目次
はしがき
序章 軍事植民地の言論
1 アメリカの声で伝えられた敗戦
2 戦争の記憶とメディア
3 沖縄占領史の視点
4 国際政治学の視点
5 安全保障研究の視点
6 プロパガンダとソフトパワー
7 本書の構成
第1章 象徴天皇の不在
1 占領=情報主権の交替
2 沖縄からみた『ウルマ新報』
3 天皇言論の禁止指令
4 『ウルマ新報』八月一五日号の「余白」
5 『ウルマ新報』第六号で「発刊の辞」
6 九月一二日の終戦詔書
7 玉音体験の不在
第2章 集合的記憶と記念日報道
1 集合的記憶とは何か
2 八月一五日の表象
3 消された象徴天皇
4 記念日報道の天皇
5 異なる体験、異なる記憶
第3章 軍法と言論
1 米国の日本管理政策
2 第一期・沖縄占領開始期(一九四五年三月~一九四六年六月)
3 教育と警察とメディア
4 第二期・沖縄分離政策決定期(一九四九年二月~一九五〇年六月)
5 シーツ布告の広報戦略
6 軍法による言論管理
第4章 占領地の心理戦
1 心理戦とエドワード・リリー
2 戦時情報活動の継続
3 陸軍省管轄の「占領地」日本
4 省庁間連携で陸軍に委託
5 情報発信元の開示・非開示
6 国防省の心理戦
7 戦時と平時の分岐点
8 米国の対外情報活動の成立
第5章 米国の広報外交と沖縄
1 一九四八年スミス・ムント法
2 スミス・ムント・プログラム
3 海外でフレキシブルな資金運用
4 陸軍省に委託された情報教育プログラム
5 民間情報教育部の親米宣伝
6 選挙で消えた「日本帰属論」
7 米国の広報外交と沖縄
第6章 冷戦を言葉で戦う
1 アイゼンハワーの選挙公約
2 対日外交の「付録」としての沖縄
3 対日政策文書に明記された「心理戦」
4 作戦調整委員会の進捗状況報告書
5 国務省の役割の明示
6 沖縄の「OCB機関」
7 米国の広聴・広報政策の変容
8 国防省管轄下の言論
第7章 沖縄マス・メディア調査
1 合衆国情報庁の社会科学調査
2 沖縄メディアの概況
3 調査概要とサンプル・デザイン
4 ラジオの利用状況
5 映画の視聴
6 新聞・雑誌・書籍
7 調査結果とメディア政策
8 マス・メディア調査の功罪
第8章 地方選挙の情勢調査
1 東アジア情報拠点としての沖縄
2 直接選挙を求める住民の声
3 公選に関する内部調査
4 沖縄選挙タスクフォース
5 沖縄インテリジェンス・コミュニティ
6 ルーチン情報としてのメディア
7 琉球立法院議員選挙の情勢報告書
8 諜報の心理的効果と問題点
9 国家と情報
終章 軍隊と言論
1 占領特権の制度化
2 米軍基地と言説
3 軍隊による言論管理
4 修辞的大統領制の課題
5 メディアは魔法の弾丸ではない
6 言論の植民地
7 軍隊と言論
注
あとがき
索引
前書きなど
序章 軍事植民地の言論
(…前略…)
7 本書の構成
本書の構成は以下のとおりである。
第1章では、沖縄戦が終わった後で、米軍が設置した収容所内で発行された『ウルマ新報』を事例に、日本本土と沖縄では、そもそも終戦の原体験が大きく異なっていたことを紹介する。それをもとに、軍隊の占領によって開始された戦後、そこから移行した軍政下で、占領者によって発行されたメディアが、沖縄に関する言論にどのような影響を与えたのかを探る。
第2章では、日本本土と沖縄では、現在も「戦争の記憶」が同じではないことに注目した。そのうえで、このような記憶の違いを生んだ原因が、沖縄を日本から切り離すことを目的に実施された、米国の初期占領政策と密接に関わっていたのではないか、という問題を提起する。
第3章では、統治下における米国の言論管理が、米軍の発令した夥しい数の布告・布令・命令などの「軍法」による「軍事管理」であったことを明らかにする。これにより、二七年間に及んだ米国の沖縄統治が、「戦時」の軍事管理の実態をそのまま引きずる形でおこなわれたことを論じていく。
第4章では、主な舞台を米国の首都ワシントンに移し、本書の前半で検討した軍政下の言論管理が、米国政府のいかなる政策に基づいていたのかを検証する。第二次世界大戦後、沖縄を含む日本は、陸軍省が管轄する「占領地」に分類され、米国の「外交」の土俵に乗らなかった。ここでは、このような「占領地」に対する米国の対外情報活動がどのように成立したのかを明らかにする。
第5章では、米国政府の組織改編により成立した冷戦体制の枠組みが、沖縄の言論にどのような影響を与えたかを考察する。
第6章では、冷戦を「言葉で戦う」という公約を掲げたアイゼンハワー政権期の対沖縄政策を探る。
そこで、沖縄は、米国の軍隊を統括する国防省の管轄下におかれていたことを明らかにする。
第7章では、一九五七年に沖縄で実施されたマス・メディア調査を事例に、米国がこのような社会科学的調査を、国家政策の立案に向けて、どのように位置づけていたのかを考える。
第8章では、一九六五年の地方議員選挙の情勢調査を事例に、米国が地域情報をどのように収集していたのかを探る。これにより、米国の言論管理の目的が、施政権を維持するための選挙監視であったことを明らかにする。
以上の検討をもとに、終章では、米国が統治下で沖縄の言論空間を注意深く監視していたことの問題点を論じる。これをもとに、本書は、戦争が本務である軍隊が、どのように言論の自由を規制するのかを考える。さらに、このような軍事植民地の問題は、単に過去の歴史課題ではなく、グローバル時代の現在進行形の問題であることを指摘する。