目次
序文
謝辞
頭字語・略語
用語解説
要旨
第1章 日本の労働移住制度に関する評価の概要と主な提言
第2章 労働移住の背景
第1節 日本経済は完全雇用に近く、人手不足が蔓延している
1.1 人口の急速な高齢化
1.2 労働参加率の上昇は、今のところ生産年齢人口の減少を打ち消している
1.3 人手不足が蔓延している
1.4 日本の将来の人手不足は生産性の上昇にかかっている
第2節 人手不足に対処するための移民の役割とは?
2.1 外国人労働者は、オフショアリング、技術進歩、訓練・研修、アクティベーション政策によって満たされない人手不足に対処する戦略の一部である
2.2 日本の雇用システムには、外国人労働者の潜在的な貢献をみえにくくしている日本固有の特徴がある
第3章 日本への労働移住
第1節 1950年代から今日までの労働移民政策の変遷
1.1 1980年代末:高技能労働移住の枠組みの拡大と低技能労働移住のための間接的経路の出現
1.2 2010年代前半:技能実習という在留資格の創設と高度人材ポイント制の導入
1.3 2019年:中・低技能労働移住の転換点となる特定技能制度の導入
第2節 日本への労働移住
2.1 日本の移民人口は依然としてOECD加盟国の中で最も少ない
2.2 日本への労働移住は過去10年間に急増し、多様化した
2.3 労働市場における移民の数は、過去10年間で3倍に増加した
第3節 雇用全体に対する移民の寄与はわずかだが、今後10年間で増加する可能性が高い
第4節 一部の産業や地域の労働市場では、すでに移民が雇用の大きな割合を占めている
付属資料3.A
第4章 労働移住の政策枠組み
第1節 高技能労働移住のためのプログラム
1.1 高技能移民の移住に対する制限はほとんどない
1.2 家族帯同の条件は厳しい
1.3 すべての高技能移民の在留資格は期限付きであるが、無期限に更新可能である
1.4 高技能移民の永住資格取得を早める新たなルートが誕生
1.5 処理時間の短期化、低コスト化、プロセスのデジタル化が進んでいる
第2節 低技能職及び中技能職のための期限付き労働移住プログラム
2.1 技能実習制度は、ほとんどのOECD加盟国の研修生プログラムとは異なる
2.2 技能実習制度は、技能を必要としない仕事に就く外国人の主なルートとなった
2.3 技能実習制度はいくつかのセクターに集中している
2.4 特定技能制度は技能試験を課すが、労働者により良い滞在条件を提供する
第3節 豊富な小規模労働移住プログラム
3.1 看護師と介護労働者のための経済連携協定
3.2 国家戦略特区における労働移住プログラム
3.3 近年の労働移民政策の発展により、移住ルートが重複するようになった
付属資料4.A
第5章 高技能移民と留学生の獲得と定着
第1節 高技能移民
1.1 日本における高技能移民の特徴、利用された移住経路、労働市場における状況
1.2 高技能移民の定着
1.3 高技能移民獲得の課題
第2節 留学生
2.1 日本における留学生の現状
2.2 日本は留学生にとってどれほど魅力的な国なのだろうか?
2.3 留学生を惹きつけ、定着させるための政策
2.4 留学生は日本に留まるのだろうか?
