「村井吉敬先生、さようなら」 早稲田大学アジア研究機構長 小口彦太
機構長に就任以来、先生は最も身近にご相談できる人でした。ご相談に行くと、私の顔をぐっと見据えて、簡にして要を得たお答えをなさった後、やおら、にこっとされるのが常でした。そうした先生にもうお会いできないと思うとほんとうに寂しくてなりません。
先生のご著作は多くの人に読まれてきました。私も、遅まきながら今年三月一六日にシンガポールに向かう機内で先生の名著『エビと日本人』を読ませていただきました。奥付を見ると、何と四二刷、びっくりしました。いかに多くの人たちに読まれてきたことか。シンガポールに少し長居して、二〇日に帰国し、二二日、いつもなら先生も率先して出席されましたアジア研究機構の送別会があり、その翌朝でした。吉岡さんから、先生のご逝去を聞かされました。ご自宅に初めてお伺いし、先生と最後のお別れができたことが私のせめてもの慰めでした。
本学の系属校であるシンガポール校の校長をしている関係で、四月の始業式に参りまして、生徒たちに向けて、村井先生という素晴らしい先生がおられたこと、先生は君たちの住んでいるこの地域を対象に素晴らしい研究をされてきたことを話し、その際、『エビと日本人』の一節を読み上げました。それは本書の終章近く「第三世界との関係はこれでよいか?」の部分でした。やや長くなりますが、引用させていただきます。「アジアの零細な漁民(小漁民)たちが一九七八年に、バンコクに集まってワークショップを行った。そのとき、マレーシアの小漁民は訴えた。『トロール網は、あらゆる種類の魚を獲ってしまうだけでない。トロール網は、魚の父さん、魚の母さん、魚の兄、姉、弟、妹、魚の子ども、魚の孫、ひ孫、そして魚の卵をみんな獲ってしまう』零細な漁民たちは、ワークショップの最後に『小漁民マニフェスト』を読み上げた。『私たちは、外国の強力な船隊が私たちの国、私たちの地域の水域に侵入することに抗議します。……』エビを追いかけ、アジア・第三世界の人々との出会いの中で、私たちは〝飽食〟を実感せざるを得なかった。もちろん、エビだけの問題でない。食べ物だけの問題でもない。だが、エビという身近な題材を、かなり丹念に追いかけることによって、私たちと第三世界との関係の〝歪み〟が浮かび上がってきた。」私は魚の父さん、母さんの箇所を読み上げているとき、金子みすずの詩を突然思い起こしました。
このような話をした日の夕方でした。社会科のある教師が私のところにやって参りまして、〝いやー、先生、ひやひやしました〟と言うではないですか。何故ひやひやしたのか聞きましたところ、〝いやー、明日の実力テストに村井先生の『エビと日本人』から出題しているんです〟ということでした。先生の名著がいかに深く浸透しているかを実感した次第です。来週(五月一六日)はシンガポール校へ授業参観に参りますので、その時に生徒達の出来具合を是非聞いてみたいと思っています。その結果を後日――それがいつになるか分かりませんが――先生にお伝えしようと思います。多分、先生はにこっとされると思います。
村井先生、色々とご指導ありがとうございました。