目次
はじめに
第一章 四つの思考の枠組みで日本の各地に伝わる音楽を聴く
【生態学的思考からアプローチ】
1.樹林帯の分布を手がかりに根っこを探してみる
《はじめよう》
日本文化形成論へなされた問題提起から
《広げよう》
照葉樹林文化とは
照葉樹林文化と稲作文化
ナラ林文化とは
《掘り下げよう》
重層する文化と各地に伝わる音楽の位置
【歴史的思考からアプローチ】
2.音楽の根っこから歴史をたどってみる
《はじめよう》
うたの原始から十九世紀まで
《広げよう》
うたと生活
《深めよう》
二〇世紀 そしてこれから
【哲学的思考からアプローチ】
3.〈神話〉で音楽の樹の断面を透かしてみる
《はじめよう》
各地に伝わる音楽と〈神話〉
《広げよう》
構造主義の立場からみた〈神話〉
〈自然系神話〉と〈社会系神話〉
《掘り下げよう》
新しい〈神話〉の誕生まで
【環境教育学的思考からアプローチ】
4.音楽が生長する!
《はじめよう》
現在の音楽環境
《広げよう》
未来の場所へ
各地に伝わる音楽をゆるやかな循環の発想でみると・・・
《掘り下げよう》
育てていく音楽
第二章 葉山に伝わる音楽より
1.木遣り唄 キーワード:木遣り唄、伊勢音頭、戦争、木古庭、一色
《はじめよう》
木遣り唄とは
《広げよう》
伊勢音頭との関係?
《掘り下げよう》
戦争と葉山の木遣り唄
木古庭の木遣り唄より〈テコ〉
相州葉山一色木遣保存会による木遣り唄より〈テコ〉
ミニコラム〜森山神社の例大祭〜
2.船唄 キーワード:船唄、熊野、真名瀬
《はじめよう》
船唄とは
《広げよう》
熊野との関係?
《掘り下げよう》
今きくことのできる船唄
船唄の歌詞〈松揃〉
3.鎌倉節 キーワード:鎌倉節、猿楽、田楽、ややこ、長柄
《はじめよう》
鎌倉節とは
《広げよう》
猿楽や田楽との関係?
《掘り下げよう》
長柄のややこ
〈新玉〉
〈鎌倉〉
〈淡島様のうた〉
おわりに
参考文献・資料
前書きなど
さまざまな種類の音楽に、出会う機会がある。
自分ならではの音楽表現が、周りの人に受けとめてもらる。
一緒にいる人と音楽を、心のままに楽しめる。
世界を見渡せばもちろんのこと、自分の心のうちや友だちの心の中にも、多種多様な音楽があります。
様々な民族の音楽。ジャズやクラッシック、ポップスなど様々なジャンルの音楽。
自然と口ずさむメロディー。
そこに集う人たちが手拍子や踊りで一緒に楽しみながら生まれる音楽。
これらをはじめ、音楽は、民族の数だけ、人の数だけ創りだされます。その時々の出会いによって生まれる音楽もあわせていくと、
その多様性はまさに、無限ともいえることでしょう。
この多種多様な音楽が、それぞれに認められ、存在できる環境こそが、安心して健やかに暮らせる環境だと私は考えています。
(中略)
さて、この本の題名となっている「根っこのある音楽」。脈々と続いてきた時間の中で、自然と共に暮らす人々が、その環境に根ざして表現してきた音楽のことを、本書では「根っこのある音楽」と呼びたいと思います。
広くみれば、それぞれの人が、それぞれの歴史や文化を背景に、生活の実体験や環境から感じたことを表現する音楽も、「根っこのある音楽」だといえます。
少し狭めてみれば、各地に古くから根づいている音楽、日本でいえば、おはやしや民謡などの音楽も、「根っこのある音楽」だといえます。
これらの音楽を知れば知るほど、この「根っこのある音楽」は、限りない多様性をもった音楽だということが実感されてきます。
こんなにも多様性のある音楽環境を、子どもたちに引き継いでいきたい。このような思いを年々強くしています。音楽の多様性は、楽しく健やかに暮らせる指標だからです。
今、演奏を受け継ぐ者がいなくなり、消えようとしているおはやしや民謡。「根っこのある音楽」は、実際に聴くことのできる音楽としてのおはやしや民謡が消えていくに伴って、その精神までも、姿を消していうとしています。この危機感に対して、現在あるのは、音楽の保存という意識ですが、これからは、この「保存」に加えて、音楽を「共に育てる」意識が求められると考えています。「根っこのある音楽」を木のように育てるという意識です。
昔の音楽を聴くというだけでなく、音楽を「共に育てる」という、この参加型で、かつ未来志向に意識を変えていくことによって、楽しく健やかに暮らせる環境を子どもたちに引き継ぐ可能性を高めることができると考えます。
おはやしや民謡は、生活や労働の中で、そこに集まった人々が音楽に「参加する」ことで表現されていました。けれども、現代では、おはやしや民謡は、お祭りや学校の授業といった場で「耳にする」音楽となっています。
音楽に「参加する」か「耳にする」かという違いだけでなく、音楽に親しむことができる場も変わってきています。かつて、おはやしや民謡を親しむ場は、地域の日常の場でした。けれども今は、地域の日常の場から学校の授業という場へと、音楽に親しむ場が都市部を中心に、変わってきつつあります。
地域に伝わる音楽に親しめる場となるようにするという、もともと地域が担っていた役割の一部を担うようになってきている学校では、伝統的な音楽をどのように指導していけばいいのか、試行錯誤が続いています。私も、暗中模索しながら授業を行ってきましたが、ふと疑問に思ったことを調べたり、地域の方々と交流を重ねていったりしていくうちに、子どもたちに伝えたい「根っこのある音楽」のイメージが形づくられてきました。
いわば、地元の方々との交流や授業実践を重ねる中で生まれた本書ですが、教育にたずさわっている人々が抱えている悩みに、一つひとつ答えを出していくことができるものではありません。
音楽の多様性は、安心して健やかに暮らせる環境の指標。
この観点を軸に、子どもたちのために、より一層、安心して健やかに暮らせる環境を実現するために、総合的な視点で地域に伝わる音楽にアプローチしたのが、本書です。また、そのアプローチ方法を通して、この本を手にしてくださっている方と、音楽を一緒に考えてみたいという本でもあります。