付属資料5.A 賃金構造基本統計調査を用いた技人国の賃金分析
第6章 訓練と技能に基づく労働移住
第1節 技能実習制度は大規模な受け入れ制度へと発展した
1.1 技能実習制度は、典型的な産業研修プログラムとして始まった
1.2 研修と試験が技能実習制度の中核をなす
1.3 技能実習制度は複数のアクターが関与するプロセスである
第2節 特定技能制度は、技能実習制度の上に構築された
2.1 現行の制度では、新たな技能を習得するにつれ、低技能職の移民のより長い滞在が認められる
2.2 技能実習生は許される限り日本に留まる
2.3 特定技能の初期展開は成功
第3節 技能実習と特定技能は労働市場の一部しかカバーしていない
3.1 技能実習生は特定の職種・分野で認められる
3.2 職種と業種の定義が透明でない
3.3 特定技能の対象分野を設定するための明確な手法があれば、政策評価にも役立つ
3.4 農業における外国人労働者受け入れの具体的事例
第4節 技能検定の枠組みは、職業教育の枠組みに基づいている
第5節 日本語教育、日本語試験の海外進出
第6節 外国人労働者のいくつかの脆弱性が残っている
6.1 レント・テイキング(手数料目当ての行動)と借金は依然として問題
6.2 技能実習生は依然として労働条件違反の危険にさらされている
6.3 技能実習制度内での雇用の流動性は制約されている
6.4 ほとんどの技能実習生が雇用主のもとに留まり、コンプライアンスのレベルも高い
6.5 技能実習生は出国要件を遵守している
6.6 技能実習生は日本での長期滞在を希望している
第7節 期限付き労働移住プログラムから長期滞在への移行
7.1 家族の再統合と形成は統合の成果をもたらす
第8節 スキルズ・モビリティ・パートナーシップ・モデルの構築に向けて
第9節 結論
付属資料6.A 賃金構造基本統計調査を用いた技能実習生の賃金分析
付属資料6.B 追加表
あとがき
コラム・図表一覧
――第2章 労働移住の背景
図2.1 老齢従属人口比率(1990~2050年)
図2.2 日本とOECD諸国の労働参加率(2007~22年)
図2.3 日本とOECD諸国の失業率(2007~22年)
図2.4 ハローワークにおける求職者一人当たりの求人数(有効求人倍率)(1973~2022年)
図2.5 雇用人員判断D.I.(企業規模別)(1983~2022年)
図2.6 人手不足と答えた企業(産業分野別)(2019年、2022年)
図2.7 人手不足を申告した雇用主の割合の国際比較(2019年、2022年)
――第3章 日本への労働移住
コラム3.1 日本にルーツを持つ日系人の受け入れに関する過去の経験
コラム3.2 出入国管理基本計画
コラム3.3 日本の労働移民政策における主要なアクター
コラム3.4 日本における在留資格と主な移民グループ
コラム3.5 日本の労働移住に関する主な情報源
図3.1 ブラジル人とペルー人の在留者(1990~2022年)
図3.2 日本における外国人人口ストック(1955~2020年)
図3.3 総人口に占める移民の割合(2011年、2021年)
図3.4 日本の外国人人口ストック(主な移民グループ別)(2010~22年)
図3.5 日本人と移民の人口ピラミッド(2020年)
図3.6 外国人住民の主な出身国(2010年、2021年)
図3.7 移民の主な出身国(特定グループ別)(2010年、2021年)
図3.8 日本で雇用される外国人(2010~22年)
図3.9 15~64歳の雇用における移民のシェア(2011年、2021年)
図3.10 OECD諸国における産業別にみた移民集中度(2018年)
表3.1 外国人労働者と日本人労働者の産業別分布(2020年)
表3.2 外国人労働者の在留資格別シェア(産業別)(2022年)
表3.3 人口上位10都道府県における外国人と日本人のシェア(2020年)
表3.4 外国人労働者の在留資格別シェア(特定都道府県)(2022年)
別表3.A.1 本章における主な外国人グループ
別表3.A.2 外国人労働者の産業別分布(2020年)
別表3.A.3 各産業における移民と現地人の分布
別表3.A.4 産業別雇用に占める外国人労働者の割合(2020年)
――第4章 労働移住の政策枠組み
コラム4.1 OECD諸国の研修生プログラム
コラム4.2 在留資格「特定活動」
コラム4.3 看護師の研修と配属に関する官民国際協力
コラム4.4 国家戦略特区
図4.1 高技能移民の日本への流入(2011~22年)
図4.2 新規移民の国籍:すべての高技能移民vs在留資格「教育」(2011~19年コーホート(世代))
図4.3 OECD加盟国における高度人材ポイント制の構成要素(2021年)
