目次
まえがき
第1章 相談現場から考える「児童虐待」
1-1 日本における児童虐待の定義
1-2 国際的な“Child Abuse and Neglect”の定義
1-3 国際的なもう一つの呼称“Child Maltreatment”について
1-4 日本の「児童虐待」という呼称
1-5 児童虐待と臨床実態――行政分類上の違い
1-6 臨床現場における「児童虐待」とは、子どもの安全問題である
1-7 児童虐待通告を行う三つの要件
1-8 児童虐待通告の本来的な機能
別項1 日本と海外における子ども虐待の定義と法的アプローチの違い
別項2 アメリカとの比較から考える日本の通告制度の現状と課題
別項3 子どもの一時保護における司法関与の課題
第2章 支援型ケースワークと介入型ソーシャルワーク
2-1 日本の児童福祉における二つの専門性――「介入的」と「支援的」
2-2 支援型ケースワーク
2-3 介入型ソーシャルワーク
2-4 介入型ソーシャルワーク導入の衝撃と意味
第3章 介入型ソーシャルワークの基本
3-1 介入型ソーシャルワーク登場の経緯
3-2 介入型ソーシャルワークにおける二つのアプローチ
3-3 診断分析型アプローチ(リスクダウン・アプローチ)
3-4 解決志向型アプローチ(パワーアップ・アプローチ)
3-5 両アプローチのアセスメント――共通の基本手順
3-6 ストレングスの評価とリスクダウン・アプローチ
3-7 アセスメント・チェック
3-8 介入型ソーシャルワークにおける支援の段階設定
3-9 初動時点およびその後の対応中のクライシス・マネジメント
3-10 マネジメント、アセスメント作業を軸とした対応過程の見える(チャート)化
第4章 通告と調査の手順
4-1 初動7項目――通告受理直後の手順①
4-2 通告の守秘――通告受理直後の手順②
4-3 家庭訪問による安全確認――通告受理直後の手順③
4-4 フィードバックと対応のシステム化
4-5 初期リスクダウンアプローチから支援までのアセスメント基礎調査――5項目調査の提案
第5章 リスク・マネジメントとロバストな対応体制の構築
5-1 アセスメントシートの課題
5-2 リスク・マネジメントのポイント
5-3 リスク評価と一時保護――行政権限による親権制限について
5-4 子どもの安全問題とロバストな体制整備の在りかた
5-5 ロバストな体制整備の当面の課題
5-6 ロバストネスを確保するための当面の課題
第6章 デジタルテクノロジーの導入と活用
6-1 省力化とその課題
6-2 情報共有の利便性
6-3 データ分析と人間
6-4 あるべき姿に向けて
あとがき
前書きなど
まえがき
本書で述べられていることがらは、これが書かれた時点での私の見解であり、今後、多くの人によって検討され、さらに修正・改訂されていくべき素材である。私自身にとって、ここで述べていることは、多くの人々とのやり取りを通じて与えられ、気づかされてきた経験と検討に基づいているが、つまるところ、それはある時点での経過報告のまとめに過ぎず、結論ではない。誰かが、これから子ども家庭福祉の現場で仕事を進めていく時、ここで書いたことが、ひとつの参照枠、ヒント、素材、出発点として、資するところがあれば幸いである。
ケースワークと呼ばれ、またソーシャルワークと呼ばれてきた複雑な対人援助の実践において、蓄積されてきた知識や経験は、いかに大規模で多様な経験に基づいているとしても、またいかに稀有な経験と精緻な検討、優れた智慧の蓄積に基づいているとしても、それは常に、今、目の前の新しい事例によって、あらためて発見され、吟味され、更新されるべきことがらである。現場実践においては、常に注意深く、複数の観点から吟味された明確な根拠と認識を持ちつつ、かつ、反証可能性に対しても開かれた視野と覚悟を維持しながら、検証とさらなる作り込みを続けることが欠かせない。人の営みは常に固有の揺らぎと不測の必然という偶然性を伴い、流動・変遷を繰り返している。対人援助の仕事は、まさにその渦中に身を置く営みのひとつである。