目次
はじめに
序章 研究の背景と目的
1 パーソナルアシスタンスとは
2 パーソナルアシスタンスの歴史的動向
3 小括
第Ⅰ部 歴史と制度
第1章 歴史
1 パーソナルアシスタンスと既存の地域サービス
2 自立生活運動とパーソナルアシスタンス制度
3 LSSの制定
4 小括
第2章 制度
1 理念と定義
2 対象者
3 アセスメント方法
4 給付額・給付対象・パーソナルアシスタント提供者
5 支払い方法と行政への報告
6 小括
第Ⅱ部 実態と評価
第3章 実態
1 パーソナルアシスタンス利用者
2 パーソナルアシスタント
3 小括
第4章 評価
1 各国の評価研究
2 パーソナルアシスタンス利用者への成果
3 家族への影響
4 費用
5 小括
第Ⅲ部 運営
第5章 コミューン
1 形態
2 機能
3 事例
4 小括
第6章 協同組合Ⅰ:親による運営
1 経緯
2 形態
3 機能
4 小括
第7章 協同組合Ⅱ:自立生活センター
1 形態
2 機能
3 事例
4 小括
第Ⅳ部 抑制政策をめぐる主張
第8章 政府の主張
1 LSSとニーズ
2 支給決定の方法
3 担い手
4 費用
5 小括
第9章 障害者団体の主張
1 LSSとニーズ
2 支給決定の方法
3 担い手
4 費用
5 小括
終章 本書のまとめと日本の政策への提言
1 本書のまとめ
2 日本の政策への提言
補遺 知的障害当事者団体によるグループホーム改革
1 グルンデン協会とLSSへの影響
2 メンバーの暮らし
3 グループホーム改革の取り組み
4 小括
引用・参考文献
おわりに
索引
前書きなど
序章 研究の背景と目的
(…前略…)
3 小括
以上のPA制度をめぐる動向を踏まえた上で、本書ではどのような研究の問いを設定し、どのような方法によって研究を行ったのかということについて述べたい。
3-1 研究の問い
第1に、本書では、以下の研究の問いを設定した。すなわち、スウェーデンにおいて、1)PAはいかなる歴史を経て制度化されたのか、2)PAはどのような制度として運営されているのか、3)PA制度はどのように利用されているのか、4)PA制度はどのように評価されているのか、5)各組織は、どのようにPA制度を運営しているのか、6)PA制度の抑制政策をめぐって政府と障害者団体はどのように主張しているのかということである。
これらの検討を通して、スウェーデンにおけるPA制度の歴史や現状を明らかにし、政府によるPA抑制政策を超えて、PAを障害当事者の市民権を実質的に実現させる制度へと展開させるための考え方や方法を探求したい。その上で、日本のPA制度のあり方を検討したい。日本では、PA制度が全国的仕組みとして成立してはいないが、PA制度に限りなく近いサービス形態である重度訪問介護制度をどのように発展させるべきなのかということについての提言を述べたい。
3-2 研究の方法
第2に、本研究の方法についてである。
まず、文献研究として、スウェーデンのPA制度に関わる行政や事業所による統計データや報告書、研究論文や報告書を整理し、分析した。スウェーデン語の日本語訳については、無料ソフトDeepLを活用したり、プロの翻訳家に依頼したりした上で、必要に応じて翻訳内容を修正した。翻訳の妥当性については、インタビュー対象となった団体に随時尋ね、確認する作業を行った。
次に、2017年2月6~17日、2017年9月5~22日、2018年9月9~23日にかけて行った関係機関へのインタビュー結果を分析した。インタビュー対象者の概要は、表 序-1の通りである。インタビュー対象者は、PA制度における歴史・組織運営・運動に関わってきた障害当事者・家族・職員・行政関係者などである。これに加えて、各事業所や居宅などを訪問することによって、参与観察も実施した。こうしたフィールドワーク期間以外にも、調査対象となった関係者からメールを通して情報収集を行ってきた。
分析方法は、エスノグラフィーを採用した。エスノグラフィーは、ある特定の社会や文化に生きる人々の「生活世界」や文化について記述したものであり、日本語では民族誌と呼ばれる(Kleinman 1988:307)。ただし本研究のエスノグラフィーは、文化人類学と同様に行為者の「生活世界」や文化を社会的文脈の中で相対化しながら描きつつも、社会状況の改善を目指す新しい実践や制度のあり方を模索した。分析に際してはインタビューの結果のみならず、資料や報告書、ホームページの情報やニュースレターなどの一次資料、参与観察によって得られた情報も分析の対象とした。
(…後略…)