紹介
本書は、研究の最前線を5人の著者がわかりやすく徹底的に語っている。いまもっともホットな話題である植物地理の進化のダイナミクスは、特に若い研究者の卵たちには大きな関心を呼ぶものと期待できる。また、多くの野生植物の愛好家の方々にとっても、今見ている花々のルーツを知るための待望の本である。
植物地理学は、地理上の植物の分布様式からその分布拡大の歴史を考察するものであり、植物学のなかでも分類学とともに最も古典的な学問分野である。
昨今、DNA情報による分子系統学が導入されるとともに、花粉や花化石などによる種分化や集団分化の成立過程が解明されるようになったことで、大きな注目が集まっている。
本書では、これまでの植物地理学に関する研究手法を概観するとともに、DNA情報を駆使した分子系統地理学的アプローチをもとに、日本列島と地球規模の植物地理についての最新の知見を提供する。北海道大学出版会における「生物地理」シリーズ第3弾として、新しい研究法による成書が誕生した。
目次
序章 植物地理学の誕生と現状(植田 邦彦)
1. ウォレスとダーウィン
2. 生物地理学の誕生
3. 植物地理学
4. 植物地理学の現状
第1章 琉球列島における植物の由来と多様性の形成(瀬戸口 浩彰)
1. 日本列島とユーラシア大陸を陸橋でつないだ琉球の島々
2. 琉球列島での種分化・種内分化の時期―陸橋が形成と分断を繰り返した時期と合っているのか?
クサアジサイ属の種分化 /アセビ属の種分化
3. 同一種内における遺伝構造―種内の遺伝構造は,かつての陸橋の形の影響をどのように受けているのか?
ソテツにおける葉緑体とミトコンドリアDNA多型の地理的構造 /スダジイにおける葉緑体とミトコンドリアDNA多型の地理的構造 /複数の植物系統地理から想定される琉球列島の陸橋の形態
4. 島嶼固有の特性―交雑と遺伝子浸透
5. 植物系統地理学の知見をどのように活かすか
第2章 南半球分布型植物の分子系統地理(朝川 毅守)
1. 南半球において隔離分布する植物
2. ゴンドワナ大陸の地史
3. 分子系統に基づく分子系統地理学の手法
4. ゴンドワナ植物の分子系統地理学的研究
ナンキョクブナ属 /シキミモドキ科 /アテロスペルマ科 /フトモモ科 /ヤマモガシ科 /グンネラ属 /バオバブ属 /ナンヨウスギ科
5. まとめと展望
第3章 被子植物の分布形成における拡散と分断(長谷部 光泰)
1. 生物地理学における生物区系
2. 系統樹に基づいた生物地理研究
3. より精確な系統樹を求めて
4. ドクウツギ
ドクウツギ属の分布 /ドクウツギ科の系統 /ドクウツギ属の種間系統
5. 食虫植物の系統
食虫性の進化 /モウセンゴケ属内種間の系統関係 /モウセンゴケ属の生物地理
6. カエデ属の生物地理
第4章 沿海州の気候と植生(いがり まさし)
1. 沿海州の位置と気候
2. 沿海州の植生
3. 目につく西日本との共通種
4. 沿海州に雨や雪が少ないわけ
5. 氷期の日本列島と沿海州
6. ふたつの火山と縄文人
7. 里山はタイムカプセル
8. 変幻自在のオキナグサ
9. カワラノギクの故郷
後書きにかえて(植田 邦彦)
3冊の本
分類地理学との出会い
系統地理学的研究
「日本海要素」の研究
植物地理学研究における標本の重要性
索 引