紹介
ラーメン記者が選りすぐった、店の歴史と味をどうぞ!
福岡・久留米から佐賀、大分、熊本、宮崎へ広がった白濁豚骨の系譜。消えゆく名店、家系ラーメンの本家、札幌の人気の味を引き継いだ人たち。「もしもしラーメン」や「便所ラーメン」との愛称で親しまれる店の始まりから、非豚骨で勝負をかけた学生起業家まで―。
食べ歩きを続けるラーメン好きであり、新聞記者でもある筆者〝ラーメン記者〟が、新旧さまざまな選りすぐりの店をじっくり取材し、その味と歴史を記した異色のグルメガイド。
九州を中心に100軒以上の店を紹介し、豚骨誕生から九州内での伝承と普及、全国への伝播までを掘り下げた決定保存版となっている。
全国のご当地ラーメンや○○系ラーメンも紹介。ラーメン店主と山登りをする企画のほか、巻末には、ちゃんぽん豚骨ラーメンの誕生から伝播、各地で生まれた地域の味、東京への普及、さらに東京においての豚骨ラーメン事情などを記録したエッセー「九州豚骨今昔物語」も収録している。
装画は牧野伊三夫
目次
福岡市
12P 伝統と革新の味 博多だるま総本店(福岡市中央区)
16P 流浪のフォー シンチャオ(福岡市中央区)
20P 伝説の一杯が再現 中華そばふくちゃん(福岡市中央区)
23P 一杯に交差する思い出たち 長浜ナンバーワン(福岡市中央区など)
26P 余韻残るいいスープ 大島ラーメンあづまや福岡店(福岡市中央区)
28P 蓄積されたおいしさ 大重食堂(福岡市中央区)
30P 柔らかな心地よさ めん処三喜(福岡市中央区)
32P 新しい「おいしさ」 手打ちうどん円清(福岡市中央区)
34P 「麺が先」そして「味が先」月光軒(福岡市中央区)
38P じわりとクリアな味 豚そば月や 大名店(福岡市中央区)
40P 屋台の世界も変える? 炉端屋台 正(福岡市中央区)博多一双(博多区)
44P 製麺職人の勝負スープ やまみラーメン(福岡市博多区)
48P 厨房も、歴史も調味料 博多川端どさんこ(福岡市博多区)
52P 窮地を救った豚骨 鶏専門 麺屋蓮々(福岡市博多区)
54P 九州唯一の直系の味 ラーメン内田家(福岡市博多区)
58P 麺は「ずんだれ」で 魁龍(福岡市博多区)
61P 新しい焼酎の飲み方 長浜御殿(福岡市博多区)
64P 札幌発、博多の味 えぞっ子本店(福岡市博多区)
67P 多彩な魅力の沼がある 中華そばかなで 煮干編(福岡市東区)
70P 素朴であきない味 一楽ラーメン(福岡市東区)
74P 今でも「屋台」なのだ 花山(福岡市東区)
77P くさ~いが心地いい 駒や(福岡市東区)
80P 変わる街で変わらない 味一番(福岡市早良区)
83P 身近にあってこそ豚骨 冨ちゃんラーメン(福岡市早良区)
86P いいあんばいのチェーン店 めんちゃんこ亭(福岡市早良区)
89P 寒いときはココ きりや(福岡市西区)
92P 厨房も濃厚 拉麺處 丸八(福岡市城南区)
95P あえて引き継がない KOMUGI(福岡市城南区)
98P においの余韻に浸る ラーメン黒羽(福岡市南区)
100P 博多新風(福岡市南区) 人吉と博多の師弟愛
福岡市外
104P 「わざわざ行って食べる」感覚 御忍び麺処nakamuLab.(福岡県那珂川市)
106P 七色支える土台のうまさ 拉麺空海(福岡県那珂川市)
108P たし算、かけ算のおいしさ おしのちいたま(福岡県糸島市)
110P 親族で老舗守る 沖食堂(福岡県久留米市)
114P あの丸福の系譜! 拉麺 久留米 本田商店(福岡県久留米市)
118P 風格ある老舗の余韻 潘陽軒本店(福岡県久留米市)
