前書きなど
流通業は「現場が全てだ!」とよく言われます。流通業の経営者の中には、常に店舗見学を行い、現場で見つけた問題点を指摘し、それを実際の経営に生かしている例が少なくありません。いわゆる「現場主義」です。
一方、セブン-イレブンの生みの親である鈴木敏文氏は、店舗見学をほとんど行わないことでしられていました。本社オフィスで刻々とレポートされる数字を基に仮説を構築していました。まさに「数値主義」です。本書は、「現場主義」と「数値主義」のどちらか一方に与するものではありません。むしろ、多くの人間にとって、「現場主義」と「数値主義」の間の“中庸”にこそ正解があるのではないかと考えています。
しかし、一人の個人が、ある一定の時間だけの見学経験だけに頼って、その店舗や、その店舗を運営する会社全体のことを語るのは、正確性に欠いた議論になりがちです。
見聞きしたものを客観的にすることではじめて、「現場主義」の言説は真に説得力を持ちます。その検証の際に、大きな助けとなるのが“決算書”なのです。決算書を読めるようになると、店舗で見聞きしたものを唯一の真実として思い込むのではなく、自分の初期的な観察の正否を、客観的にチェックできます。
逆に、決算書から類推した現場のイメージをあらかじめ持って店舗に行くことで、視覚や聴覚など五感に頼り切らず、理性を使って、店舗見学をより高次のものにすることもできます。前出の鈴木氏のように超人的な経営の天才を除けば、店舗での経験的知見を抜きにして流通業を語ることは困難です。時間的に限られた店舗見学を、より意味のあるものにするためにも、決算書を読む力は必須なのです。
本書は流通業に携わる全ての人にとって、何らかの気付きがあるように作成されています。多くの方の気付きによって、日本の流通業が前進していくことを願ってやみません。