紹介
本書は,東ドイツ「社会主義」計画経済下の企業現場を検討対象としながら、計画経済において生産が非効率なものになってしまうメカニズムと非効率の具体的様相,一般的イメージとは異なる労働者の日常や濃密な人のつながりのあった社会の姿,我々が想像するほど身近な恐怖ではなかった秘密警察の本当の影響力,それらの事実から「社会主義」計画経済の崩壊および存続の理由を導き出そうとする試みである。
これら「社会主義」計画経済という「もう一つの経済システム」の基底部分における,あまり知られてこなかった(知ろうとされてこなかった)実態を,ドイツ統一後公開された一次資料を用いて実証的に明らかにすることで,「社会主義」について多面的に理解すること,これが本書の目指すところである。
また,その作業を通じて,将来の市場経済のあり方について考えるにあたっても,ものの見方・考え方をより多面的にし,議論を豊富化することに貢献できるのではないかというのが著者の考えである。
目次
●目次
はしがき
略記表
序 章
1.「社会主義」研究の今日的意義
2.視点・課題とその意義
3.DDR経済史研究の現状
4.資 料
5.本書の構成
第1章 出発点の経済状況―対外関係,工業生産および労働力についてのマクロ的分析
はじめに
1.戦前・戦中期の状況
2.対外関係からの影響
3.工業における産業構造の転換
4.労働力の回復と流出
小 括
第2章 労働生産性向上政策とその労使関係的限界―1953年6月17日労働者蜂起をめぐって
はじめに
1.企業における労働者統括―政策の基盤
2.労働生産性向上政策の展開
3.1952/ 53年経済危機と6月17日蜂起
小 括
第3章 造船業における生産能力の増大と労働生産性の低迷
はじめに
1.第二次世界大戦直後の造船業
2.造船所の建設・拡張
3.技術面の発展
4.労働力の調達
5.賠償生産の優先
小 括
第4章 造船業の企業現場における設備能力の不十分な利用
はじめに
1.戦後初期の生産困難
2.第一次五カ年計画期の問題点
小 括
第5章 造船業の企業現場における労働者陶冶および管理の限界
はじめに
1.労働者の陶冶
2.労働者の管理
小 括
第6章 造船業における計画作成と達成度評価の現実
はじめに
1.計画の作成と達成度評価の実態
2.対ソ納入船舶の価格について
3.生産計画の作成可能性について
小 括
第7章 造船業の国際競争力
はじめに
1.企業現場の問題点を生んだ原因
2.建造船舶の性能
3.造船業の国際競争力
小 括
第8章 労働者の人間関係世界―作業班の経済的・社会的意義
はじめに
1.「労働作業班」
2.「社会主義的労働の作業班」
3.作業班の存続理由
小 括
終 章
補 論 企業における秘密警察(シュタージ)―その本当の影響力
はじめに
1.シュタージとは?
2.事実の正確な理解に基づく評価の必要性
3.企業におけるシュタージ
4.国民の三つの層について
あとがき
参考文献一覧
人名索引
事項索引