紹介
「降りてゆく生き方」「弱さを絆に」の名の下に当事者主権を実現した当事者研究。「何の資源もない」浦河だからこその革命的活動。だからといって弱くて無力で前向きな支援者たちが何もしなければ何も生まれなかった。浦河赤十字病院精神科医・中尾衛による地域中心の精神科医療の理念に支えられて1984年に設立された浦河べてるの家は,精神障害者が直面する生活上の困難を個人的な問題に矮小化せず,一人の地域住民の切実なニーズとして社会化すること,いわば「自分の苦労をみんなの苦労に」「みんなの苦労を自分の苦労に」のプロセスを重視して,当事者主権を実現してきた。そしてその成立プロセスを下支えしてきた支援者たちの実践は,当事者自身の問題を奪うことなく静かに伴走し,当事者主体の問題解決を可能にしてきた。当事者と支援者と地域住民が手を取り合って結実した「べてるの地域主義」は,医療中心主義を転覆させ,医療から解き放たれた当事者が地域に根差して生活するコミュニティ支援の現在形を指し示している。コミュニティ全体に浸透する「共助」の理念に貫かれた,希望へと降りてゆく共生の技法――そのすべての足跡がここに示される。
目次
推薦の辞:野中 猛
はじめに:向谷地生良
第1部 浦河べてるの家とコミュニティ支援
第1章 浦河におけるコミュニティ支援:向谷地生良/川村敏明/渡辺さや可(特別ゲスト)
第2章 浦河におけるコミュニティ支援(総論):向谷地生良/小林 茂
第3章 浦河べてるの家と臨床心理的地域援助:小林 茂
第4章 当事者が仲間を、そして自分自身を助けること―セルフサポートセンター浦河の実践から:伊藤知之/本田幹夫
第5章 安心してサボれる会社づくり―浦河べてるの家の就労支援:池松麻穂/秋山里子
第6章 浦河べてるの家の障害者支援と防災活動:井上 健/朴 明敏
第2部 浦河べてるの家のコミュニティ支援の展開
第1章 地域につなげること―精神科デイケアを介した当事者のためのコミュニティ支援:大濱伸昭
第2章 当事者のための権利擁護とコミュニティ支援―べてるの仲間のお金の苦労と地域生活:池亀直美
第3章 子育て支援と浦河管内子どもの虐待防止―ネットワークの取り組みから:伊藤恵里子
第4章 浦河町の社会教育行政とコミュニティ支援―浦河べてるの家とのパートナーシップ:浅野浩嗣
第5章 浦河赤十字病院医療相談室での実践を通して:高田大志
第6章 つながりの子育て支援―浦河町教育委員会・共育相談「元気」の取り組みから:吉村明美/小林 茂(聞き手)
第3部 浦河べてるの家のコミュニティ支援の未来
第1章 浦河べてるの家の未来形:向谷地生良
第2章 弱さを絆に―べてるのコミュニティ支援を語る:向谷地生良/小林 茂
あとがき:小林 茂