目次
出版にあたって
レクチャーⅠ マジョリティ言語とマイノリティ(継承)言語――バイリンガル・マルチリンガル教育の重要性[ジム・カミンズ(トロント大学名誉教授)]
はじめに――マイノリティ言語児童生徒の課題
1.カナダの多様文化主義と継承語政策
2.移民の背景を持つ児童生徒の学業成績
3.マイノリティグループの児童生徒にとっての第1言語と第2言語の関係
4.言語間の転移を促進する教育論(Crosslinguistic Pedagogy)
5.共有基底能力と相互依存説に対する妥当な批判はあるか
6.日本の公立学校における中国系児童生徒の発達途上にあるバイリンガルの縦断的研究――言語政策と社会統合を焦点に
7.結論
レクチャーⅡ マルチリンガル環境で育つ子どもの教育のあり方について再考する――マジョリティ言語とマイノリティ言語、両言語の力を伸ばす教育上のストラテジー[ジム・カミンズ(トロント大学名誉教授)]
はじめに
第1部 主な研究の成果
第2部 マルチリンガル学習者が経験する機会の格差に対応するため、エビデンスに基づいた指導を特定する総合的な枠組み
第3部 入れ子型教育のオリエンテーション
結論
レクチャーⅢ バイリンガル教育理論とトランスランゲージング教育論――言語政策と教育実践への示唆[ジム・カミンズ(トロント大学名誉教授)]
はじめに
パート1 第2言語教育の理論的背景に対する歴史的概観
パート2 バイリンガル教育(L2イマージョンやCLILを含む)の研究成果と2つの指導原理
パート3 「マルチリンガル・ターン」の出現と「クロスリングィスティック・トランスファー」を目指す教育
パート4 日本および他の地域において第2言語教育に関する研究と理論が示唆するもの
解説 言語マイノリティのためのバイリンガル・マルチリンガル教育論とトランスランゲージング教育論――カミンズ教授が示す政策のあり方・学校のあり方・教師のあり方[中島和子(トロント大学名誉教授)]
1.はじめに
2.レクチャーの経緯と背景
3.カミンズ教授の教育論の歴史的流れ
4.レクチャーの要約と実践上の指針
5.日本国内外のバイリンガル・マルチリンガル教育事情
6.2言語相互依存説――日本語を1言語とする実証的研究
7.アカデミック言語
8.マルチリンガルとしてのアイデンティティ
9.トランスランゲージング教育論――CTTとUTT
10.これからの日本の学校のあり方・教師のあり方――佐藤郡衛先生(指定討論者)のスライドを踏まえて
11.おわりに――マルチリンガル教育論と年少者のための「ことばの教育の参照枠」
参考文献
資料講演に用いたスライド
2020年講演 レクチャーⅠ
2021年講演 レクチャーⅡ
2022年講演 レクチャーⅢ
略歴
前書きなど
出版にあたって
(…前略…)
カミンズ教授は過去50年にわたり、世界的に影響力のある理論的概念を数多く提唱されてきました。「しきい説」や「2言語相互依存説」「共通基底言語能力モデル(Common Underlying Proficiency:CUP)」「BICSとCALP(のちのConversational Fluency:CF、Discrete Language Skills:DLS、Academic Language Proficiency:ALP)」などはご存知の方も多いのではないでしょうか。また、カミンズ教授は、絶えず弱者(マイノリティグループ)の側に立ち、ESL/ELL教育、特別支援教育、ろう教育、継承語教育など、幅広い学問領域において、現場の声を聞きながら、弱者をエンパワーすることに力を注いでこられ、影響を受けた現場の教師や生徒の数は計り知れないのではないかと思われます。特に、貧困や偏見からくる児童生徒の学力不振を脱するための方策を「変革的マルチリテラシーズ教育理論」で明らかにされたのは画期的なことでした。
2021年度の年次大会では、前年度の「オンライン国際フォーラム」の成果を踏まえて、国際交流基金と一部共催で、カミンズ教授には「現地語と継承語:複数言語環境で育つ子どもへの指導ストラテジー」と題して、「変革的マルチリテラシーズ教育理論」の内容も含めた基調講演をしていただきました。また、海外子女教育、外国人児童生徒教育および日本の行政や政策に深く関わってこられた佐藤郡衛教授に指定討論者としてご登壇いただきました。佐藤教授のお話の詳細は、本書の編集委員長でBMCN会長でもある中島和子トロント大学名誉教授による「解説:言語マイノリティのためのバイリンガル・マルチリンガル教育論とトランスランゲージング教育論」にまとめられています。その他に前年度の国際オンラインフォーラムの対象地域をさらに広げ、北欧4国(スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、デンマーク)からの代表による発表もありました。
2022年度の講演では、年次大会のテーマを「多言語環境で育つ子どもの教育を考える」とし、カミンズ教授には「バイリンガル教育理論とトランスランゲージング教育論――言語政策と教育実践への示唆」と題して、現場の実践において、トランスランゲージング教育論の理論面と実践面についてさらに一歩踏み込んでお話しいただきました。
このように3年にもわたりバイリンガル・マルチリンガル教育で世界的権威のカミンズ教授に基調講演をお願いできたことは、大変光栄で貴重なことでした。また、カミンズ教授の英語でのご著書が多数あるなかで日本語での訳本は少ないという状況のなか、今回、カミンズ教授の3つの講演をレクチャーシリーズとしてまとめ、出版できることは有意義なことと思います。「日本語教育推進法」が公布され、今後、国内外の現場で順調に推進されていくためにも、カミンズ教授が講演会でお示しくださった内容は、私たちに指針と方策を考える機会を与えてくださる意義深いものです。ぜひお読みいただき、今後に役立てていただけると幸いです。
この本の構成は、まず、カミンズ教授の3つの講演を和訳してご紹介します。これらの講演はシリーズとしてお願いしたのではなく、年度ごとにお願いしたものですので、それぞれの内容が独立しています。よって、講演で一部重複されている部分があります。そして、中島教授の「解説」が続き、最後に資料として、カミンズ教授が3つの講演で使われたパワーポイントのスライド(英語版)を掲載しました。
(…後略…)