目次
はじめに
第1章 序論――ジェンダー非順応な人びとのカテゴリーを問いなおす
1.1 ジェンダー非順応な人びとを表すさまざまなカテゴリー
1.2 ジェンダー非順応な人びとをめぐる社会的処遇の定まらなさ
1.3 カテゴリーをめぐるコンフリクト
1.4 本書の目的と構成
第2章 先行研究の検討と問いの所在
2.1 ジェンダー非順応な人びとをめぐるカテゴリーと性規範
2.1.1 性的マイノリティの運動におけるカテゴリーをめぐる規範的主張
2.1.2 ジェンダー非順応な人びとの間でのカテゴリー運用と性別二元論
2.2 カテゴリーのもとで自己定位する多様な実践
2.2.1 性別二元論を前提とするカテゴリーの多義的な運用
2.2.2 非二元的な性自認をもつ人びとを対象とする研究
2.3 ジェンダー非順応な人びとに関する歴史的研究
2.4 本書の視座
第3章 調査の概要と分析方法
3.1 分析対象とする文献資料
3.1.1 性的マイノリティ専門誌の概要
3.1.2 インターネット上のテクストの調査
3.2 インタビュー調査の概要
3.3 分析方法と多様な資料の位置づけ
3.3.1 分析方法
3.3.2 多様な資料から明らかにしうること
第4章 二元的な性の自明視と、「オーバージェンダー」「インタージェンダー――1990年代のミニコミ誌を中心に
4.1 性を理解する諸概念の導入――「同性愛者」による活動を中心に
4.2 男性学の文脈における「トランス・ジェンダー」をめぐる実践
4.3 「TV」「TS」「TG」の定着――文脈による意味づけの違いに着目して
4.3.1 女装交際誌『くいーん』における「TV」「TS」「TG」の運用
4.3.2 GID医療化の運動における「TS」「TG」――『FTM日本』の語りを中心に
4.4 「オーバージェンダー」「インタージェンダー」はいかに用いられたか
4.4.1 嶋田啓子による「オーバージェンダー」の自己カテゴリー化
4.4.2 三橋順子による「インタージェンダー」の造語とその影響
小括
第5章 GID概念の導入と「FtX」「MtX」による性別移行の規範への抵抗――1990年代末の関西のグループに着目して
5.1 GID概念に基づくガイドライン策定と性別移行をめぐる規範
5.1.1 「TS」は「障害」なのか
5.1.2 性別移行をめぐる規範
5.2 G-FRONT関西における「X」の名乗り①――「バイセクシュアル」をめぐる主張
5.2.1 G-FRONT関西の状況
5.2.2 「バイセクシュアル」のもとでの性別二元論批判
5.3 G-FRONT関西における「X」の名乗り②――森田真一をめぐる多層的な語り
5.4 G-FRONT関西における「X」の名乗り③――自助グループにおける実践
小括第6章 GID概念の普及と関西を越えた「X」の多義的な意味づけ――2001年頃から2010年頃における当事者活動から
6.1 特例法制定前後における当事者活動
6.1.1 戸籍上の性別変更をめざす活動とジェンダーフリー
6.1.2 特例法制定とその後の活動の展開
6.2 GID認知の拡大のもとで生じる「X」を名乗る困難
6.2.1 「GID」という“アイデンティティ”の顕在化とそれに対する批判・葛藤
6.2.2 “GIDブーム”期における「X」を名乗る困難
6.2.3 関西におけるセクシュアリティを語るグループでの活動
6.3 インターネット上での交流を契機とした「X」が名乗られる場の拡大
6.3.1 ホームページ(HP)における非二元的な性の諸概念
6.3.2 mixiにおける非二元的な性の「コミュニティ」
6.3.3 匿名掲示板における「X」を掲げた「スレッド」
6.3.4 「SNSコミュニティ」での未治療「FtX」
小括
第7章 「Xジェンダー」「ノンバイナリー」の普及と当事者間でのカテゴリー化――2010年代における当事者活動から
7.1 FtX当事者像の変質――「MaX.」における活動を中心に
7.2 「Xジェンダー」をめぐる当事者間でのカテゴリー化――2010年~2015年頃の匿名掲示板とTwitterにおける議論から
7.2.1 二元的ジェンダーからの「逃げ」としての「X」
7.2.2 GID医療の利用と「X」
7.2.3 「Xジェンダー」の定義づけへの批判
7.3 非二元的な性を表すカテゴリーの社会的認知の拡大
7.3.1 Xジェンダー当事者団体による情報発信
