目次
心の理論 目次
目 次
1章 減災学をつくる 矢守克也
1 五つのフロンティアを概観する
1-1 はじめに
1-2 減災社会プロジェクト
1-3 個別避難訓練タイムトライアル(2章)
1-4 サイエンスする市民(3章)
1-5 地域気象情報というコミュニケーション(4章)
1-6 被災地の住民がつくる防災教材(5章)
1-7 ことばによる減災アクション(6章)
1-8 減災学がめざすもの(7章)
2 「減災」について再考する─そのための三つの視点
2-1 プラスチックワード
2-2 第一の視点─コミュニケーション
2-3 第二の視点─ツール
2-4 第三の視点─コンセプト
2-5 何のための減災か
2章 個別避難訓練タイムトライアル 孫 英英
1 訓練当事者の主体性を取り戻すには
2 研究フィールドの概要
3 個別避難訓練と動画カルテ
3-1 個別避難訓練の実施の流れ
3-2 動画カルテの作成
4 個別避難訓練における「主体性」の回復
4-1 Aさんの事例
4-2 Bさんの事例
4-3 Cさんの事例
5 まとめ
3章 サイエンスする市民 矢守克也・岩堀卓弥
1 はじめに
2 阿武山観測所サイエンス・ミュージアム化構想
2-1 始動(2011年度)─観測施設からアウトリーチの拠点へ
2-2 転機(2012年度)─《阿武山サポーター》の誕生
2-3 発展(2013年度以降)─《サポーター》が自ら、そして外へ
3 満点計画学習プログラム
3-1 「満点計画」とは?
3-2 小学生が担う地震観測
3-3 満点計画学習プログラム
3-4 「担う」ことがもたらすこと
3-5 試行錯誤と今後の展望
4章 地域気象情報というコミュニケーション 竹之内健介
1 はじめに
1-1 あなたにとって気象情報はどんなもの?
1-2 地域の歴史と減災とのかかわりについて
2 地域気象情報とは
2-1 リスク・コミュニケーションの観点からみた気象情報
2-2 地域気象情報に含まれる三つの視点
3 伊勢市中島学区での取り組み
3-1 伊勢市中島学区の地理的特徴
3-2 取り組み・─生活防災
3-3 取り組み・─防災イベント
3-4 取り組み・─地域気象情報
3-5 伊勢市中島学区における現在の取り組み
4 地域気象情報がめざす社会のすがた
5章 被災地の住民がつくる防災教材 李昕(フシン)
1 はじめに
1-1 複合災害時における判断の難しさ
1-2 「住民主体」とは何か
2 「クロスロード:大洗編」を導入するまで
2-1 茨城県大洗町の地理的特徴と被災状況
2-2 大洗町の復興に向けた地域の取り組み
3 「クロスロード:大洗編」の取り組み
3-1 「クロスロード」とは何か
3-2 「大洗編」の実践
3-3 「大洗編」の効果と反響
4 「クロスロード:大洗編」の意義
4-1 明確化・可視化
4-2 共通化・共有化
4-3 主体化
5 今後に向けて
6章 ことばによる減災アクション 近藤誠司
1 はじめに
2 ことばの創造力
3 「ぼうさい夢トーク」におけることば
3-1 等身大のことば
3-2 科学者である前に人である
3-3 過去の交絡─人としての歩み
3-4 未来の交絡─夢見ることばたち
3-5 当該実践の創造的なポテンシャル
4 「KOBE虹会」におけることば
4-1 溶け合うことば
4-2 現在の交絡─あるいは、他者との交歓
4-3 当該実践の創造的なポテンシャル
5 ことばの世界を超えて
7章 減災学がめざすもの 宮本 匠
1 防災と減災
2 孤独死が問いかけたもの
3 減災の主体
4 減災と復興
5 「Xがない」問題
6 減災の主体形成
7 「めざすかかわり」と「すごすかかわり」
8 本書の結びに
あとがき
文 献
■装幀=桂川 潤
前書きなど
心の理論 あとがき
