紹介
●本書の特徴
本書は著者の十数年にわたる研究を集成したものである。本書では,現在の統語論において中心的な位置を占めている言語理論の一つである生成文法の枠組を用いて,ロマンス諸語に属するフランス語・スペイン語・イタリア語の再帰代名詞クリティックに関する言語事情を対照的に分析した。
再帰代名詞クリティックの機能のなかで統語論において分析されるべきものとして再帰用法、受動用法、非人称用法の三つを取り上げた。非対格用法を分析対象としないのは、この機能が統語論ではなく語嚢意味論のレベルで分析すべきものであるという理由による。
再帰用法については、特に重要な現象とし七使役構文における分布と複合時制における過去分詞の一致現象についてフランス語を中心に論じた。受動用法においては、スペイン語における名詞句の格標示の問題、フランス語における時制上の制約の問題並びにイタリア語を中心とした複合時制における過去分詞の一敦現象について論じた。非人称用法においては、イタリア語を中心にその続語的分布と複合時制における過去分詞の一敦現象について論じた。これらの議論を通じ、3言語において再帰代名詞クリティックが統語論上どのように特徴づけられるかを議論した。
本書では,ロマンス語における再帰代名詞クリティックという統語論において重要な位置を占める現象を,新たな言語事実を提示すると同時に,従来の研究にはない独自の視点を展開した。この研究成果は再帰代名詞にとどまらず代名詞クリティック全体につながるものであり,今後のロマンス語統語論研究の発展に大いに貢献するものである。
目次
●目次
まえがき
凡例
第1章 再帰代名詞クリティックの概観
1. クリティック
2. 再帰代名詞
3. ロマンス語における再帰代名詞クリティック
4. 再帰代名詞クリティックの用法
相互用法 / 受動用法 / 非人称用法 / 非対格用法 / 本来的用法
5. 再帰代名詞クリティックに関する先行研究
基底生成説 / 移動説 / 機能範疇説 / 非項説
第1章注
第2章 再帰用法の再帰代名詞クリティック
1. 再帰用法の再帰代名詞クリティックの統語的ステイタス
構造 / 再帰代名詞クリティックの認可条件
2. 複合時制文における過去分詞の一致現象
過去分詞の一致現象 / 再帰代名詞クリティックと共起する動詞の過去分詞の一致 / フランス語における過去分詞の一致 / イタリア語における過去分詞の一致
3. 使役構文における再帰用法の再帰代名詞クリティック
分布 / フランス語における使役構文 / 使役構文における再帰代名詞クリティックの分析 / スペイン語の使役構文における再帰代名詞クリティック / イタリア語の使役構文における再帰代名詞クリティック / まとめ
4. 総 括
第2章注
第3章 受動用法の再帰代名詞クリティック
1. スペイン語の再帰受動構文
再帰受動構文と受動文 / 先行研究 / 分析
2. イタリア語の再帰受動構文における過去分詞の一致現象 139
先行研究 / 分析
3. フランス語の再帰受動構文に見られる制約
再帰受動構文における再帰代名詞クリティックの分布 / 先行研究 / 再帰代名詞クリティックの統語的特性 / まとめ
4. 総 括
第3章注
第4章 非人称用法の再帰代名詞クリティック
1. イタリア語における再帰非人称構文
統語的特徴 / 先行研究 / 再帰非人称構文の統語構造 / まとめ
2. スペイン語における再帰非人称構文
法動詞 / 繰り上げ動詞 / 他の不定詞補文 / まとめ
3. フランス語における非人称構文
空主語の認可 / 虚辞の人称代名詞 / まとめ
4. 総 括
第4章注
参考文献
あとがき
索引
Index