目次
はじめに――本書のねらいと問題意識、特徴
解題[大阪大学大学院教授:志水宏吉]
序章 問題の背景
第1節 コロナ禍における不利の連鎖
第2節 孤立・孤独の問題の顕在化と多セクターによる解決の必要性
第3節 コミュニティ・オーガナイジング――社会的包摂を実現する際の社会変革の必要性
第4節 被差別部落を拠点とする社会的企業の萌芽
第1章 富田地区における部落解放運動の歴史と「包摂型のまちづくり」への転換
第1節 富田地区における部落解放運動の歴史とまちづくり
1.富田地区の歴史
2.富田地区の部落解放運動の歴史
3.富田地区の保育・教育運動の歴史
4.富田地区のまちづくり運動の歴史
第2節 一般社団法人タウンスペースWAKWAKの設立と組織の変遷
1.組織の立ち上げ期
2.社会的企業としての組織形態の確立
3.包摂型のまちづくりへの転換
4.財政基盤の確立
第3節 この章のまとめ
コラム
高槻市富田地区の歴史について[村上民雄]
差別の現実を社会的包摂で超える[岡本茂]
あと、10年かかるかな~!?[岡井寿美代]
部落解放運動とまちづくり[内田龍史]
第2章 富田地区における多セクターとの共創による包摂型のまちづくり――社会的不利を抱える子どもたちや家族の包括支援「子どもの居場所づくり事業」
第1節 計画(planning)
第2節 実行(Action)
1.事業実践
2.実践を通した社会変革のプロセス
第3節 この章のまとめ
1.事業の評価および本章で明らかになったこと
2.次の「実行」へ向けた現状の把握と分析
3.次の実践へ向けた組織変革
コラム
「ただいま食堂」を訪問して[野呂瀬雅彦]
学びの環境としての教育コミュニティ――社会の一員として学び育つ「いまとみらい」[若槻健]
教育と福祉の連携[髙田一宏]
第3章 高槻市域全域を対象としたネットワークの創出――市域広域包摂的なみまもり・つながり事業「フェーズ1」
第1節 計画(planning)
1.計画
2.社会的インパクト評価の導入
3.ガバナンス体制および多セクターによる共創の仕組みの創設
第2節 実行(Aciton)
1.居場所の包括連携によるモデル地域づくり(全国)
2.高槻市子どもみまもり・つながり訪問事業(厚労省支援対象児童等見守り強化事業)
3.実践構築の背景にある社会運動性
第3節 この章のまとめ
1.事業の評価および本章で明らかになったこと
2.次の「実行」へ向けた現状の把握と分析
第4章 高槻市域全域を対象とした官民連携の仕組みの構築――市域広域包摂的なみまもり・つながり事業「フェーズ2」
第1節 計画(planning)
第2節 実行(Aciton)
1.高槻市子どもみまもり・つながり訪問事業(厚労省支援対象児童等見守り強化事業)
2.居場所の包括連携によるモデル地域づくり(全国)
3.厚労省ひとり親等の子どもの食事等支援事業
4.官民連携を生み出すための政治への働きかけ
5.公助の前進
第3節 この章のまとめ
1.事業の評価および本章で明らかになったこと
2.次の「実行」へ向けた現状の把握と分析
第5章 高槻市域全域を対象とした包摂型モデルの形成――市域広域包摂的なみまもり・つながり事業「フェーズ3」
第1節 計画(planning)
第2節 実行(Action)
1.高槻市子どもみまもり・つながり訪問事業(厚労省支援対象児童等見守り強化事業)
2.居場所の包括連携によるモデル地域づくり(全国)
3.子ども家庭庁「ひとり親等の子どもの食事等支援事業」
4.官民連携を生み出すための政治への働きかけ
5.創出された官民連携のモデル
コラム
地域から広がる第三の居場所アクションネットワークの発足[三木正博]
「地域共生社会」へ[谷川至孝]
子どもみまもり・つながり訪問事業は虐待防止に役立ったか[田村みどり]
アウトリーチによる支援構築の重要性[新谷龍太朗]
居場所の包括連携によるモデル地域づくりが目指したものと当実践の評価[湯浅誠]
第6章 全体のまとめと考察
第1節 本書を通して見出された知見
第2節 本書のインプリケーション
1.部落解放運動がベースとなった支援の独自性と普遍性
