目次
『ジェンダーレンズで見る刑事法』
後藤弘子・島岡まな・岡上雅美 著
【目 次】
●1 プロローグ
1 ある日の裁判所の風景
2 ジェンダーレンズで見る必要性
3 家父長制とジェンダー
4 男女平等と法
5 この本で学ぶこと
◆第1部 刑事法全体をジェンダーレンズで見なおす
●2 犯罪を見なおす
1 「女性に対する暴力」への刑法の対応
2 刑事法の概要
3 刑法典(立法)に潜むジェンダー・バイアス
4 刑法の解釈に潜むジェンダー・バイアス
5 なぜ,刑法においては,被害者の立場に立ったジェンダー意識が遅れているのか
●3 刑事裁判を見なおす
1 トラブルの法的対応
2 国内法における刑事手続の特徴
3 刑事手続の概略
4 日本の刑事手続の特徴と問題点
5 ジェンダーレンズから見た刑事手続の問題点
6 刑事手続と裁判員裁判
7 有罪判決の結果:刑罰制度
8 刑罰の合理化:刑罰目的
9 日本の犯罪の現状―安全の国ニッポン?
10 「犯罪処理」の仕方
11 ジェンダーレンズから見た犯罪者処遇:女性犯罪と男性犯罪
●4 犯罪被害をみなおす
1 犯罪被害者とは
2 犯罪被害者として承認されることの困難
3 犯罪被害者の多様性
4 被害者が越えなければならないハードル
5 犯罪被害者に用意されている制度
6 犯罪被害からの回復ために
◆第2部 個別問題をジェンダーレンズで見なおす
●5 セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・ライツ
1 堕胎罪のジェンダー差別性
2 正当化要件を定める母体保護法
3 性と生殖の権利―歴史的展開
4 死体遺棄罪の処罰をめぐる問題
5 ジェンダーレンズで見た生殖をめぐる日本の問題と対処方法―SRHRを守るために
●6 性犯罪
1 これまでの状況
2 不同意性交等罪への改正
3 裁判(司法)における性犯罪の処罰
4 刑法で処罰が難しい性犯罪―性犯罪規定に被害者視点を
5 冤罪防止のために何ができるか
6 性犯罪根絶のために
7 性暴力のないジェンダー平等社会へ
●7 性の商品化(〈児童〉ポルノ・売春・JKビジネス等)
1 ポルノ問題―刑法のわいせつ物規制は適切か
2 売春・児童買春に対する刑事法の対応
●8 ドメスティック・バイオレンス
1 ドメスティック・バイオレンスの真の問題性
2 DV問題の解決は難しい
3 DV防止法
4 DV防止法を実効性あるものにするために―DVはそれだけにとどまらない
●9 児童虐待
1 児童虐待の現状
2 虐待を受けた子どもの被害
3 暴力の連鎖
4 児童虐待防止法と刑法
5 児童虐待の刑法的対応
6 児童虐待防止をより実効的なものにするために―児童虐待は特殊な人の犯罪か
●10 ストーカー犯罪
1 ストーカー犯罪対策としての刑事法
2 ストーカー犯罪に対する刑事規制の難しさ
3 ストーカー規制法
4 ストーカー問題の望ましい解決とは?
●11 薬物犯罪
1 薬物犯罪の種類
2 日本における薬物政策
3 女性と薬物使用
●12 世界の中の「女性に対する暴力」
1 2005(平成17)年刑法一部改正
2 人身取引対策の国際基準
3 人身売買罪の見えにくさ
4 結婚破綻に伴う子の連れ去り
5 「女性に対する暴力」への国際的取り組み
6 国際基準としてのイスタンブール条約
7 乗り越えられるべき「文化的葛藤」
●エピローグ―困っているあなたへのメッセージ
前書きなど
■ジェンダーレンズとは
目が悪い人は,初めて眼鏡をかけたり,コンタクトレンズを入れた日のことを覚えているだろう。それまで,ぼっとして見えなかったものがはっきり見えることで,これまでとは違う世界が目の前に開けてわくわくしたはずだ。では,ジェンダーレンズはどうだろうか。私たちは,ジェンダーレンズをかけることで,世界の何がどう違って見えるのだろうか。
まず,弱いジェンダーレンズをかけてみよう。このレンズは,とても弱いので,多くの場合,気づかないうちに,このレンズをかけていることがある。たとえば,先ほどの法廷に入ったとき,法廷と傍聴席を仕切る柵であるバーの中にいる人たちに,女性が少ないことにあなたが気づいたとすれば,あなたはすでに弱いジェンダーレンズをかけていることになる。
また,さらにジェンダーレンズの精度が上がると,法律だけではなく,法律に基づく運用においても,歪みが見えてくる。
刑事裁判は,刑法という犯罪と刑罰に関する法律と,捜査手続から始まり,検察によって起訴された被告人に対して,裁判所が犯罪が行われたことを認定して,その人に対してどのような刑を科すのかの手続について規定した刑事訴訟法に基づいて行われる。法律の条文は,この社会に起こるすべてのことを網羅的に規定しているわけではないため,当然に解釈の余地が生じる。その解釈を行うのは,起訴するかしないかを決める検察官であり,最終的には裁判官である。
本書は,犯罪と刑事裁判を考える際に,ジェンダーレンズを獲得し,さらにその精度を高めることで,女性の生きづらさや差別を解消し,公正な社会の実現することを目指す。その際に中心となるのは,女性が暴力や犯罪の被害者や犯罪者になる場合である。
「ジェンダーレンズで刑事法を見る」とは,性別を男女の2つのカテゴリーに振りわけた上で,それぞれのカテゴリーに貼り付けられた伝統的な規範のあり方に沿った取扱いが,刑事司法においても行われていることに気づくことである。また,近代はセクシャリティに関しては,ヘテロセクシャルを前提とし,また,性別はトランスしないことを前提としており,多様なセクシャリティのあり方も無視した制度となっていることにも気づけるのである。
(本書「プロローグ」より抜粋)
【執筆者/担当】
・後藤弘子(千葉大学理事・副学長)
担当:1,4,11
・島岡まな(大阪大学大学院法学研究科教授)
担当:2,5,6,7
・岡上雅美(青山学院大学法学部教授)
担当:3,8,9,11,12