目次
◆ねむり学入門――目次
目 次
ねむり学入門・目次
はじめに i
第1章●眠りの現状● 世界でいちばん眠っていない国民は?
“遅寝早起き”の日本人
何が睡眠時間を左右しているか
大学生の睡眠時間は
第2章●眠りを眺める● レム睡眠とノンレム睡眠はどう違う?
「眠り」をどう記録するか
脳波=脳が発する電気信号
寝入りばなのサインは「目の動き」
ノンレム睡眠とレム睡眠
脳細胞が活動中の脳波は振幅が小さい
レム睡眠の特徴
明け方に向けて長くなるレム睡眠
睡眠ポリグラフィーと睡眠日誌
第3章●眠るのは脳● 脳のどの部分が眠るのか?
睡眠中枢と覚醒中枢
ヒトはなぜ睡眠と覚醒を繰り返すのか
神経細胞の活動が筋肉に伝わるまで
血流からわかる脳の働き
第4章●寝不足では……● 徹夜明けの運転はこんなに危険!
断眠実験
眠りと「ひらめき」の関係
睡眠不足は脳のリスク
寝ないと老化が早まる!?
寿命が長い人たちの睡眠時間は
寝不足が大事故の原因だった!
第5章●眠りと年齢● 「子どもは夜になったら寝る」!?
赤ちゃんに見るフリーラン現象
地球時刻と生体時計
大人も子どもも「夜ふかし朝寝坊」になりやすい
年齢とともに変わる睡眠時間
昼寝の習慣と文化の関係
「午後2時」の生理的眠気への対処法
第6章●寝さえすればいつ寝てもいい?● ポイントは光と規則性
夜型人間の問題は世界共通
4~6歳児の睡眠習慣と行動との関係
朝の光が脳に与える影響その1――生体時計の調整
朝の光が脳に与える影響その2――セロトニンの働きを高める
夜の光がもたらす危険
生体時計と地球時刻のズレはなぜ生じたか?
第7章●眠気をもたらす物質● 暗くなると出てくるメラトニンの役割
100年前に発見されていた「睡眠物質」
眠気をさますカフェイン、眠くなる風邪薬……
熱の出る睡眠物質「ムラミルペプチド」
さまざまな睡眠物質
子どもの成長に不可欠な「メラトニンシャワー」
第8章●眠りと関係する物質● 「成長ホルモン」をめぐる誤解
夜ふかしは成長ホルモンを減少させる?
成長ホルモンが出やすい時間帯はあるか?
「寝ないと太る」身体のメカニズム
食事と「午後2時の眠気」の関係は?
第9章●さまざまな眠り● 動物たちの眠り方
眠りと遺伝子
寿命が短い「短時間睡眠ハエ」
もし脳が半分ずつ眠れたら
肉食獣はよく眠り、草食獣の眠りは少ない
「ヒトの眠り」あれこれ
第10章●ヒトと光● 夜の光にはご用心!
朝と夜では光の効果が逆転する
生活リズムの日内変動と季節変動
サマータイムは百害あって一利なし
「明るい夜」の脅威
第11章●眠りに関連した病気● 眠れなくても眠りすぎても……
眠りに関連した8つの病気
不眠に悩む大人は5人に1人
睡眠時無呼吸はどのように起こるか
睡眠時無呼吸の予防と治療
ナルコレプシーと睡眠不足症候群
睡眠のリズムがズレてしまう人たち
時差ボケの傾向とその対策
交代勤務者の健康を維持するには
睡眠随伴症――寝ぼけから夜尿症まで
レストレスレッグズ症候群
長時間睡眠者と短時間睡眠者
第12章●睡眠衛生の基本● まずは朝の光を浴びることから
午前中から眠くなる子どもたち
セロトニンとメラトニンを高める行動
昼寝と夜ふかし
過剰なメディア接触が眠りを奪う
「入眠儀式」は安心のためのおまじない
「気合いで早起き」の科学的根拠
ヒトの身体はもっとも身近な自然
第13章●眠りの社会学● 寝不足のまま働きつづける日本人へ
「ウサギとカメ」、もうひとつの読み方
日本人の睡眠時間と労働生産性
精神論はどこまで通用するか
「眠気を吹き飛ばす薬」の功罪
不眠は自殺の引き金になる?
セロトニンがたりないと目先の欲に流されやすい
生きる脳、感じる脳、考える脳
生体時計を考慮した生き方を
第14章●リテラシー● 自分にとってのベストな眠りとは
適正睡眠時間を知る目安
メディア情報の落とし穴
読み聞かせは脳にも効く
第15章●未解決の問題● 眠りのメカニズムは謎だらけ
新生児微笑――筋肉のピクツキはなぜ起こる?
腹時計――食事時間と生活リズム
午前睡――現時点ではすすめられない
習慣時計――生体時計との関係は?
惰眠の戒め――寝すぎはなぜ身体によくないのか
第16章●これから親になるあなたへのメッセージ● 子どもの潜在能力を引き出す眠り
子どもでも実証された「寝ないと太る」
メラトニンシャワーを浴び損ねると?