そこを訪れたときに、「今日は、○○さん、××くんは、いないの?」と、研究室の学生について尋ねられたとき、「ああ、もう私の出番は終わったな」と感じます。その集落、その町で、学生のことを多くの方々に知っていただき、また気にかけてもらえるような状況になっているとき、減災学は、少なくとも大きく道を踏み外していることはないと判断しています。学生たちが、そして筆者自らが、名も姿もある「人」としてにあらわれているかどうか─防災学ならぬ減災学においては、この点が重要な試金石となるということです。
それは、なぜでしょう。減災学では、すべてとは言えないかもしれませんが、ほとんどの場合、減災の対象となる生命・財産の持ち主、すなわち、当事者との接触─言いかえれば、当事者とのコミュニケーション─が不可欠だからです。もちろん、これまでも、防災啓発や教育、アウトリーチといった言葉で、コミュニケーションは重視されてきました。しかし、「巨大地震が最優先、いや頻度で言えば風水害も」など、何をコミュニケーションするか(“what”)、あるいは、「見やすいハザードマップが大切、ワークショップなど参加的な手法を」など、どのようにコミュニケーションするか(“how”)ばかりに関心が集まり、一つの重要な要素が欠落しがちでした。それこそが、だれがコミュニケーションするか(“who”)です。「人」としてにあらわれるとは、コミュニケーションに足る人物として当事者に認めてもらうこと、さらに踏み込めば、自らが半ば当事者になることと言えるでしょう。
このように書くと、「マニュアル」「標準化」「形式知」といった単語で特徴づけられる方向性をめざす方々から批判を受けること、必定です。「その人にしかできないことではダメだ」「百歩譲ってその現場はいいとして、水平展開はできるのか」と。ある意味で、ご指摘の通りです。“who”を重視するとは「その人」に縛られるということだからです。しかし、減災学のこうした特徴は、「その人」に触発され、導かれ、その活動を発展的に継承しようとする次の「その人」を生むことを阻むわけではありません。それどころか、「その人」と呼ぶにふさわしい人は、そのようなポテンシャルを力強くもっていることが多いものです。固有性や特殊性は、その伝播力において、普遍性や一般性に無条件で劣るわけではありません。現に、だれにでも通用するはずの「マニュアル」が、結局だれからも使われなかったという手痛い経験を私たちは何度も味わってきました。
他方で、ここで言う「人」の重要性を強調した途端に、調査・分析の作業や論理的な思考といったプロセスを軽視し、一足飛びに研究活動を全体として度外視するような態度を招くことも、もちろん問題です。減災学はあくまで一つの学であり、そうである限り、その内実が問われるのは当然のことです。コミュニケーションに値する中身(“what”)がないままに、また、コミュニケーションのための新たな工夫(“how”)を凝らすことを怠った状態で当事者の前にあらわれてみても、それは学の責任放棄に等しいでしょう。本書で紹介してきた減災学のフロンティアとは、このような困難な格闘の最前線という意味でもあります。
ここで、本書の成立の背景についてごく簡単に記しておきます。京都大学防災研究所では、文部科学省の特別経費による支援を得て、2012年度から15年度まで4年間にわたって、「減災社会プロジェクト」(正式名称:「巨大地震津波災害に備える次世代型防災・減災社会形成のための研究事業―先端的防災研究と地域防災活動との相互参画型実践を通して―」、研究代表者:矢守克也)を進めてきました。本書は、その研究成果をとりまとめたものです。「減災社会プロジェクト」は、言うまでもなく、研究開始の前年に起きた東日本大震災が突きつけた重い課題を踏まえて企画・実施したものです。残された課題は多いですが、こうして書物の形でいったん区切りをつけて、その成果を世に問うことができたことをうれしく思っています。
最後になりましたが、「減災社会プロジェクト」を支えてくださったすべての方々、特に、現場で減災学をつくる活動を共に展開してくださったみなさまに心からお礼を申し上げます。
2016年2月
編者を代表して
矢守克也