図4.4 最初の在留資格の期間(2011~19年新規入国者)
図4.5 在留資格取得までの流れ
図4.6 技能実習制度には、送出国と日本における異なる責任を担う複数のアクターが関与している
図4.7 技能実習制度のピークは2019年
図4.8 2010年代に急増した技能実習生の流入
図4.9 ベトナムとインドネシアが技能実習生と特定技能外国人の主な出身国である
図4.10 技能実習生の多くは製造業に従事している
図4.11 特定技能制度には日本からも海外からも多くのルートがある
図4.12 特定技能制度は、いくつかの分野で成功を収めている
図4.13 特定活動のストック、フロー、在留資格変更の数(2011~21年)
図4.14 EPAにおける候補者受け入れのプロセス
図4.15 EPA参加者の試験合格率
図4.16 EPAの需給バランス
表4.1 高技能移民の流入フローとストック(在留資格別)(2022年)
表4.2 在留資格「技術・人文知識・国際業務(技人国)」に該当する外国人の主な職業(2015~19年)
表4.3 OECD諸国への企業内転勤者の流入量(2011~22年)
表4.4 在留審査手続き期間の平均日数(2017~22年平均)
表4.5 日本は14か国と協力覚書を締結している
表4.6 日本はOECD加盟国の中で最も多くの「研修生」を受け入れている
表4.7 技能実習計画では、より幅広い職種の分布が示されている
表4.8 在留資格「特定活動」の小分類(告示一覧)
表4.9 特定活動のストックとフロー(サブカテゴリー別)
表4.10 国家戦略特区における労働移住(2022年末現在)
表4.11 介護者の労働移住経路
表4.12 農業労働者の労働移住経路
表4.13 スタートアップ創業者の労働移住経路
別表4.A.1 高技能とされる在留資格
別表4.A.2 高度人材ポイント制
別表4.A.3 在留資格一覧表に記載されている高技能在留資格の対象となる職業
――第5章 高技能移民と留学生の獲得と定着
コラム5.1 移民と雇用者のためのウェブポータルの例
コラム5.2 一般入学試験と語学試験:日本留学試験と日本語能力試験
コラム5.3 日本学生支援機構(JASSO)
図5.1 高技能移民の流入数(国籍別)(2011~22年)
図5.2 在留資格「技術・人文知識・国際業務(技人国)」の入国者数(男女別)(2011~19年)
図5.3 高度人材ポイント制(PBS)による日本への入国と国内での在留資格変更の比較(2015~22年)
図5.4 高技能移民の在留資格別定着率(2011~17年入国者)
図5.5 国籍別の定着率(2011~17年入国者)
図5.6 国籍別5年定着率(2011~17年入国者)
図5.7 全大学生数に占める留学生の人数と割合(2020年)
図5.8 留学生受け入れ数(国籍別)(2011~22年)
図5.9 留学生ストック(教育機関タイプ別)(2011~22年)
図5.10 高等教育機関及び日本語学校における留学生の主な出身国(2013~22年)
図5.11 潜在的移民にとってのOECD加盟国の魅力(大学生)
図5.12 日本における外国人留学生の学費は国際的にみて安い
図5.13 留学生は日本でアルバイトができる
図5.14 卒業後1年間は日本での就職活動が可能(2022年)
図5.15 2011~19年入学年次別の日本に留まっている(元)外国人留学生の割合(2022年末現在の在留資格別)
図5.16 留学生の約3人に1人が入学から5年後も日本に留まる
図5.17 定着率は出身地によって大きく異なる
図5.18 出身地域別留学生に占める男性の割合(2011~17年コーホート(世代))
図5.19 留学生の5年後定着率(2011~17年入学コーホート(世代)別)
表5.1 高技能移民及び帯同家族の上位5か国(2011~19年の流入者数)
表5.2 2011~19年入学者の現在の在留資格と到着時の在留資格の比較(2022年末時点)
表5.3 日本人と比較した技人国の職業分布(男女別)(2019~22年)
表5.4 技人国と帯同家族の言語能力(自己申告ベース)(2021年)
表5.5 日本の高等教育機関における留学生の分野別分布(2014~22年)
表5.6 半数以上の学生が在学中にアルバイトをしている(2017年、2019年、2021年)
表5.7 2011~19年に来日した外国人留学生の日本における在留資格(2022年末現在)
別表5.A.1 推定結果
――第6章 訓練と技能に基づく労働移住
コラム6.1 OECD諸国と日本における国内労働市場を保護するメカニズム
コラム6.2 雇用主は特定技能外国人の雇用に登録支援機関の利用を好む
コラム6.3 コンビニエンスストアと外国人労働者
コラム6.4 家事代行サービスにおける外国人労働者
