紹介
文化の力(ソフト・パワー)は、政治・経済・安全保障に加えて、平和構築を目的とした外交戦略の重要なファクターとなり得るのか――
アチェでは演劇ワークショップが開催され、東ティモールでは伝統織物「タイス」、アフガニスタンでは「イスタリフ焼」の復興活動がおこなわれ、セルビアでは民族混成サッカーチームが活発な活動を繰り広げる。バルカン半島では書物を介した心の傷の相対化を促す活動がはじまり、ユダヤ系の指揮者バレンボイムとパレスチナ系の人文学者サイードは互いの民族融和を目的にウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団を創設した。これらの活動は、各国政府や開発援助機関、NGO、アーティスト、スポーツ選手、現地市民らが重要な担い手となっている。これら実践をつぶさに観察すれば、紛争の解決や平和構築における文化活動の有効性と、それを可能にするそれ自体のメカニズムがみえてくる。
ジョセフ・ナイによって「ソフト・パワー論」が提示されてからおよそ20年。このように平和貢献に文化活動が一定の役割を負っている一方で、そこにどのような限界や課題が生じたか。文化を活用した外交政策、さらには21世紀のグローバル・マネジメントにもたらし得る新たな方向性を検証する。
目次
第1章 文化と紛争、そして平和
1 文化が紛争を誘引するのか
2 紛争統計は何を語るのか
3 文化とは何か
4 アイデンティティとは何か
5 平和とは何か
6 文化と紛争、平和の関係
7平和構築と文化活動
第2章 平和構築における文化の役割
1 対立者間の触媒としての役割
2 紛争の相対化
3 心の平和構築
4 エンパワメント
第3章 スポーツによる融和
1 紛争に利用されるスポーツ
2 スポーツを介した平和構築への努力
3 サラエボ・フットボールプロジェクト(SFP)の場合
4 フットボール・フォー・ピース(F4P)の場合
5 ピース・キッズ・サッカー(PKS)の場合
6 東ティモールにおけるサッカーを題材にした映画『裸足の夢』の場合
7 分断社会の共通言語としてのスポーツ
第4章 紛争地に響く音楽の紡ぐ絆
1 音楽活動にも政治の影
2 紛争地の銃声の中から響く音楽
3 音楽を介した紛争地・被災地支援
4 オーケストラが紡ぐ心の平和構築の響き
5 音楽が紡ぐ絆
第5章 文芸作品を介した記憶への対峙
1 文芸作品がほぐす紛争の記憶
2 南東欧地域の記憶プロジェクトの発端
3 南東欧記憶プロジェクトの系譜
4 ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の記憶
5 ゲーテ・インスティテュートが記憶に取り組む意義
6 文芸作品による記憶プロジェクトの効果
7 紛争の記憶を語る文芸作品の役割
第6章 演劇活動による心の平和構築
1 紛争地の人々による演劇の共同制作
2 紛争地の劇団の海外公演
3 海外の劇団の紛争地訪問・ワークショップ
4 演劇をツールとした啓発活動
5 平和構築における演劇の役割
第7章 伝統文化の再興と誇りの回復
1 文化遺産の保存とその課題
2 伝統文化産業の復興によるエンパワメント
3 平和構築における伝統文化、文化遺産の保存・復興の役割
終章 文化活動を介した平和構築の新たな地平
1 平和構築を促進するメカニズムとしての文化活動
2 平和構築プロセスにおける文化活動の限界と課題
3 平和構築を支えるメカニズムとしての文化活動
4 文化外交の地平を広げる
あとがき
索引