目次
序章
(1)研究目的と背景――伝統産業と「見えない人々」
(2)本研究における用語の定義
・「在日朝鮮人」
・「労働」
・京都の「伝統産業」
(3)先行研究の検討
・京都の繊維産業に関する先行研究
・京都の繊維産業と在日朝鮮人に関する先行研究
(4)研究視角と研究方法
・研究視角
・研究方法
(5)本書の構成
第1章 1945年以前の京都の繊維産業と朝鮮人
第1節 韓国併合前後の日本各地における朝鮮人労働者
第2節 西陣織産業と朝鮮人
(1)西陣織産業の概要
(2)朝鮮人の就労黎明期
(3)朝鮮人の増加と居住
(4)相互扶助団体と争議活動
(5)朝鮮での報道 西陣での成功
第3節 京友禅産業と朝鮮人
(1)京友禅産業の概要
(2)朝鮮人の就労黎明期
(3)京友禅産業における朝鮮人の生活
(4)朝鮮での報道 苦境に陥る朝鮮人
(5)戦後の同業者組合「京都友禅蒸水洗工業協同組合」への萌芽
小括
第2章 京都の繊維産業における朝鮮人の同業者組合――1945年から1959年までを中心に
第1節 西陣織産業における朝鮮人の同業者組合
(1)朝鮮人の同業者組合の結成
(2)朝鮮人に対する偏見と朝鮮人の同業者組合の活動
(3)朝鮮人織物組合、相互着尺組合の組合員数推移と組合員の分布
第2節 京友禅産業における朝鮮人の同業者組合
(1)蒸水洗組合の結成
(2)蒸水洗組合の活動
(3)蒸水洗組合の組合員数推移と組合員の分布
小括
第3章 西陣織産業における在日朝鮮人
第1節 資料とインタビューの整理
第2節 朝鮮での生活
(1)困窮化する朝鮮農村
(2)渡日の経路
第3節 西陣織産業に就くまで
(1)生きるために織る
(2)技術の習得
第4節 成長期
第5節 西陣織産業の盛衰
小括
第4章 京友禅産業における朝鮮人労働者
第1節 工場Mの創業前史
(1)創業者KW氏の略歴
(2)堀川蒸工場とM
第2節 蒸水洗工場での労働
(1)一般的な労働工程
(2)「きつい」、「汚い」、「危険」な労働
第3節 Mの厚生年金台帳における労働者の類型
(1)経営者家族と、在日朝鮮人の紹介で就労するようになった者
(2)「流れ」の労働者
第4節 Mの成長期における労働者
(1)京都での仕事探し
(2)労働者の生活
第5節 Mにおける機械の導入
(1)機械導入による単純労働の消滅と「流れ」の労働者
(2)機械導入への二世の思い
第6節 京友禅産業斜陽の中で
(1)労働者の減少
(2)家族と少数の労働者による工場運営
小括
第5章 在日朝鮮人女性の労働と生活――京友禅産業で働いてきた女性の生活史(life history)を通して
第1節 川崎での生活
(1)幼少期、学生時代
(2)KC氏との出会い
第2節 女性の家族労働者の役割
(1)労働者の生活を支える
(2)家事と工場での労働
第3節 女性の家族労働者の労働の変化
(1)工場での肉体労働へ
(2)干し場での仕事
(3)「イルクン」の妻
(4)染色工場の臭い
小括
第6章 在日朝鮮人労働者の衣食住生活――蒸水洗工場Mを事例に
第1節 住生活、労働者の住環境
(1)改築までの工場M
(2)改築後の工場M
(3)「密航者」の生活空間
第2節 食生活、労働者たちの食事
(1)食事の準備
(2)日常的な飲酒
(3)給料日、冬至、ソルラル
第3節 衣生活、労働での作業着と私生活での衣服
(1)労働での作業着
(2)私生活での衣服
小括
第7章 京都の繊維産業に従事した在日朝鮮人の民族的アイデンティティ
第1節 民族的アイデンティティから民族的活動へ
(1)「錦衣還郷」
(2)日本での生活基盤の獲得
第2節 再構成されるアイデンティティ
(1)「ダブル」という意識
(2)「日本人扱い」を受けるということ
第3節 民族名で生きるのか、日本名で生きるのか
(1)民族名を出すことの難しさ
(2)民族名で「伝統工芸士」認定を受ける
第4節 労働者のアイデンティティと民族アイデンティティの交錯
(1)「生」そのもの
(2)「人間らしく生きる」ために
(3)織ることの喜びと、完成した着物
小括
終章
(1)各章の要約
(2)在日朝鮮人の「労働」の三類型
(3)西陣織産業と京友禅産業に置かれた在日朝鮮人の位相
(4)「見えない人々」から見る西陣織、京友禅
(5)今後の課題
あとがき
文献一覧(アルファベット順・発表年度順)
(1)単著
(2)共編著
(3)学術論文
(4)パンフレット、学会・研究会会報、資料解説
(5)個人記録(自叙伝、回顧録、卒業論文、報告書など)
(6)同業者組合、関連機関資料
(7)民族団体、教会資料
(8)各種省庁、市町村行政資料
