目次
目 次
はじめに──シベリア抑留とは何か、その問題点の提起
第一章 疑問の残る日露両政府把握の抑留者数と死亡者数
不正確だったソ連政府発表のシベリア抑留者数
疑問の残る日本側の把握の仕方
ロシア側の研究資料に見る抑留者数と死亡者数
第二次大戦時の捕虜──“捕虜”と“抑留者”について
シベリア抑留者たちについてのソ連の初期データの不備
第二章 日本人抑留者収容所の地域的分布と被収容者概数
日本人抑留者収容所支部(分所)数
収容所地区番号、支部、収容所の種類、その分布状況等について
地区別の推定被収容者概数と収容所掌握概況表
第三章 野蛮な抑留者移送と大量の犠牲
だまされての野蛮な抑留者移送の概要
占領地でのソ連軍による不当抑留と略奪
抑留者たちの移送ルートと移動状況
地獄列車での輸送
生き地獄の徒歩移送
収容所間の移動とストルィピンカ車輸送
第四章 日本人抑留者収容所の管理と処罰の仕方
抑留者収容所の管理組織と管理の実態
人権無視の過剰警備と無警告射殺
抑留者たちの人権蹂躙と懲罰や刑罰の種類
野蛮な取調べと拷問
でたらめな裁判と不当判決
囚人収容所と監獄の恐怖
第五章 栄養失調をもたらした抑留者たちの食糧事情
日本人抑留者たちに与えられた乏しい食糧の概要
収容所当局の無責任な対応──抑留者用食糧の横領・横流し
栄養失調をまねいた食事の実態──反人道的なノルマ給食
家畜飼料の給食と飢餓道
仲間同士の間での食い物をめぐる争い
飢餓の中での代用食あさりと中毒死
第六章抑留者たちの強制労働
スターリン政府の囚人や捕虜を用いての強制労働政策
日本人抑留者たちの強制労働の概要
シベリア強制重労働の実際(森林伐採、鉄道建設、炭鉱、建築等)
危険で理不尽な長時間強制労働
抑留者たちの強制労働についての評価をめぐって
第七章 シベリア抑留各地区での死亡状況と死亡者数
抑留者の大量の犠牲とソ連当局の低すぎる数字
抑留者たちの死亡概況
各抑留地の死亡状況(沿海地方、ハバロフスク地方、チタ州、イルクーツク州他)
朝鮮や中国に逆送された抑留者たちの犠牲について
第八章 冒瀆的な死亡抑留者の埋葬と埋葬地の現状及び今後の課題
規則無視・人権蹂躙の死亡抑留者の埋葬
穴や水中に冒瀆的に捨てられた遺体
荒れはてた墓地と消えた墓地
シベリア抑留者たちの無念を忘れないために
シベリア抑留の補償問題等今後の諸課題
あとがき
前書きなど
あとがき
今年二〇一〇年はシベリア抑留が起こってからちょうど六五周年になる。シベリア抑留問題は北方領土問題とならんで、戦後の日ソ(現日ロ)間の大問題と位置づけられながら、結局たいして議論されることもなく、シベリアに放置された元抑留者たちのお墓同様に、置き去りにされてきた。その真相が、抑留者数も死亡者数も抑留生活や強制労働の実態も明確になっていないのにである。様々の問題が未解決のままなのである。それなのにこの問題はこれまでなぜか片隅に追いやられ、なにか蓋をされたみたいになってきた。
そして、この間に帰還元抑留者たちの大部分は他界し、シベリア抑留についてだんだんと話題になることもなくなり、すでに大部分の日本人の記憶から忘れ去られてしまったように見える。もうマスコミなどが取り上げることもまれなので、若い世代の大部分には全く知られていないのが実情である。だから、抑留本は元抑留者たちが自費出版することはあっても、一般の出版社が刊行することはほとんどない。採算が合わないので、敬遠されるのだ。しかし、同胞がこれだけの苦しみと犠牲を払った大惨事をこんなにも容易に忘れ去ってよいものであろうか。抑留の発生、現地での牢獄的な生活、過酷な重労働、数々の犠牲などの抑留問題の真実を明らかにすべきではないのだろうか。不幸にもシベリアの地で果てて、帰国できなかった方々は国のために犠牲になったのであり、荒れ果てた墓地を整備し、あるいは探し出し、なるべく一人でも多くの遺骨を収集し、祖国に持ち帰り、家族のもとに引き渡すのが、国としての責任であり、われわれ国民の義務ではないのだろうか。それだけではとても犠牲の償いも御霊を慰めることもできないとは思うが、そうすることによって少しでも彼らの労苦と犠牲に報いるべきではなかろうか。
今年六月、長らく待たれていた議員立法シベリア特措法が国会で可決成立した。法律は国に元抑留者たちに対して給付金を支払い、他方で、抑留の実態を解明し、埋葬地の整備や遺骨収集などを義務づけている。これは大きな一歩だと思う。ようやくこの問題にのせられていた蓋が取り除かれたのだ。ぜひとも法律を誠実かつ着実に実行してもらいたいと考える。
本書の中に書いたように、ロシアや旧ソ連の抑留各地で近年若い世代が祖国の歴史への関心から日本人抑留問題についても調査研究し、論文やレポートを書くようになっている。それに引き換えわが国ではほとんど調査研究は見られないので、今後はぜひともとくに若い人たちにそれをやってもらいたいと期待している。本書では第二章で抑留各地域の推定抑留者数を、第七章では推定犠牲者数を詰めてみた。数字ばかりで読まされるお方にはたいへんお気の毒に思うが、いわば抑留真相解明のためのたたき台のつもりであえて試みた。それらと、その他いろいろ筆者の思い違いや間違いがあるかもしれないので、ぜひ読者の御叱正とご教示を賜りたくお願い致します。
本書は、シベリア抑留についての前著(『シベリア強制抑留の実態』)と、その後収集した日本とロシアの関係資料を調査吟味し、一人でも多くの人にその真相を知ってもらい、この問題の風化に少しでもブレーキをかけられないものかと願って執筆計画を立てた。そして、本来はもっと大きな本とする予定で原稿を用意していたが、小型でないと出版は無理であることが分かり、だんだんと縮小することになった。そしてようやく彩流社が一般向けシリーズ「歴史に学ぶ」を企画していることを知り、本書の刊行目的とも一致するので、それに入れてもらうことになった。シベリア抑留問題こそはその歴史に最も学ばねばならないことは明白であるからである。
とにかく前著に引き続いて、彩流社の竹内淳夫社長がお引き受けくださり、原稿は陽の目を見ることができた。そのような事情で本書はそのシリーズのサイズに合わせて元原稿をかなり縮小せざるを得なかったが、しかし、主要部分はそのままであり、シベリア抑留について読者の皆さんにはある程度分かってもらえると考えている。それによって、微力ながら少しでも抑留問題の風化を食い止めたいという、本書刊行にかけた筆者の願いは一応達っせられるのではないかと期待している。氏に心から感謝申し上げたい。