2.多セクターの共創による社会的インパクトの拡大とWAKWAKの役割
3.支援が届きにくい地域内にある声なきSOSに対しての支援
4.新たな官民連携の仕組み
5.社会的企業の可能性
6.社会運動の必要性
第3節 今後の課題
注
文献リスト
おわりに
前書きなど
はじめに――本書のねらいと問題意識、特徴
本書のねらいは、コロナ禍において、社会課題がより一層複雑化・多様化し、日本社会全体で社会的不利を抱える層により一層の不利が重なる中で公私連携・官民連携等を通じていかに社会的包摂を実現するのか? それを実践書として示すことにある。
2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大、物価高騰により子どもの貧困の課題がさらに深刻化している。それらはとりわけ日本の社会構造上、不利を受けやすい母子世帯をはじめ様々な社会的不利を抱える家庭を直撃している。そのような社会課題の複雑化・多様化に対し、セクターを超えた多セクター共創による課題解決が求められている。
これまで、我が国における教育施策である「学校プラットフォーム」や福祉施策である「地域共生型社会の実現」においても社会的不利益層への支援の必要性が語られてきた。
他方、被差別部落を地区に含む学校を主体とした、地域との連携による社会的不利益層を支える実践においてもそれらは語られてきた。しかし被差別部落を含む地域側が主体となって行ってきた、学校をはじめ多セクターとの共創による実践についての研究はなされていなかった。また、実践の生成プロセスについての研究もなされていなかった。さらに、被差別部落における実践は、従来、同和対策事業という被差別部落を対象とした一部の地域へのアファーマティブ・アクション(積極的格差是正措置)という特性もあったため、他地域(一般地域)への汎用性の低さからも注目がなされにくかった面がある。
このような背景のもと、本書では大阪北部にある被差別部落を有する高槻市富田地区を拠点に活動する社会的企業、一般社団法人タウンスペースWAKWAKの実践に着目した。そして、本書の前身として、著者はその実践を大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程において、修士論文「NPOにおける多セクターとの共創による包摂型地域コミュニティ生成――高槻市におけるアクションリサーチ」にまとめた。そのプロセスを通して、筆者は長年の被差別部落におけるまちづくりや同和教育の実践には、現在の子どもの貧困をはじめとした社会課題の解決に資する価値があるとの確信に至った。
本書はこうした背景、経過のもとで、より広く多様な人たちへと実践を通じた知見を届けるべく、修士論文の実践部分にフォーカスし大幅にリライトしたものである。
本書を通して、これまでそれほど注目がなされていなかった被差別部落発の実践に光をあて、かつそれらを日本全国の社会課題解決のための一助とすることが筆者の願いである。
本書は7章から構成されている。序章は「問題の背景」、第1章は「高槻市富田地区における部落解放運動の歴史と『包摂型のまちづくり』への転換」、第2章は「富田地区における多セクターとの共創による包摂型のまちづくり」、第3章から第5章は3か年にわたって行った「高槻市域、官民連携による居場所の包括連携によるまちづくり」のフェーズ1から3について、第6章は全体のまとめと知見、インプリケーションについて述べている。
そして、実践と研究の往還を行う「アクションリサーチ」のスタイルで実践について反復的、螺旋的に「計画-実行-評価」のステップを踏み、その変化の記録について、自身の活動について自己内省的な視点から論じている。
また、各章においてコラムとして地域関係者、学識者、学校関係者、NPO関係者をはじめ様々なアクターから様々な切り口で寄稿を得ているのも本書の特徴である。
本書がこれまで当事業へご支援を頂いた、たくさんの方々へのご報告となること、この取り組みのひな形や知見、インプリケーションが他地域の課題解決の一助になることを切に願っている。