「夜泣き」の原因はどこにあるのか
「突然死」を防ぐために
赤ちゃんも放っておけば夜ふかしになる
熱が出たら、まず病院?
子どもとしっかり向き合う余裕をもつ
附録●排泄の話● おろそかにしてはいけない快便
おわりに――「医眠同源」の原理を知る
参考文献
図版出典一覧 (6)
索引 (1)
前書きなど
◆ねむり学入門――はじめに
はじめに
昨今、眠りへの関心が高まっています。眠りに何らかの悩みを感ずる人は、日本では4ないし5人に1人にのぼる、とする調査結果もあります。不眠症、睡眠時無呼吸症候群、リズム障害、あるいは過眠症という病名も、しばしば耳にするようになりました。では眠りはもっぱら医学で扱うべき事柄なのでしょうか?
フランス政府は2007年1月に「国民よもっと眠れ」というキャンペーンを開始しましたし、スペイン政府は従来のシエスタの習慣を断ち切るべく、 14時から16時までとっていた昼休みをやめ、2006年1月から公務員の昼休みを正午からの1時間としました。眠りは社会学が扱うべきではないでしょうか?
日本でも2003年に、日本学術会議が、精神医学、生理学、呼吸器学、環境保健学、行動科学の5研究連絡会で報告書を作成し、その報告書をもとに『睡眠学――眠りの科学・医歯薬学・社会学』と題した一般書を刊行しています。
このように眠りの問題は社会的な現象ですが、一方できわめて個人的な生理現象でもあります。睡眠時間が短くて済む人もいれば、たっぷりと寝ないと体調を保てない人もいます。夢をみない、という人もいれば、毎晩夢をみて疲れ果ててしまう、という人もいます。では、眠りに関して何を当てにすればいいのでしょう。眠りには個人差が大きいからでしょうか、眠りに関する正しい知識が、正確に伝わっていない面も多々見てとれます。たとえば「眠れない」ときに、日本では医師に相談するよりも、寝酒に頼る人のほうが多い、という調査結果があります。しかしアルコールで寝つきはよくなるかもしれませんが、しばらくすると覚醒作用が前面に出ることがわかっており、眠る目的でアルコールを使用することは、適切ではありません。
実は日本では、医学部においても眠りをきちんと教育する場は必ずしも多くはありません。先の寝酒の話からもおわかりのように、眠りは医学あるいは医療の中でまだまだ十分な地位を確保していません。眠りに関する正しい知識を伝えるべき医師の教育状況がこのていたらくなわけですから、眠りに関する正しい知識の普及には、まだまだ時間がかかりそうです。
そのような現状の中、私が医学生ではない大学生に「眠り」の講義をする機会をいただいてから、今年で6年になります。当初はグループでの議論と発表を主体とし、学生諸君の意欲を引き出そうとしたのですが、批判なく漫然とインターネット情報をコピーしペーストするという方法が幅を利かせ、所期の目標達成は困難でした。
そこで、3年目以降は講義を主体としました。講義では、「眠り」の医学的な面について触れることはもちろんですが、「日常生活の中での眠り」に重点を置いて、眠りに関する正しい知識を整理することを中心に話を進めることとしました。これが睡眠学とは違う、もっと平易な「ねむり学」です。「睡眠学」では「まだ解明できていない」事柄が多数あることでしょう。しかし日常生活の中では、そのような事柄についても何らかの対応を迫られるわけです。そしてその対応を考える際の考え方の基本、とでも言うべきものについて理解を深めることが「ねむり学」と考えるに至りました。
講義を続ける中で見えてきたのは、「身体の声に耳を傾ける」という、健康教育の基本とも言うべき事柄でした。そこで感じたのは、睡眠→医学→理系という従来の学問体系ではない、より基本的な統合領域に「ねむり学」がおかれるべきなのではないか、ということです。願わくば、社会学、経済学、政治学等々いわゆる文系の学問を学ぶ方々にもぜひ「ねむり学」を学んでいただきたいと思います。
講義内容は筆者の種々の出版物に個別に掲載されてはいますが、やはり全体的な流れと統一性には欠けます。そこで「ねむり学」について総合的な理解が得られるテキストの必要性を深く感じたことが本書執筆の動機です。
各章は実際の講義に即した形式をとりました。講義でははじめに「課題」を提示し、各自に5分程度の時間で答えを書いてもらっています。頭のアイドリングです。そして講義の最後には、「この章のメッセージ」として、まとめを提示しています。本書を読むにあたって、「課題」と 「この章のメッセージ」 をどのように利用するかについては、読者の工夫しだいです。むろん本書に示した 「この章のメッセージ」 が、その章の唯一無二の 「メッセージ」 であるとは限りません。プラスアルファの 「メッセージ」があれば、ぜひ教えていただきたいと思います。なお私は小児科医です。そこで最後に、「これから親になるあなたへのメッセージ」と題した一章を書かせていただきました。本書が大学での講義のみならず、さまざまな場面で利用されることを期待します。
なお参考文献は最小限にとどめました。拙著『睡眠の生理と臨床 改訂第2版』(診断と治療社、2008)に掲載されていないものの重要な文献を選択して、巻末に章別に参考文献として掲載しました。