(9)京都府立京都学・歴彩館所蔵行政文書
(10)教育機関資料
(11)新聞
(12)辞典
(13)年表
(14)映画
(15)参考ウェブサイト
索引
前書きなど
序章
(…前略…)
ここでは、本書の構成について整理しておく。まず第1章では、在日朝鮮人が就労した京都の繊維産業(西陣織・京友禅)について説明する。戦前の在日朝鮮人と京都に関する先行研究を整理しながら、西陣織産業と京友禅産業にどのように朝鮮人が参入したのかを考察する。続いて彼らの居住地と、西陣織と京友禅の生産集積地の関連性を論じる。
(……)
2章では、朝鮮人の同業者組合を中心に整理することで、1945年から1959年までの京都の繊維産業(西陣織、京友禅)における在日朝鮮人について考察する。ここで論じようとする組合とは、西陣織産業の朝鮮人の同業者組合(「朝鮮人織物組合」、「第二組合」、「相互着尺組合」)、および、京友禅産業の蒸水洗工程をになった同業者組合(「蒸水洗組合」)である。
(……)
3章では、西陣織産業に従事した在日朝鮮人の経営者・労働者の労働について、個人の記録などの資料やインタビューでの語りをもとに考察する。西陣織産業における在日朝鮮人の労働の様相として、戦前の朝鮮人がどのように京都に暮らすようになり、西陣織産業で就労するようになったのか、また西陣織産業の中で彼らは、いかに技能を習得したのかを見ていく。
そして西陣織産業の盛衰を受け、在日朝鮮人は経営者・労働者として対応したのかを考察する。西陣織産業における在日朝鮮人について、この産業に従事した7人の事例を通して、考察を行う。具体的には7人に関係する記録や、本人、関係者へのインタビューで得られた語りを用いて、彼らの西陣織産業での労働について分析する。
4章では京友禅産業の蒸水洗工程に従事した在日朝鮮人労働者について論じる。具体的には1960年から2006年まで、操業していた蒸水洗工場Mにおける朝鮮人労働者の就労状況の事例を見ていく。具体的には、Mの厚生年金台帳に記載された労働者の労働期間から、彼らの労働形態を分析する。また、Mの労働者数の推移や当時の工場の状況について、厚生年金台帳と経営者からのインタビュー調査で得られた語りをもとに論じる。
それらを踏まえて、京友禅産業の盛衰の中でMの朝鮮人労働者の労働はいかなる様相を示していたのかを考察する。そして彼らの労働の様相を明らかにすることで、Mの経営者や労働者らが、どのように、この産業の変化に対応していたのかを分析する。
5章では約40年間、工場Mにおいて経営者の家族として、また、労働者として就労してきた一人の在日朝鮮人女性の歴史を通して、京都の在日朝鮮人の労働と生活を論じる。彼女がどのようにして、工場を訪れ、働くようになったのか。また、そこでの彼女の労働が変容していくのか。同時に彼女が就労していた工場Mと経営者家族についても考察する。例えば、どのような人が工場で働いていたのか。その当時の工場はどのような状況であったのか。以上のような在日朝鮮人の労働者や、経営者の労働と日常生活を分析する。
通常、女性や民族的マイノリティーは自身の記録を残すことが難しいために、そうした人々の経験や言葉を取り出すため、ライフヒストリーが一般的に用いられている。この5章では、この在日朝鮮人女性のライフヒストリーを見ることで、彼女らの生活を描き出すことができると考える。また、現在まで男性中心に構成されてきた在日朝鮮人社会に女性の視角を加えることによって、男性をも含めた詳細な在日朝鮮人の家族史を描き出すことも可能になるだろう。
6章では4章5章で扱ってきた工場Mの労働者の労働と衣食住生活に着目し、Mが操業を始める1960年代から廃業する2000年代までの時代経過を経て、それらがどのように変容するのかを論考する。6章における衣食住生活とは、在日朝鮮人の労働を下支えするものと考え、工場Mを中心に営まれていた彼らの衣食住生活を、「住」、「食」、「衣」の分野に分けて分析を行う。また、「住」、「食」、「衣」のそれぞれの生活がどのように関連しているのか、京友禅産業の盛衰や工場Mの対応などを踏まえつつ、在日朝鮮人の衣食住生活がいかに変遷していくのかを論じる。
(…中略…)
終章では、これらを踏まえ京都の繊維産業に就労した在日朝鮮人の労働を考察する。西陣織産業や京友禅産業に従事した在日朝鮮人の労働は、いかなる様相を示していたのかを分析するとともに、両産業に置かれた在日朝鮮人の位置がどのように異なるかを論じる。最後に、在日朝鮮人を通じて見る伝統産業(西陣織と京友禅)とはどのようなものであったのかを検討する。