紹介
「私はひたすらに軍人生活の中にのみ人生の哲理を追い求めてきた。」――朴正熙
1961年から1979年までの朴正熙政権期は、韓国にとって未曾有の経済成長を遂げた時代であると同時に、政治的抑圧が激化する時代でもあった。1961年に5.16クーデターで政権を奪取した朴正熙と彼の仲間たちは、近代化を推し進めるにあたって「軍事主義」を取り入れ、開発独裁を敷いた。
本書は、19世紀後半の朝鮮王朝末期から第二次世界大戦までの時期を精査するなかで、植民地期の満洲国軍官学校の世界へと足を踏み入れ、韓国近現代史の核心へと迫る。若き朴正煕らが、満洲において日本陸軍の文化と行動様式を徹底的に吸収し、その教育と訓練をやがて統治のひな形にしていく過程を明らかにする。
日本語や韓国語の膨大な資料のみならず、韓国人、日本人、中国人の元軍校生たちへのインタビュー調査をもとに、朴正熙が体現する「軍事主義」の起源を探る壮大な試み。
【日本版刊行に寄せてエッカート氏からのメッセージ】
現代韓国史を理解するうえで、朴正煕とその軍事政権がもたらした政治経済的変化は決定的に重要である。しかし、さらに重要なことは、朴正煕ら軍人が誕生し、社会で台頭し、政権を握るまでに至った歴史自体が、近現代の朝鮮社会の根源的変化を示す重要な指標であるという点である。本書は「軍事主義」をキーワードに、朴正煕らが育った歴史的背景と彼らが受けた満洲国と日本での士官学校教育の意味を、朝鮮近現代史の視座から問い直す。
目次
まえがき/日本語版まえがき
序論
第一部 軍事化の歴史的背景
第一章 軍事化の時代――戦争の波
時間軸/グローバルな連環/朝鮮王朝軍/軍事化の第一波/大院君による初期の軍事化/新しい軍事知識の流入/朝士視察団/1880年代の軍事化──高宗主導の国家改革/1894年以後の軍事化/大韓帝国期の軍事化/新軍の創設/軍の拡大と発展──1895~1904年
第二章 精神の軍事化――陸軍と民族に関する新思考
兪吉濬(1856~1914年)/朴泳孝(1861~1939年)/「武」という価値/朝鮮王朝末期の武徳/併合後への影響と連続性
第三章 場所と人の軍事化―――士官学校と生徒たち
軍事化の第二波と植民地朝鮮の学校/士官学校の歴史/軍事化の第二波と士官学校/満洲国軍/中央陸軍訓練処/満洲国軍官学校/満洲国軍官学校の生徒/軍への愛着/ナショナリズムという問い/軍校生活への楽しみ/将校を目指す男、朴正煕/模範的な生徒、朴正煕/熱狂的な生徒、朴正煕
第二部 士官学校の文化と行動様式
第四章 政治と職分――殊遇」の身分
場所/外観/言語/身体/娑婆からの隔離/軍の枢軸/侍の英雄との絆/明治維新の後継者/戦勝の歴史の後継者/天皇の股肱/象徴的存在としての天皇/物理的な存在としての天皇
第五章 政治と権力――特異な職分
反逆としての明治維新/脆弱な憲法体制/陸軍と世論の反応/朝鮮王朝後期との共通点/ 1930 年代に受け継がれた朝鮮王朝の伝統/満洲事変の遺産/政治的避難所としての満洲/満洲国における軍官学校位置づけ/陸士での根強い昭和維新支持
第六章 国家と社会――革命、改革、統制
前近代の遺産/資本主義に対する批判/革命――マルクス主義と左翼/日本帝国内のマルクス主義と民族的ナショナリズム/軍校での革命活動/士官学校内マルクス主義研究会/満系内の朝鮮人生徒/改革――昭和維新主義者/資本主義の「悲惨なる壊滅」/革命ではなく「革新」/国家の毒としての資本主義/支配ではなく触媒としてのクーデター/1940 年代の陸士における昭和維新主義/統制――総力戦イデオロギー/陸軍の教義としての総力戦/総力戦と資本主義/軍官学校における総力戦シナジー/原案――基本計画/団結/総力戦の教育
第七章 戦術と精神――必勝の信念
士官学校における攻撃理論/学校での攻撃教育/攻撃の演習/攻撃の指導教官/田原耕三/「攻撃精神」と意志/士官学校における意志の鍛錬──教室内/学校での意志の鍛錬──教室外/士官学校での意志教育──「ズベル」/学校での意志の鍛錬──生徒舎内/必勝の信念/戦術と精神を体現する剣道/戦争末期の激烈さ
第八章 秩序と規律――服従の喜び
日常生活の秩序と規則/服従とヒエラルキー/階級間の双務性/規則を支える例外/上部からの監視/内部からの監視/自己検閲/懲罰/学校の伝統としての「殴打」
結論
軍官学校の終焉/陸軍士官学校の終焉/新たな始まり
注
訳者あとがき
参考文献/朝鮮人軍校生一覧/索引