121P ここのは「焼きめし」だ 丸好食堂(福岡県久留米市)
124P 残してくれて感謝 めん屋一重(福岡県広川町)
128P 継がれるべき味 三福(福岡県八女市)
131P 「ペルーに行っとったから」 ペルー軒(福岡県うきは市)
134P 愛されるゆえの「公衆」 光華園(福岡県大牟田市)
138P ほかにない満足感 白龍(福岡県須恵町)
142P ドラゴンロードの古参 喜龍(福岡県志免町)
144P いつも「何食べようか」味のまるい(福岡県福津市)
147P 学生起業家の「やりたい」こと 武志(福岡県飯塚市)
150P 「無」が「有」を強調 来来(福岡県飯塚市)
152P 寿司を食べながら 四方平(北九州市小倉北区)
155P 札幌の味噌はいい 麺屋玄(北九州市小倉北区)
158P 味だけではない〝濃さ〟 丸和前ラーメン(北九州市小倉北区)
160P 両親から姉弟に 月天(北九州市小倉北区)
162P 愛情込めた「あのラーメン」 圭順(北九州市門司区)
165P 佐賀の味を北九州で クモノウエ(北九州市八幡西区)
168P 「わが命削ったスープ」 南京ラーメン 黒門(北九州市若松区)
コラム
172P ご当地、〇〇系ラーメン
佐賀・長崎
178P 名物の味噌 支える豚骨 東洋軒(佐賀市)
182P 人気はうどんの倍以上 うどんの佐賀県(佐賀市)
186P 母子でつくる佐賀の味 駅前ラーメン ビッグワン(佐賀市)
189P 「引き出す」味とは テルテルラーメン(佐賀市)
192P これぞ佐賀ちゃんぽん 若柳(佐賀市)
194P じんわり日常の味 東洋軒(佐賀県多久市)
196P ラーメンの鬼の系譜 らぁ麺むらまさ(佐賀県唐津市)
198P 場所を継ぐこととは 竜里(佐賀県唐津市)
200P 名物ラーメンの源流は 餃子会館(佐賀県武雄市)
204P 名キャッチコピーが二つ 来久軒(佐賀県武雄市)
207P 人生の再出発叶えた一杯 松福(佐賀県鹿島市)
210P ちゃんぽんが誕生 中華料理四海樓(長崎市)
214P 山岸イズムを継承 長崎大勝軒(長崎市)
218P 突き詰めた「どうつくるか」 ノギ中華そば店(長崎市)
222P 意外に合う! 麺也オールウェイズ(長崎市)
224P 己を貫く頑固さ 餃子菜館 万徳(長崎市)
227P 「おでん、ビールも」が佐世保流 お栄さん(長崎県佐世保市)
230P 始まりはハイカラおじさん あづまや(長崎県西海市)
234P 吸い寄せる紅い看板 宝来軒(長崎県五島市)
コラム
238P 山麺部 山頂で「いちげん。」を頂く
大分・熊本・宮崎・鹿児島
244P 「やっぱり水がいい」 竹田の中華 そばこっとん(大分県竹田市)
248P 際立つ濃密さ 二代目ラーメンカヨ(大分県佐伯市)
252P あるべき姿のご当地麺 天津(大分県佐伯市)
255P 各地に伝わるプノンペン 中華さと(大分県日田市)
258P 焼きそばでなくラーメン 三久(大分県日田市)
262P 歴史の重みも味 宝来軒(大分県中津市)
265P 「わりかしフレンドリーな店やけんな~」 きりん亭(大分県別府市)
268P 食べ手も、つくり手も自由 ラーメンショップ 山香店(大分県杵築市)
272P 歴史も一緒に頂く 若竹食堂(熊本県水俣市)
274P 伝わったものを育む 天琴(熊本県玉名市)
278P 老舗は思い出も背負う 桂花ラーメン(熊本市中央区)
282P やはり裏通りが好き 埼陽軒(熊本市西区)
285P 川崎の地元麺? 確かに 辛麺本舗さやか(宮崎県延岡市)
