紹介
預言者ムハンマドによってはじめられた「信仰者運動」とは何だったのか―――。
イスラームはいつ、どのような形でキリスト教やユダヤ教とは異なる宗教として成立することになったのか―――。
▼「イスラームの起源」は近年、盛んに議論されている問題である。
▼特に1970年代以降、イスラーム共同体の中で伝えられてきた、神の啓示と預言者ムハンマドの生涯についての伝承に基づいて構成された従来の歴史像が、ムスリム史料を批判的に検討する歴史研究者らによって再考されてきた。本書の著者、フレッド・マグロウ・ドナーもその一人である。
▼ドナーは、クルアーンを第一の同時代史料として用いるとともに、近年進展してきた貨幣・碑文・パピルス文書の研究、そして考古学の成果、あるいはキリスト教徒などの非ムスリムの手による文献史料についての数多くの分析を統合し、初期イスラームの新たな相貌を提示した。
▼初期イスラーム史研究の碩学が、イスラーム誕生へのプロセスを、入門者にもわかりやすく、そして鮮やかに描き出す。
目次
日本語版への序文
はじめに
謝辞
凡例
図版一覧
第一章 イスラーム前夜の中東
古代末期の中東における帝国
ビザンツ帝国
サーサーン朝帝国
大国の狭間のアラビア半島
メッカとヤスリブ(メディナ)
第二章 ムハンマドと信仰者運動
伝承に基づく預言者ムハンマドの伝記
史料の問題
初期の信仰者運動の特徴
基本となる信仰 / 敬虔さと宗教儀礼 / 普遍的一神教 /
共同体におけるムハンマドの地位 /黙示録的世界観と
終末論的志向 / 攻撃性
第三章 信仰者共同体の拡大
史料
ムハンマド晩年における共同体
ムハンマドの後継問題とリッダ戦争
初期の信仰者共同体の拡大の性格
初期の共同体拡大の経過と範囲
拡大の時代の初期における支配の強化と制度の設立
第四章 共同体の指導者の地位をめぐる争い
――34~73 / 655~692年
第一次内乱の背景
第一次内乱の経過(35~40 / 656~661年)
二つの内乱の間の期間(40~60 / 661~680年)
第二次内乱(60~73 / 680~692年)
内乱についての考察
第五章 イスラームの誕生
ウマイヤ朝の再興と帝国としての課題への回帰
主要な用語の再定義
ムハンマドとクルアーンの強調
三位一体の問題
イスラームの宗教儀礼的慣習の精緻化
イスラームの起源に関する物語の推敲
政治的「アラブ」意識の形成
上からの変化か下からの変化か
訳者あとがき
補遺A ウンマ文書
補遺B 岩のドームの碑文(エルサレム)
用語集
注釈および参考文献案内
索引