目次
まえがき
序章 「日本式介護」の海外進出と本研究
第1節 日本における介護人材不足とアジア進出のニーズ
1-1 介護人材不足の日本
1-2 高齢化が進行するアジア
1-3 「日本式介護」のアジア進出
第2節 「日本式介護」に関する研究
2-1 用語説明
2-2 先行研究の概要
第3節 本研究の目的と構成
3-1 本研究の問いと目的
3-2 本研究の全体像と構成
3-3 本研究の独自性と意義
第1章 日本式介護の受入環境――中国における福祉の「市場化」
第1節 中国における介護市場の展開
1-1 福祉の市場化の背景
1-2 福祉の「社会化」による介護供給主体の多元化
1-3 中国の特色のある福祉の「社会化」
第2節 中国の介護政策の見直しと介護サービス供給の実態
2-1 市場形成を促す政策動向
2-2 介護サービス供給の実態
2-3 中国における福祉の「市場化」の性質と特徴
小括
第2章 中国における日本式介護のニーズ――日本式介護が扱う中国の介護問題の性質
第1節 中国の介護市場の現状
1-1 国内民間事業者の参入状況
1-2 海外事業者の参入状況
1-3 民間事業者による介護サービス供給の特徴
第2節 中国の介護市場における日本式介護の位置づけ
2-1 国が構想する「介護モデル」
2-2 中国における介護供給の課題
2-3 中国の介護供給における日本式介護の有効性
2-4 日本式介護の位置づけ
小括
第3章 日本式介護の現地化プロセス――事例研究を通じて
第1節 事例研究の概要
1-1 測定指標
1-2 事例研究の対象と調査概要
第2節 事例研究の内容
2-1 公設民営形式でデイサービスセンターの経営――日本の介護事業者Aの事例
2-2 「医養結合」型施設の運営――日本の介護事業者Bの事例
2-3 「日本式」の浸透を目指して――日本の介護事業者Cの事例
第3節 事例研究を通じての分析
小括
第4章 日本人責任者が展開を目指す日本式介護――インタビュー調査を通じて
第1節 インタビュー調査の概要
1-1 調査対象者と調査内容
1-2 分析方法
第2節 調査の結果
2-1 【中国の文化・習慣に合わせる】
2-2 【自立支援】
2-3 【相手本位】
2-4 【尊厳の尊重】
2-5 調査の結論
小括
第5章 中国人職員の認識に基づいた日本式介護――インタビュー調査を通じて
第1節 インタビュー調査の概要
1-1 調査対象者と所属施設の概要
1-2 調査方法と分析方法
第2節 中国人管理層の認識
2-1 対象者の属性と介護に対するイメージの変化
2-2 管理層からみた日本式介護
2-3 管理層における日本式介護認識の特徴と限界
第3節 中国人介護職員の認識
3-1 対象者の属性と介護に対するイメージの変化
3-2 介護職員からみた日本式介護
3-3 介護職員における日本式介護認識の特徴と課題
第4節 中国人管理層と介護職員の認識の比較と考察
4-1 管理層と介護職員の認識の比較
4-2 理念の理解と実践のギャップ
小括
第6章 日本式介護への理解のズレとその影響要因
第1節 理解のズレの本質と構造
1-1 日本式介護の理念とは何か
1-2 ズレとは何か――理念理解と実践のギャップ
1-3 ズレの構造モデル――理念の伝達と実践の断絶
第2節 制度的要因から見る理解のズレの背景
2-1 未成熟な介護保険制度とケアマネジメントの不在
2-2 安全偏重の評価制度
2-3 日中の評価制度の比較
第3節 文化的要因としての介護観の違い
3-1 生活習慣の違いが生む実践の葛藤
3-2 「きれい」「自立」「役割」観の違い
3-3 中国人職員の語りに見る変化と可能性
小括
終章 日本式介護の中国進出と今後の展開
第1節 日本式介護の中国展開の到達点
1-1 受入環境としての中国福祉の市場化
1-2 中国における日本式介護のニーズ
1-3 「日本の介護」から「日本式介護」への概念的転換
第2節 理解のズレとそれを超えるための方策
2-1 理解のズレの構造とその背景
2-2 理解のズレを超えるために
第3節 本研究の到達点・限界と今後の展開
3-1 本研究の到達点と限界
3-2 今後の展開
参考文献
あとがき
初出一覧
前書きなど
序章 「日本式介護」の海外進出と本研究
(…前略…)
第3節 本研究の目的と構成
(……)
3-2 本研究の全体像と構成
本研究は(……)、日本式介護の中国進出を多角的に検討する。全体の構成として、まず、日本式介護が中国に進出した事実を前提に、中国における日本式介護の受け入れ環境と日本式介護のニーズについて検討する。具体的には、以下のように進める。序章では日本式介護が中国に進出した経緯や現状を概観する。第1章では、中国の福祉制度と市場環境に注目し、日本式介護を受け入れる構造的条件を整理する。中国は介護問題に対応するため、福祉の「市場化」を推進している。この章では、中国における福祉の市場化の展開とその性質について、文献研究を通じて明らかにする。第2章では、中国における介護供給の現状と課題を通じて、日本式介護のニーズを分析する。中国における日本式介護へのニーズがあるかどうか、また、ある場合にはどのようなサービスがそのニーズに適しているのかを確認する。つまり、中国の介護市場における日本式介護の位置づけを検討する。
次に、日本式介護の現地化の現状と課題を検討する。第3章では、中国に進出した日本の介護事業者がどのようなサービスが提供しているか、そして中国の文化や習慣にどのように適応しつつ、何を維持しようとしているのかを事例研究を通じて明らかにする。そして、日本式介護サービスの中身と特徴を明確にする。第4章では、日本式介護の提供に関わる日本人責任者を対象にインタビュー調査を行う。また、日本人責任者だけではなく、サービスを提供する側の中国人職員も含めた質的調査を通して、特徴を明らかにする。第5章では、中国人職員を対象に調査を行い、中国人管理層と中国人介護職員に分けて、日本式介護の特徴についての認識を明らかにする。
最後に、第6章では第3章から第5章の内容を踏まえ、日本人責任者が展開したいと考えている日本式介護の特徴と、中国人職員の認識に基づく日本式介護の特徴を比較し、両者が日本式介護への理解にズレがあることを明確にし、その影響要因である中国の評価制度および介護観を分析する。終章では全体をまとめ、総合的に日本式介護の中国進出を整理し、今後の展望を述べる。この構成により、本研究は日本式介護の中国進出における現地化のプロセスとその定義を明らかにし、介護事業の国際展開における課題と解決策を示す。