紹介
「日韓併合」から100年・・・知られざる日韓の歴史的相克をリアルに描く歴史ノンフィクションの超大作!
「征韓論」から植民地支配へ──── 江戸時代の日朝友好関係が不幸な歴史に暗転する大きな流れを分かり易く伝える。
「わたしは、触れられることの少なかった明治後の時代を、わかりやすく描くことはできないだろうか、と考えていました。この時代の日朝関係がただでさえ複雑なことに加えて、政治的にも思想信条の問題としても難しい問題が絡んでくるので、一般にはわかりにくかったに相違ありません。本書では、史実を踏まえたうえで、主要な人物たちの挙動や肉声を、わたしなりに想像をたくましくして、より具体的なイメージをつくりあげていこうと配慮しました。この百年を見つめながらです。いってみれば、小説的であり物語風の読みもの二部作ということになります。」(「まえがき」より)
目次
この百年を見つめて──まえがき 1
第一章 朝鮮開国
日本海軍軍艦「雲揚」発砲す 14
吹き荒れる洋擾の嵐──江華島事件への歩み 32
李王朝骨肉のあらそい──大院君と閔妃 50
朝鮮は自主の邦なり──日朝修好条規 73
出兵へのかけひき──壬午軍乱 89
開化派と守旧派──政争の構図 105
開化への死闘──甲申政変 123
第二章 李王朝の内紛
外交という名の戦い──天津条約 140
清国軍、日本軍出兵す──甲午農民戦争 160
日清戦争勃発──豊島沖海戦 181
「朕の戦争に非ず……」──黄海海戦 200
勝者と敗者の苦悩──下関条約 221
閔妃暗殺 246
大韓帝国の誕生──日露戦争への期待 270
第三章 大国のはざまで
植民地化への足がかり──日韓議定書 292
日露戦争──にがい勝利 329
大韓国は日本の保護国なり──第二次日韓協約 360
慟哭の日──乙巳五賊と憤死者たち 383
高宗最後の抵抗──ハーグ密使事件 404
前書きなど
この百年を見つめて──まえがき
二〇一〇(平成二二)年のことしは、「日韓併合」百年目にあたります。正確には、一九一〇(明治四三)年八月二十二日に、当時、大日本帝国、大韓帝国と呼ばれていた二国のあいだで調印された条約のことで、その七日後の八月二十九日に、正式に公布されました。韓国・朝鮮では〈朝鮮朝〉もしくは〈朝鮮王朝〉と呼び、日本では「李朝」もしくは「李王朝」と呼んでいた独立王朝国家がこの世から消え去った日でした。
高麗王朝の武将・李成桂があらたに李氏朝鮮王朝を興したのは、一三九二(明徳三)年のことです。李成桂は都を開京(開城)から漢城(現在のソウル)に移し、国号を〈朝鮮〉と定め、自らは初代国王・太祖となりました。日本では南北朝の動乱が終わって、室町幕府が確立した時期にあたります。
その後、第四代国王・世宗の時代に、朝鮮は中国を中心とする内外政に治績をおさめ、独特の文化を向上させました。対馬島主・宗氏を介して日本との歳遣貿易を開始したのも世宗なら、朝鮮固有の文字〈ハングル〉を創製したのもこの国王だったのです。
しかし、第十四代国王・宣祖の時代に、豊臣秀吉の二度にわたる朝鮮侵略が始まります。日本側で「文禄・慶長の役」、朝鮮側で〈壬辰・丁酉倭乱〉と呼ぶ戦乱がそれでした。日本軍は朝鮮全土を完膚なきまでに蹂躙しましたが、朝鮮水軍の勇将・李舜臣や義兵たちの抵抗に遭って挫折し、戦乱は秀吉の死とともに七年目にやっと終わりました。
秀吉が破壊した朝鮮との関係修復に奔走したのは、関ケ原の合戦で豊臣家遣臣団を破り、天下の実権を握った徳川家康でした。一方、宣祖と李朝政府は、戦役中に日本に拉致された捕虜の返還に乗り出します。李朝政府から捕虜返還を求める使節団〈回答兼刷還使〉がそれから十七年のあいだに、三度も来日しました。家康、秀忠、家光がそれに応えています。この間に、日本と朝鮮の関係は、年ごとに改善されていきました。以後、李王朝からの使節団は〈朝鮮通信使〉という呼び名に改まります。両国の善隣友好が確定したからに他なりません。朝鮮通信使の往来は、とくに第十九代国王・肅宗の時代に盛行しました。対馬藩の儒学者・雨森芳洲が活躍したのも、この時期のことです。朝鮮からの通信使の往来は、さきの使節団をふくめ、江戸時代二百六十余年間を通じて、前後十二回にも及びました。そして日本は、明治維新を迎えます。
一方李王朝は、その成立よりここまでに、すでに四百七十余年もの歴史と伝統を誇りつづけてきている……。
かねてからわたしは、日本と韓国・朝鮮の永い歴史のなかでも、触れられることの少なかった明治後の時代を、わかりやすく描くことはできないだろうか、と考えていました。むろん歴史教科書や専門研究書は多数出ていますが、この時代の両国関係がただでさえ複雑なことに加えて、政治的にも思想信条の問題としても難しい問題が絡んでくるので、一般の読者にはわかりにくかったに相違ありません。
そこで、本書では、史実を踏まえたうえで、主要な人物たちの挙動や肉声を、わたしなりに想像をたくましくして、より具体的なイメージをつくりあげていこうと配慮しました。この百年を見つめながらです。いってみれば、小説的であり物語りふうの読みもの『李朝滅亡─自主の邦への幻影と蹉跌─』と『日韓併合─李朝滅亡・抵抗の記憶と光復─』の二部作ということになります。このような歴史ノンフィクション・ノベルの手法が功を奏すか否かはあくまでも定かではありませんが、複雑な日韓関係の歴史と現在を理解する一助になれば幸いです。