紹介
2010年,北大の学部生チームを編成し,iGEM(生物ロボットコンテスト)2010(於:米国マサチューセッツ工科大学)への参加に挑戦し始めた。この時,この国際大会への各国からの参加チームが標準として用いている遺伝子作製技術が,工学原理に基づいて構築されており,これに用いる遺伝子部品が質的にも量的にもすぐれていることを知った。これなら,大学の1年生にも習得可能と考え,2011年度,北大理系の新入生を対象として開講されている一般教育演習(フレッシュマンセミナー)のメニューのひとつとして「遺伝子デザイン学入門」を開講した。課題として学生がデザインした遺伝子は,どれも個性豊かで若者らしい創造性に富んだものばかりであった。この講義を通じて,「従来,経験値の高い研究者にしか手の届かなかった遺伝子デザインというものも,遺伝子部品と遺伝子部品情報のインフラを整備し,単純化した方法を確立することにより,経験の浅いまたは全く経験のな学部生にも“手の届く技術”に進化させることは可能であり,その知識を,講義を通じて30時間程度で伝授できること」を確信することができた。
本書はこの講義用テキストをもとに,学生やほかの教師のみなさんのコメントを取り入れ修正したものである。高校で生物学をちゃんと勉強した学生なら理解できる内容表現となっている。
読者対象と読書目的は,①遺伝子デザインに興味を持っている学生の独学用テキストとして,②遺伝子デザイン法を教育したいという大学の教師の講義ノートとして,③これから遺伝子デザイン法を学びたいという研究者・技術者の入門書として,④iGEMチームに参加して「生物ロボットコンテスト」への参加に挑戦してみたいという学部生のグループ学習用テキストとしてなど,を想定している。
目次
まえがき
はじめに
第1章 遺伝子デザイン
従来の遺伝子組み換え技術による部品の選択と連結/工学原理に基づく遺伝子デザイン
第2章 遺伝子各部位の配置・役割・構造
遺伝子各部位の配置と役割/遺伝子部品の形
第3章 遺伝子部品をつないで遺伝子を組立てる
遺伝子を組立てる/生物デバイス(BioDevices)とは/デザインに基づいて遺伝子を構築する
第4章 生物デバイスと生物デバイスドライバー
生物デバイスドライバーとは/天然および人工の生物デバイスドライバー
第5章 生物デバイス
生物と生物デバイス/生物と最小ゲノム/最小ゲノムを構築する5つのコア生物デバイス群情報/
アクセサリー生物デバイス群
第6章 植物で機能する生物デバイスの実例
植物でバイオセンサーを造る/植物に生物デバイスを導入してバイオセンサーを造る/植物に導入する生物デバイスのコンセプトデザイン/生物デバイス情報への導入/植物に導入する生物デバイス情報造りに必要な遺伝子部品/ステロイドホルモンの存在を検知し,青く変化する植物バイオセンサー
第7章 遺伝子デザインツール(北海道大学医学部医学科・伊藤健史)
遺伝子デザインツール「UGENE」とは/遺伝子部品配列データを作成する/遺伝子部品配列データの制限酵素切断シミュレーション/制限酵素処理後の遺伝子部品の連結シミュレーション/おわりに
第8章 「遺伝子をデザインする」とはどういうことか
遺伝子部品の役割を単文で表現/ひとつの人工遺伝子を短い文章で表現/複数遺伝子からなる人工生物デバイスを短い物語で表現/生物固体の各器官の機能は長い物語/魅力的な生物デバイスの構築には多くの知識創造性が不可欠/生物デバイスの例を学ぼう
あとがき
前書きなど
まえがき
2010年、北海道大学の学部生チームを編成し、iGEM(生物ロボットコンテスト)2010(於:米国マサチューセッツ工科大学)への参加に挑戦し始めたことをきっかけとして、この国際大会への各国からの参加チームが標準とし用いている遺伝子作成技術が、工学原理に基づいて構築されており、これに用いる遺伝子部品が質的にも量的にも、私の予想以上のものであることに気がつかされました。こうした技術基盤の構築は、これまで経験値の高い研究者にしか手の届かなかった「遺伝子デザイン」というものを、経験の浅いまたはまったく経験のない学部生にも「手の届く技術」に進化させることとなりました。これなら、大学の一年生にも習得可能と考え、2011年度北大理系の新入生を対象として開講されている一般教育演習(通称:フレッシュマンセミナー)のメニューの一つとして「遺伝子デザイン学入門」を開講しました。
本書は、この講義をするためのテキストとして作成したものです。ですから、高校で生物学をまじめに勉強した人なら理解可能となるように作成しました。