目次
投稿論文
グローバル／ナショナル／ローカルな「現実」の交錯――在日朝鮮人大学生の祖国経験と進路選択［李洪章：神戸学院大学准教授］
What Makes Russians Become Japanese Citizens?: Considering Naturalization as a Result of Migrants’ Decision-Making Process［Varvara MUKHINA：Sophia University］
The Effect of Desecuritisation on the Ethnic Minority in the EU-Russian Border Region: Russian Speakers in Narva Amid the War in Ukraine［Yusaku FUKUHARA：The University of Tokyo］
高等教育における留学生の労働力の「使い捨て」――曖昧な法的地位がもたらす影響に着目して［土井あさひ：安田不動産株式会社］
2018年入管法改正とコロナ禍が地方自治体の多文化共生施策に与えた影響――静岡県と愛知県の8市を事例として［俵希實：北陸学院大学教授／若山将実：北陸学院大学教授］
来日外国人女性支援におけるNGOと自治体の連携――女性の家HELPに対する東京都からの財政的支援を事例に［百瀬圭吾：立教大学大学院博士後期課程］
ブラジル人集住地域における第二世代の文化変容とキャリア形成――集合財文化資本と社会関係資本に着目して［ソンキジョン：名古屋大学大学院博士後期課程］
労働組合と監理団体による外国人労働者の転職支援に関する考察――岐阜一般労働組合の事例から［荻田航太郎：筑波大学大学院博士後期課程］
シンポジウム報告：技能実習制度から育成就労制度へ
趣旨［鈴木江理子：国士舘大学教授］
育成就労制度は地方中小企業における「人材育成」と「人材確保」を両立させることができるか［森谷康文：北海道教育大学准教授］
育成就労制度の創設と人権保護の課題［岩下康子：広島文教大学教授］
【活動報告】育成就労制度の適正な「育成」に向けた企業の「人財育成」が果たすべき役割とは［堀永乃：一般社団法人グローバル人財サポート浜松代表理事］
書評
申惠媛著『エスニック空間の社会学――新大久保の成立・展開に見る地域社会の再編』［藤巻秀樹］
山本直子著『「多文化共生」言説を問い直す――日系ブラジル人第二世代・支援の功罪・主体的な社会編入』［山本かほり］
橋本直子著『なぜ難民を受け入れるのか――人道と国益の交差点』［坂東雄介］
高畑幸著『在日フィリピン人社会――1980～2020年代の結婚移民と日系人』［原めぐみ］
大茂矢由佳著『日本人の対難民意識――メディアの表象・言説・作用』［伊藤泰郎］
佐藤成基著『国民とは誰のことか――ドイツ近現代における国籍法の形成と展開』［佐々木てる］
自著紹介・文献紹介
学会報告
2024年度年次大会／2024年度冬季大会
『移民政策研究』編集規程／『移民政策研究』執筆要項／論文投稿規程／投稿論文査読規程
Editorial Provisions for Migration Policy Review / Author Guidelines for Migration Policy Review / Provisions for the Submission of Articles / Provisions for the Refereeing of Articles
前書きなど
シンポジウム報告：技能実習制度から育成就労制度へ
趣旨［鈴木江理子：国士舘大学教授］
本報告は，2024年5月に開催された移民政策学会年次大会の特別企画「新制度『育成就労』の導入で，技能実習問題は『改善』されるのか？」をもとに構成したものである。
同年6月14日，第213回通常国会において，出入国管理及び難民認定法（以下「入管法」）と外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律（以下「技能実習法」）の改定法が成立し，同月21日に公布された。今回の改定は，在留資格「特定技能」が創設された2018年改定入管法（2019年4月施行）と2016年に制定された技能実習法（2017年11月施行）の附則をうけたものである。
（…中略…）
人材確保と人材育成を目的とする新制度
（……）
育成就労制度では，人権保護の観点から，自己都合による「転籍」が認められることとなった。労働者の基本的権利である自由な転籍が原則認められていないことが，技能実習制度における人権侵害を生み出してきた大きな要因であることを踏まえれば，転籍の容認は制度改善に向けた必須事項である。一方で，転籍できない制度に頼ることで労働力確保を果たしてきた受入れ機関や地域からすれば，転籍制限の緩和によって，外国人が流出してしまうことに不安を抱くのは当然とも言えよう。技能試験と日本語能力試験の合格が本人都合の転籍要件となっているため，人材育成が流出――合法的な移動――を促進させ，人材確保という目的を損ないかねない。
森谷氏は，地方中小企業で人材育成と人材確保を両立させるためには，外国人労働者の枠を超え，地域活性化や包括的な人材政策といった視点から議論する必要があると説いている。
なおも残る人権保護の課題
（……）
岩下論文は，技能実習制度が構造的に内包している人権侵害を，転籍制限，高額な斡旋料，劣悪な労働環境や処遇，妊娠出産への不当な介入といった点から指摘している。支援現場での自身の経験を踏まえつつ新制度を検証し，育成就労制度が，これら人権侵害に十分対応できていないと断じている。
（……）
選ぶ側の視点に立った制度設計を
（……）
少子高齢化による労働力不足という課題に直面しているのは日本だけではない。現在の日本は，受入れ国として，かつてのような優位な地位にあるとは言えず，外国人にとっての移住の選択肢は，日本だけではない。だからこそ，受入れ側の都合のみを優先するのではなく，選ぶ側の視点に立って，受入れ制度や受入れ環境を見直すことが肝要である。この点は，国際移動に限らず，国内（地域間）移動の場合も同様である。堀氏が紹介する「還流型人財育成」という実践は，選ぶ側の視点に立った受入れを考えるヒントとなるであろう。
（…後略…）