7.3.2 「Xジェンダー」「ノンバイナリー」等の複数の意味づけ――インターネット記事と匿名掲示板から
7.4 当事者活動における「Xジェンダー」「ノンバイナリー」の承認と脱ジェンダー
7.4.1 非二元的な性を生きる人びとが参加するグループの状況
7.4.2 「Xジェンダー」「ノンバイナリー」としての承認と脱ジェンダー化
小括
第8章 未規定な性のカテゴリーによる自己定位――社会的文脈による語りの差異に着目して
8.1 経験の再解釈――非二元的な性解釈の可能性
8.1.1 さまざまな所属を経た非二元的な自己の表現
8.1.2 「Xジェンダー」による経験の解釈
8.2 認識上の切断――他のカテゴリーからの差異化
8.2.1 「トランスジェンダー」の下位カテゴリーとしての「FtX」
8.2.2 「トランスジェンダー」からの自己の差異化
8.3 便宜的な名乗り――カテゴリーの曖昧さの重視
8.3.1 曖昧なカテゴリーとしての「Xジェンダー」
8.3.2 暫定的な居場所
8.4 政治的主張の根拠――カテゴリーの意味の厳密化
小括
第9章 結論――非二元的な性のカテゴリーが可能にした実践の変遷
9.1 本書で論じたこと
9.2 先行研究に対する貢献
9.2.1 非二元的な性のカテゴリー運用の30年史
9.2.2 非二元的な性のカテゴリーに関連する諸カテゴリーの定着とその帰結
9.2.3 未規定な性のカテゴリーが可能にした自己定位の実践
9.3 今後の課題と展望
おわりに
資料編
1 性的マイノリティ専門誌
2 mixiコミュニティ
3 mixiトピック
4 Togetter
5 匿名掲示板スレッド
6 インターネット記事
文献
索引
前書きなど
第1章 序論――ジェンダー非順応な人びとのカテゴリーを問いなおす
(…前略…)
1.4 本書の目的と構成
(…中略…)
最後に、本書全体の構成を示す。ここまで第1章において、性的マイノリティを表す一般的な用語を整理し、ジェンダー非順応な人びとをめぐる社会的状況を記述してきた。そして本書が、現在のジェンダー非順応な人びとのカテゴリーをめぐる実践の歴史やその限界を示し、自明視されている性の諸カテゴリーそのものへも再考を迫るものであるとして、その意義を説明してきた。
そのうえでまず第2章では、英語圏および日本におけるジェンダー非順応な人びとを対象とする先行研究を検討し、カテゴリーの運用を分析するという本書の視座について説明する。(……)
第3章では、本書が実施した調査の概要を説明する。具体的には、1980年代から2010年代に出版された、性的マイノリティが自ら情報や意見を発信している文献と、29名の当事者におこなった半構造化インタビューのデータを分析対象とすることを説明する。加えて、これらの多様な資料に基づいて性のカテゴリーが用いられる仕方を分析する方針を示す。
第4章から第7章にかけては、分析結果として、単に多様な性自認の可視化の傾向としては整理できないような、特定のコミュニティでの実践を背景にカテゴリーへの同一化と差異化がせめぎ合うジェンダー非順応な人びとの経験の歴史が示される。
第4章では、1990年代後半における「オーバージェンダー」や「インタージェンダー」に着目し、女装者のネットワークにおいてどのような語が非二元的な性を表すカテゴリーとして用いられ、しかし忘れられていったのかを分析する。(……)
第5章では、1990年代末頃GIDのガイドラインが制定された時期に、男女の二元的な性別移行を進めることが規範的なふるまいとされた一方で、一部の関西のグループにおいては、性別二元論への批判や性別移行の規範へのついていけなさを「FtX」や「MtX」というカテゴリーのもとで当事者自身が主張していたことを明らかにする。(……)
第6章では、2001年頃から2010年頃にかけて、GID概念が社会に普及していき、それに対してトランスジェンダー概念のもとで脱医療化や自己決定を強調する言論活動が活発化するなか、「X」が関西の文脈をこえていかにして名乗られていったのかを論じる。(……)
第7章では、2010年代にいかにして「Xジェンダー」や「ノンバイナリー」が社会に広まり、非二元的な性を生きる人びとがどのように相互にカテゴリー化しているのかを論じる。(……)
第8章では、ここまで論じてきたような非二元的な性のカテゴリーのもとで、人びとが自己を位置づけるいかなる実践がおこなわれているのかを論じる。(……)
第9章では、本書の内容をまとめたうえで、その意義と展望を論じる。