目次
はじめに
序章 外国人集住団地における日本語教育実習
日本語教育実習開始の経緯
外国人集住地域のボランティア日本語教室
実習先と実習内容
日本語教育実習を履修するにあたって
教室活動の特色
日本語教育実習報告書
第1章 豊田市保見団地の紹介
保見団地の概況(田浦武英)
あたらしい「郷」をめざして
第2章 地域のボランティア日本語教室における活動の実際
1 教室活動内容――「はなしたいこと」と「ききたいこと」
保見ヶ丘日本語教室の活動内容(長谷川めぐみ)
今日何時におきましたか?(立川典子)
2 学習者とボランティアの対等性
おしゃべりが学習(榊原千晶)
学習者とのかかわりの中で(伊藤利香)
自然な私でいること(清水美行)
伝えたいこと(阿部綾)
共感すること(浅井幸美・山本恭子)
3 複数の教授者――「一人の教授者」対「複数の学習者」という形態からの脱皮
アシスタントとしての私(下川栄子)
小学生とおこなったAOTSのボランティア活動(下田薫子)
4 学習者の母語の使用
日本語をはなすべき?(梶原篤)
日本語をおぼえることと視野がひろがること(Marco Sottile)
英語をつかって何がわるいの?(有森丈太郎)
第3章 ボランティアとは?
1 ボランティアとは?
私の変化(伊原香代)
ボランティアとは?(村林直美)
どうしてボランティア? どこまでがボランティア?(栗木梨衣)
それぞれのネットワーク(原田愛里)
教える人・教えられる人、先に来た人・後から来た人(九鬼菜都子)
2 学習者とのかかわり
学習者にメールアドレスをおしえるか/川野 陽子
顔のあるボランティア/宮田 恵子
日本人と外国人の関係―私の町の場合―(吉野量子)
3 学習者の多様性、日本人ボランティアの多様性
日本語習得を目的としない教室(早川恵美)
日本人の多様性(本舘美恵)
第4章 移民の社会
ブラジル人と遊ぶな(神谷佳奈))
フランス人とつきあうな(Marco Sottile)
日系人の帰国に同行する(浅井紀子)
イタリア出身の我が家族(Marco Sottile)
第5章 子どもの教育問題
生卵でのお誕生会(尾木祐子)
外国人の子どもたちと子どもの頃の私(水野 幸織)
来年度の東保見小学校アシスタントのみなさんへ(善家一恵)
文化仲介者の役割(森田綾子)
子どもと過ごした日々(Nguyen Le Due Tien)
終章 あたらしい形態の教育実習の提案
1 日本語教員課程における日本語教育実習
2 教職課程における教育実習
参考関連文献
リポート執筆者紹介
前書きなど
はじめに
「多文化共生」ということばが行政の世界で、「学習者の多様化」ということばが教育の世界で、よくつかわれるようになりました。一見、今後の社会がむかう姿をあらわすキーワードのようですが、実際のところ、どちらも「たりない部分のおおい人がはいってくるから、うめあわせするために努力しよう」という意味でつかわれていることがおおいように感じます。「たりない部分をうめあわせる」のも、「努力する」のも、たのしいことではありません。そんなことよりも、「なんとなくかわりたい」とおもってみて、かわるために、様々な人とかかわり、自分とちがう部分を発見して、その部分をもらったり、あげたりしていったら、あたらしい世界がひらけて、たのしくなるんじゃないでしょうか。 私たちの実践している日本語教育実習の基本はそんなところにあります。 実習生は、さだめられた枠や目標にむかって、自分にたりないところや未熟な部分を教科書や指導者のもとで、勉強していくのではありません。地域のボランティア日本語教室で、様々な人とかかわり、つたえあいながら、人と関係を構築することで、その人からまなぶということをおこなっています。自分以外の人がそこにいたら、その人が何歳であろうと、どこの国の人であろうと、どんな職業であろうと、男であろうと女であろうと、身体にハンディがあろうとなかろうと……、ありとあらゆる人が、「先生」になります。同時に、自分は、自分以外の人の「先生」でもあり、自分自身の「先生」でもあります。自分自身をふくめた人としての存在そのものが、まなびの対象になります。
自分にたりない部分をうめあわせるために努力していくのではなく、自分と他人のちがいをわかちあっていく、そのようなことを実践していっています。
この本には、実習生が、ボランティアとして、とまどいながら、なやみながら、そしてたのしみながら、活動をしていく過程がえがかれています。それは指導者であり、ボランティアである私もおなじです。地域のボランティアも学習者もおなじです。
みなさんも、この本で、実習生とともに、人と人とのかかわり、つたえあうことを追体験してみてください。
土屋 千尋