288P 羊羹みたく運ばれて 再来軒(宮崎県延岡市)
292P 二つの屋号の意味 きむら 大淀店(宮崎市)
296P ぷ~んと獣臭の味 拉麺男(宮崎市)
300P トレンドに左右されない 来々軒(宮崎県小林市)
304P スープより麺が先? ざぼんラーメン(鹿児島市)
308P 指宿の吸引力の一つ 麺屋二郎(鹿児島県指宿市)
コラム
310P 九州豚骨今昔物語
332P おわりに
334P 参考文献
前書きなど
「ヤツらはラーメンを食ってるんじゃない。情報を食ってるんだ!」。小学館発行の漫画「ラーメン発見伝」の人気キャラクター芹沢達也が発した言葉に「なるほど」と思う。物語の中では、皮肉として使われたセリフだが、ある意味真理を突いているからだ。
ラーメンを食べるとき(少なくとも僕は)、単純に味だけを受け取っているのではない。内観、外観などの雰囲気も作用するし、材料の産地やうんちくが示されればそれも気になってしまう。とりわけ興味がわくのが店主のこと。始めたきっかけは? なぜ継いだのか? どこで修業したのか? そのようなライフヒストリーや店自体の歴史も知りたくなる。
ラーメンのスープは、骨自体の品質、火加減、継ぎ足しスープならそのタイミング、客の
入り具合などで味はブレてしまう。しかし、店のエピソードにはブレがない。おもしろい話が聞ければ、それだけでもおいしくもなるものだ。
平成29年に出版した拙著「ラーメン記者、九州をすする!」では、店や店主たちの歴史を掘り下げた。もちろん味も評価してはいるが、グルメ本とは一線を画すことを意識した。
本著のスタンスも同じである。今回は、前作刊行以降に取材した店の中からおよそ
90軒ほどを選んでいる。初出は、西日本新聞朝刊の「のれんのヒストリー」、フリーペーパーぐらんざの「九州麺人生」、共同通信社の「政経週報」への各連載のほか、佐賀・長崎観光振興推進協議会発行のフリーマガジン「S とN」へ執筆したものだが、大幅な加筆・修正をほどこした。ほかにも本書のための書き下ろしも含めている。
振り返ってみると、白濁豚骨ラーメンを九州中に広めた立役者の一人である四ケ所日出光さんへの生前インタビューが〝ラーメン記者〟としての活動の出発点だった。九州各地に刻まれている四ケ所さんの足跡も感じることができた。ほかにも、博多で人気の味噌ラーメン店と天神で愛された冷麺店の意外なつながりも聞いた。また唐津の名店・一竜軒の歴史(現在は閉店)をたどると、大牟田の光華園につながった。一竜軒は後の世代にも影響を与え、その味にほれた店主たちが各地に広がっている。
インタビューしているのは個々の店主で、極めて個人的なことを聞いている。ただ、数が集まると点と点が線となり、ラーメンの系譜が浮かび上がったり、九州ラーメンの文化史としてつながったりするのがおもしろかった。それが、次の取材の原動力にもなった。
巻末には「九州豚骨今昔物語」として、九州においての豚骨ラーメンの始まり、広がっていくまでをエッセーにしてまとめている。このコーナーを含めると紹介する店は100軒を超える。ここでは前作で取材した際のエピソードなども若干織り交ぜている。食べ終わったスープに、新しい麺を投入する「替え玉」のような一冊になったのではないか。
ラーメンを食べずとも、単に読み物として楽しめると自負している。県別、自治体別にまとめているので、地元や旅先でのグルメガイドとしても使える。もちろん、読んで、食べてもらえるのが一番うれしいし、ぜひ本書を片手に食べ歩きをしてもらいたい。ラーメンとともに「情報を食って」みませんか。