コラム6.5 移民に農業を奨励(カナダ)
コラム6.6 日越間の公正で倫理的な人材リクルートメントのためのJICAプログラム
コラム6.7 アメリカ国務省の人身取引報告書と技能実習制度
コラム6.8 リクルートにおけるレント・テイキングを削減するための抽選システム
コラム6.9 農業従者の賃金支払いを保証するための仕組み
コラム6.10 家族再統合の資格は滞在期間と関連する
コラム6.11 日本における特定技能を活用したスキルズ・モビリティ・パートナーシップの事例
図6.1 技能実習制度におけるアクターとプロセス
図6.2 日本における労働移民の漸進的スキルアップのための経路
図6.3 技能実習生の日本滞在率(2011~14年入国者)
図6.4 日本における技能実習生の国籍別在留率(2011~14年入国者)
図6.5 日本における技能実習生の在留率(2017~19年入国コーホート(世代)別)
図6.6 特定技能制度は急速に増加している
図6.7 試験経由の特定技能の流入割合が増加している
図6.8 製造業の特定技能試験は魅力的ではない
図6.9 今までの特定技能試験受験者の多くは日本で受験していた
図6.10 介護試験が海外でも拡大中
図6.11 特定技能1号の農業試験はアクセスしやすく、広く行われている
図6.12 ビルクリーニング分野の試験の合格率は高い
図6.13 宿泊業界における特定技能試験に苦戦する受験者たち
図6.14 いくつかのセクターが技能実習制度を独占している
図6.15 特定技能受け入れ人数の当初見込みは修正された
図6.16 技能実習生は基本的な日本語能力を備えているが、自由に会話できる者はほとんどいない
図6.17 技能実習生の雇用主に対する検査で見られた高い違反率
図6.18 技能実習生の主な不満は収入に関するものである
図6.19 失踪する技能実習生はほとんどいない
図6.20 技能実習は退去強制の主なカテゴリーである
図6.21 技能実習生の間では、長期的な日本滞在への関心が高い
表6.1 2010年代後半に急拡大した技能実習制度
表6.2 技能実習生一人当たりの監理費平均額(種類別)
表6.3 テストの受験率と合格率は様々である
表6.4 技能実習と特定技能の各レベルは、「技能検定」の技能レベルに対応している
表6.5 多くの技能実習生が高い授業料を払い、借金を背負って日本に来る
別表6.A.1 推計結果
別表6.B.1 技能実習の対象となる職種と業種
前書きなど
序文
日本の労働移民政策に関する本レビューは、OECDが実施するシリーズの第12弾である。このシリーズは、OECD加盟国の多くで労働移住が増加していること、そして人口動態の高齢化という状況の中で労働移住が今後も増加し続ける可能性があることに対応している。このような観点から、労働移民政策の目的だけでなく、その有効性についての疑問がより呈されるようになっている。
労働移民政策の中心的な目的は、国内の労働市場に悪影響を与えることなく、また移民の脆弱な出身国の発展見通しを妨げることなく、国内の労働供給を活用しても満たすことのできない労働市場のニーズを合理的な時間軸の中で満たす手助けをすることである。こう書くのは簡単だが、その達成をどう評価するかは難しい課題である。これには、労働市場のニーズがどの程度特定されているか、移民が労働市場に影響を与えたかどうかを評価するかといったことが含まれるが、いずれも分析が難しい。
この一連のレビューでは、労働移民政策が受入国の労働市場に悪影響を及ぼすことなくそのニーズを満たすのに効果的であるかどうか、またそのための政策が効率的であるかどうかという問題を取り上げる。これらの問題に答えるため、本レビューでは、1)労働移民政策とその特徴(実施されている政策と流入する労働移民)、2)労働移民政策が国内労働市場の現在及び予測されるニーズにどの程度対応すると同時に国内労働市場にどのような影響を及ぼすか、という2つの主要分野について分析することを目的としている。
日本は、効果的な労働移民政策に関して他のOECD加盟国と同様の課題に直面しており、日本政府が国立社会保障・人口問題研究所とともに、OECDに対して労働移民政策のレビューを要請したのは、このような背景からである。日本は長い間、OECD加盟国の中で人口に比して移民の流入が最も少ない国のひとつであった。しかし、ここ数年で状況は大きく変わった。高齢化が労働力人口に及ぼす影響に対応するため、日本は海外からの労働者の採用において大きな政策変更を導入し、また小規模な政策的イノベーションも行ってきた。
本レビューは、比較的低い水準の国際移住と人口動態に関連した課題を踏まえ、日本特有の文脈における裁量的な労働移民政策の役割はどうあるべきかを問い、今後の政策の方向性を明らかにするものである。