前書きなど
顕信さがしの旅 香山リカ
本書に収載されているシンポジウムにもあるように、私と顕信との出会いは、たったふたつの句と「夭折」ということば。そのどちらにも強くひかれ、“顕信さがしの旅”が始まったのだ。旅は壮大な冒険になるはずだったが、実は始まったとたん、あっさり顕信は見つかってしまったのだ。
どこで見つかったのか? 岡山でその思い出や作品を大切に暮らす人々の中に、である。ご家族やかつての句友たちは、「顕信のことならいくらでも語りますよ」と初対面の私を熱く迎えてくれた。日ごろはどちらかというと濃い人づきあいが苦手な私なのだが、いつのまにか自分もその熱い渦の中に巻き込まれていた。それからたまりにたまっていたエネルギーが一気に噴出すように、顕信関連の書籍が何冊か出版されたりテレビのニュース番組でも取り上げられたり、ちょっとした顕信旋風が吹き始めた。
そして、その中でももっとも内容が充実していたもののひとつが、山陽新聞に連載された横田賢一氏のルポだったのだ。それが少しの時を経て、今回こうして一冊の本にまとまることになった。改めて読み返してみると、“どこにでもいるふつうの若者”と“天才的素質を持った俳人”、顕信という青年のふたつの顔が丹念にそして鮮やかに描かれている。もちろん、顕信を取り巻く人たちの人間模様も手に取るようによくわかる。顕信を知る上でのまさに一級品の資料がこうして多くの人の目に触れることになった喜びが、私の中にもじわじわとわいてきた。
顕信。
この名前を、病床で詠んだ作品を、君は知っているか。そんな声が、横田氏の文章を介して顕信自身から直接、響いてくる。あなたなら、その呼びかけにどうこたえるだろう。
二〇〇六年十二月二十日