紹介
オーストラリアを舞台に描かれた文明社会と野性の相剋……
ロレンス“ 最大の問題作”、ついに翻訳なる!本邦初訳!
主人公ジャック・グラントは校則違反により本国イギリスの農業学校から
追放され、「罪人」の心境で親戚を頼ってオーストラリアの農場で働くことになる。
古い文明社会の支配から逃れたジャックは、やがて文明に汚染されていない
オーストラリアの無垢の自然に出会い、原生林での体験をとおして
自分の「内なる魂」に忠実に生きるようと決意する……。
文明社会を拒否し、野生に戻ることに生の意義を見出す主人公ジャックの
選択にはロレンス自身の生の価値観が反映されているとも言える。
こうした観点に立つならば、この小説は、『アーロンの杖』から
『翼のある蛇』にいたるまでのロレンスの「指導性小説」を理解する上で
不可欠なものと見なされる。したがって、小説そのものは、
オーストラリアの女性作家M・L・スキナーとの共作であるとはいえ、
その底にはロレンス自身の文学的価値観が流れていると言っても過言ではない。
またこうした共作形態は、一人の作家によって構築される小説空間の
絶対性という従来の文学的固定観念を疑問視する意味でも興味深い。
複数の小説家のよって創られる作品の問題性は、
ポスト・モダンの文学に通じる部分もある。
さらに、この小説には、オーストラリア独特の自然風景の描写のみならず、
宗主国イギリスと植民地オーストラリアとの政治的、文化的対比も
随所に見られ、また農場で白人の支配のもとで働かされている
黒人(アボリジニー)の生活にも言及されていることから、
ここにポスト・コロニアリズムの視点を導入することも可能であろう。
そうした、意味でもこの小説は興味深いと言えよう。