紹介
全国水平社は、二〇二二年三月三日で一〇〇周年を迎える。この『講座 近現代日本の部落問題』全三巻(以下、本講座)は、これを記念して発刊される論文集です。第一巻「近代の部落問題」(担当:朝治武)、第二巻「戦時・戦後の部落問題」(担当:黒川みどり)、第三巻「現代の部落問題」(担当:内田龍史)という、全三巻で構成している。
近現代日本における部落問題の歴史的位置を確認するという作業は、おのずと日本と社会との関係を重視することになる。また民主主義と人権が世界のグローバルスタンダードとなっている今日、部落問題の解決は国際的視野からもアプローチされる必要がある。そのため本講座の性格からして歴史学を中心としつつも、民俗学、社会学、経済学、法学、教育学などからも執筆者の参加を得て、学際的な共同研究の体裁をとることになった。
本講座の企画は、二〇一五年に部落解放・人権研究所の調査研究事業として始まり、編集委員会を組織してから三年間にわたって企画を検討し、最終的には、四二人による原稿を確保することになった。近現代日本における部落問題の歴史的位置を確認するという目標は、当初の予定の通りに達成できたと考えている。
第一巻が基本的に対象とする時期は、近代日本史に即しては、明治維新から男子普選体制が成立するまでの一九二〇年代前半、近代部落史に即しては、「解放令」から初期水平運動までである。第一巻は近代の部落問題を近代日本史の展開に位置づけ、歴史的かつ総体的な理解に接近する。
目次
発刊にあたって
序章 近代の部落問題………朝治 武
一 問題意識と課題/二 部落問題認識の変容と近代部落問題の成立/三 部落の構造的変化と部落差別の発現/四 部落民の主体形成と水平運動の成立
近世社会の身分と身分差別………畑中敏之
はじめに/一 身分と身分差別の社会構造/二 「かわた村」の成り立ち/三 身分呼称と斃牛馬処理/四 地域社会における〈身分・差別〉の諸相/おわりに―近代社会へもち越された課題
維新変革と「解放令」………吉田 勉
はじめに/一 「王土王臣」思想と「土地と人民」の一元的掌握/二 幕藩制的身分・身分支配の解消と頭支配・「本村-枝村」体制の解体/三 斃牛馬処理権と旦那場制の解体、旧被差別身分の「自立」基盤の消失/四 旧被差別身分の農地所持の行方/五 「特殊部落民」表象=近代部落問題成立への接続をめぐって/おわりに
文明開化・自由民権と部落問題………石居人也
はじめに/一 「開く」知をもたらすものとしての文明開化/二 部落問題における文明開化の両義性/三 文明開化から自由民権運動へ/四 自由民権運動が被差別部落に持った意味/おわりに
初期社会主義と部落問題………福家崇洋
はじめに/一 「人種主義」としての部落問題/二 「第二の革新」の呼び掛け/三 「人種」問題と人種問題の交錯/四 「人種」差別批判の先に/五 『破戒』の波紋/おわりに
近代天皇制と洞村移転………高木博志
はじめに/一 「神武創業」と神武陵の系譜/二 一九一七年の洞部落の移転/三 紀元二千六百年記念事業と橿原神宮神苑/おわりに
被差別部落の類型と存在形態………小林丈広
はじめに/一 同和地区精密調査報告における類型把握/二 調査報告から見る地区の沿革/三 「解放令」後の変化/四 農村的地区の有り様/五 四類型とは何か/六 「部落産業」と「新しい部落」/七 部落再生産のメカニズムと部落の対応/おわりに
近代学校教育と部落問題………伊藤悦子
はじめに/一 近代学校教育の開始/二 学区からの排除と貧困対策/三 「部落学校」の諸相―独立校の教育と共学の要求/四 統合後の差別と就学対策/おわりに
地域社会と部落問題………井岡康時
はじめに―小論の問題意識/一 近江国―滋賀県における研究の概要と被差別部落の存在状況/二 滋賀県における町村制の施行と部落問題/三 滋賀県の地域社会と部落問題をめぐる論点/おわりに
越境する人の移動と被差別部落………廣岡浄進
はじめに/一 越境をめぐる語り/二 帝国日本の移民事業と部落問題/三 アメリカ移民の歴史経験と日本国憲法/おわりに
部落改善運動の形成と展開………白石正明
はじめに/一 明治二〇年前後の柳原庄/二 柳原町と進取会の発足/三 柳原町進取会のあゆみ/四 大阪府会議員候補森秀次をめぐる差別事件/おわりに
部落改善・融和政策と差別撤廃への模索………八箇亮仁
はじめに/一 日露戦後の部落対策と部落問題/二 大逆事件と部落対策の変化/三 大正前期の部落改善・融和政策と洞村移転/四 水平思想の模索/おわりに
社会事業の展開と融和運動………田中和男
はじめに/一 公論のなかでの部落問題の浮上と社会政策・社会事業/二 一九一〇年代の社会事業と融和政策/三 一九二〇年代の融和運動の変容と社会行政/おわりに
全国水平社創立の思想的意味………駒井忠之
はじめに/一 「人の世に熱あれ」の意味/二 「人間に光あれ」の意味/三 焦点としての「ルシファー」/おわりに
初期水平運動と徹底的糺弾………朝治 武
はじめに/一 徹底的糺弾論の形成と深化/二 徹底的糺弾闘争の展開/三 徹底的糺弾をめぐる対抗/おわりに
著者略歴