紹介
独創的なテクストは
どのように作り出されたのか
モデルを決め、模倣する――これが伝統的な創作方法であった。
英国近代初期における文芸批評の展開と、ミルトンの『失楽園』から、
古典模倣論の継承と独創性の成立を辿る。
本書は古典模倣論の原理と英国におけるその展開を跡付ける試みである。
1.キケロの模倣論とイデア論 (Orator):自然の模倣の結晶としてのアート(テクスト)が生まれる。次にモデルとしてそのアートを模倣する、即ちモデルを通じて更にイデアを見る。
しかし、モデルとなるアートに施された技術(技巧、芸術)を解きほぐしてイデア探求の秘密を知ることは容易ではない。模倣論が技術的になる理由の大半がここにあると思われる。
2.16世紀アスカムからシュトゥルム、ハーヴェイとカーク、スタニハースト、シドニー、ハリントン、チャプマン、ジョンソン、ドライデンに至るキケロ主義の継承と発展を跡付ける。
3.『失楽園』における古典的キリスト教叙事詩の新しい実践を考察する。古典叙事詩『アエネイス』の枠組みを採るキリスト教叙事詩の成立に迫る。
4.17世紀神学的真実論と新科学思想:模倣論との同質性を指摘し、ドライデンによる模倣と翻訳の新たな試みを見る。
目次
まえがき
はじめに 古典模倣論について
1.キケロの模倣論 イデア論に基づく
2.セネカの模倣と読書論について 『書簡集』84
3.クウィンティリアヌスによる模倣モデルの具体例とその成果:『弁論術の原理』
Institutio Oratoria より
4.模倣と凌駕
第1部 模倣論 アスカムからドライデンまで
1.ロジャー・アスカムの『教師』(1570):模倣の言語的技術について
2.ヨーハン・シュトゥルム『貴族及び紳士のための宝庫』(1570):アートを理解
する技術について
3.ハーヴェイ (1580) とカーク (1579) の書簡より
4.リチャード・スタニハースト「献辞」(1582) より
5.フィリップ・シドニー『詩の弁護』(c. 1583, printed 1595)
6.ジョン・ハリントン『詩の弁護』(1591)
7.ジョージ・チャプマン『ホーマーの弁護』(prefaced to Achilles Shield 1598)
8.ベン・ジョンソン、ホラティウス『詩論』英訳(1640)、『ティンバー』(1641)
付記 ミルトン『アリストテレスの理解になるプラトンのイデアについて』(1628?)
9.ジョン・ドライデン『文芸論』(1667-1697)
(1) 『序文』Preface to Annus Mirabilis (1667)
(2) 『劇詩について』Of Dramatick Poesie, An Essay (1668)
(3) 『英雄詩劇について』Of Heroic Plays: An Essay (1672)
(4) 『詩劇の擁護』Defence of the Epilogue; or, An Essay on the Dramatic Poetry
of the Last Age (1672)
(5) 『英雄詩と破格表現の弁護』The Author's Apology...Prefixed to The State of
Innocence and Fall of Man, An Opera (1677)
(6) 「『トロイラスとクレシッダ』序文」Preface to Troilus and Cressida (1679)
(7) 「翻訳と模倣」Preface to the translation of Ovid's Epistles (1680)
(8) 「続翻訳論」Preface to Sylvae (1685)
(9) 「英語の特徴」Preface to Albion and Albanius, An Opera (1685)
(10) 「近代叙事詩論」A Discourse concerning Original and Progress of Satire (1693)
(11) 『詩と絵画』A Parallel of Poetry and Painting, prefixed to version of Du Fresnoy
De Arte Graphica (1695)
(12) 「叙事詩総論」Dedication of the Æneis (1697)
第2部 ミルトン キリスト教叙事詩に向けて『失楽園』「航海」とキリスト教叙事詩
おわりに 神学的真実論と新科学時代
書 誌
あとがき