目次
日本語版に向けての序文
第1部 未知の世界に踏み出すこと
第1章 新世紀のアメリカ人──1900年世代
研究上の課題とアプローチ
分析枠組み
バークリー──学園都市
「長期間」にわたって人々を研究するということ
第2部 人生を切り開く──1910-30年
第2章 カリフォルニアにやって来たぞ!
カリフォルニアへの移住
移住の物語
出生地と家族史
生涯にわたる影響力
結論
第3章 男性たちの生き方
1920年代の中心的テーマ
学歴と職歴の獲得
生計と金繰り
・自分の家を持つ
・貯蓄と証券
・親族やコミュニティへの依存
結論
第4章 女性たちの生き方
教育の経路
給料といくらかの自律
そして結婚する
家庭とライフスタイル
変化する機会とアイデンティティ
・変化する可能性
・アイデンティティを定義する
結論
第5章 結婚生活での共同と別離
結婚の内実
異なる人生──ともにあり、悩む
夫婦の役割と家族のパターン
大恐慌前夜の結婚生活
第3部 大恐慌の時代──最悪と最良の時代
第6章 災厄と恩恵
経済的剥奪と家族の困窮
・低所得と生活費
・職業生活のパターン
家族の災厄の原因
・産業部門による違い
・窮乏期における労働者の価値
・大恐慌以前の資源と問題
大恐慌を切り抜ける道すじ
・複数の仕事と雇用主
・適応としての不安定な仕事
・職業生活の継続と変化
不平等と大恐慌の経験──おわりに
第7章 深刻化する窮乏期
経済的衰退の意味
困窮が悪い時代に変わる時
・家計の安定性、支出、そして夫婦間葛藤
・妻の高い経済的水準
・立派さと「面子を保つ」
ジェンダー、結婚、そして情緒的健康
悪化する悪い時代
第8章 苦難の時代の育児
子どもを増やすかどうか
・家族の現実と産児制限
・年長の子どもたちの有用性
ストレス下の家庭における親の影響力
子どもを産んでも育てられない
第9章 親族との関わり
親族援助の構成
・物質的援助の授受
・社会階級と家族ステージによる差異
同居と別居
・親族が家庭に入る時
・同居の経験
・世代間の緊張
親族関係におけるリンクされた人生
第4部 国内での戦争
第10章 戦争の家庭への影響
コミュニティの変化と適応
・明かりを消せ─危険だ
・新興都市─社会秩序の発展と衰退
・見知らぬ人たちの中で暮らす
・国内戦線における興奮
戦時中の家族の変化
・男性の戦時中の労働─犠牲と利益
・若者の2つの世界
・戦争労働者の子どもたちの世話
結論
第11章 働く女性たち
戦時下の女性の仕事
就労への経路
仕事の種類
女性の就労を形作るもの
・女性が就労できる領域
・女性が就労できる領域の広がり
状況によって変わる女性の就労の意味
第12章 世代から世代へ
現代風のしつけはいかにして広まったか
・学者と専門家の登場
・科学とノウハウによるしつけの時代
・しつけの世代的変化
ジェンダーイデオロギーの移り変わり
新しい世界に生きる若者へのしつけ
息子と娘への期待
・息子や若い男性への親の期待
・娘や若い女性への親の期待
結論
第5部 時代と人生の変化
第13章 老年期に過去を振り返る
変容した世界の中での人生移行
・繁栄の1920年代から大恐慌の困窮期へ
・困窮の時期から第二次世界大戦の好況期へ
困窮の時期が老年期に遺したこと
人生を振り返って
・最も満足し、最も不満であった時期
世代のテーマ
・1900年世代の独自性
・未来へ架かる世代の橋
謝辞
追補
付録
付録A 付表と付図
付録B 標本、データ源および方法
・バークリーの標本とそのコミュニティ
・1930年代から1940年代にかけてのデータ収集
・充実し柔軟性に富んだ豊かさ
付録C 1962年から2019年にかけての本プロジェクトのストーリー
・始まり
・計画と偶然
・比較コホート研究
・社会変動と1900年の親世代─バークリー研究
・第1段階──年長の子どもたちと
・年少の子どもたちの家族とコホートに対する大恐慌の影響
第2段階──人生と世代の研究(1979年から99年)
本にするための作業
監訳者あとがき
索引
人名索引
書名・番組名索引
用語索引
前書きなど
日本語版に向けての序文
『時代の先端を生きて(Living on the Edge)』(邦題:『「大恐慌の子どもたち」親世代のライフコース─20世紀を生きたアメリカ人の家族・ジェンダー・人間発達』)は、ある意味において、グレン・エルダーによる1974年の古典的著作『大恐慌の子どもたち』の続編である。『大恐慌の子どもたち』の中で、エルダーは、1920-21年に生まれたオークランドのコホートを児童期から中年期まで追跡した。しかしながら、そこで扱われたデータには、1930年代という厳しい時代の前後における彼らの両親についての情報がほとんど含まれていなかった。このようなギャップを埋めるために、エルダーは、バークリーにあるカリフォルニア大学の人間発達研究所に保管されたデータを調べ、オークランドのデータに遭遇したのである。そこで、エルダーは、バークリー・ガイダンス研究が、10年後の1928-29年に生まれた研究対象児だけではなく、彼らの両親も追跡していることに気がついた。この発見が、1900年ごろに生まれた妻と夫を研究する機会をもたらした。その結果が、20世紀のほとんどの革命的な変化に向き合うこととなった、これらの夫婦や家族の生涯にわたる唯一無二の研究となったのである。その変化の中には、移住や戦争、経済的な好不況の劇的な浮き沈み、想像を超えた科学技術の発明と進歩が含まれている。「『幌馬車から月へ』といったような、この時代における変化の速さに匹敵する歴史は二度と来ないだろう」と、いみじくも語っていたのは、研究参加者の1人だったのである。
本書は、1世紀以上前に生まれた1世代の人々について書かれたアメリカの本であるが、そこで得られた教訓の多くは、場所と時代を超えたものである。その核心に、本書では、ライフコース研究が中心的に関心を向けている問題の重要性が描き出されている。つまり、それは、歴史が、個人や集団の生活において、いかに重要であるかを明らかにすることである。本書によって、私たちは、急激に変わりゆく世界が、いかに人間の生活に影響を及ぼすのか─そして、それらの変化が、世帯や家族にどのような影響を及ぼし、世帯や家族が、それらをどのように取り入れるのか─を理解できるようになる。本書は、歴史的出来事や社会変動が、いかに人々を混乱させ、対処や適応を要請し、不平等に曝し、分かり難く、多くの場合、予期できないやり方で、人々の機会や選択肢を変えてしまうのかを示している。本書で議論されていることの中には、現在、戦争や、パンデミック、経済的な不況や恐慌、人種不平等、政治や市民の争い、気候変動など、すべての社会において生活を条件づける、さまざまな出来事に直面している私たちに当てはまる数多くのことが含まれている。
(…後略…)