目次
序章 問題の所在と研究方法
第一節 アルジェリアの地政学的位置
第二節 本書の問題設定と分析視点
第三節 研究方法と史料
第四節 本書の構成
第一部 オスマン帝国支配下のアルジェリア農村社会
第一章 アルジェリアにおけるトルコ人国家の形成と支配構造の変容
第一節 アルジェ政庁の成立
第二節 アルジェ政庁の統治機構
第二章 トルコ人国家デイ政権下の土地制度と社会階層
第一節 農村共同体の地域類型と生活様式の諸形態
第二節 土地所有の諸形態
第三節 トルコ国家の徴税制度
第四節 トルコ政権支配末期のアルジェリア社会
第三章 一九世紀初頭の地中海と「アルジェリア危機」――トルコ政権崩壊の過程に関する一考察
第一節 アルジェリアの農村と海外市場
第二節 一九世紀初頭の地中海とデイ政権
結語
第二部 フランス植民地政策とアルジェリア農村社会の変容
第四章 アルジェリア植民地化と行政町村(コミューン)の形成
第一節 ヨーロッパ人の入植と市町村制の確立
第二節 原住民部族の植民地行政町村への統合
結語
第五章 フランスによる軍事的占領下の土地政策と国有地の形成(一八三〇~五一年)
第一節 フランスの土地政策
第二節 トルコ政権崩壊に伴う土地収用
第三節 部族地の収用
第四節 一八五一年六月一六日法律による土地所有権の設定と国有地の規定
第五節 初期の植民地拠点の樹立と原住民社会の変容
結語
第六章 アルジェ州ミチジャ平野における原住民隔離政策と土地所有の再編成(一八五二~六四年)
第一節 土地取引分配委員会の成立
第二節 原住民隔離(カントンヌマン)政策の施行(一八五二~六四年)
第三節 ヨーロッパ人入植村の成立
結語
第七章 アルジェリアにおける一八六三年元老院決議(土地法)の適用と農村社会の再編――植民地行政町村(コミューン)の形成をめぐって
第一節 一八六三年四月元老院決議の発布
第二節 アルジェ州における一八六三年元老院決議の適用
第三節 植民地行政町村(コミューン)の形成――トゥニエ・テル・ハアド市の事例を中心に
結語
第八章 アルジェリアにおける一八七三年ワルニエ法と私的土地所有権の成立――原住民からヨーロッパ系入植民への土地所有権の移転
第一節 一八七三年ワルニエ法と私的土地所有権の導入
第二節 ウアルスニス山地における一八六三年元老院決議・一八七三年ワルニエ法の適用と農民の土地喪失過程
結語
第三部アルジェリア植民地社会の構造とその崩壊過程
第九章 二〇世紀の植民地社会の構造
第一節 ヨーロッパ人社会の優位
第二節 アルジェリア人農業の衰退
第三節 一九五四年の都市における経済的社会的状況
第一〇章 アルジェリア独立戦争と農村社会の変動
第一節 独立戦争
第二節 フランス軍の「再編成」政策
第三節 住民の移住形態と再編成の型
第四節 軍事的政策から新村落創設へ
第一一章 アルジェ州北部の新村落の成立過程
第一節 アルジェ州北部の住民再編成
第二節 ブリダ・アトラス山麓地方における新村落の創設
第三節 西ミチジャ平野の変化
第四節 都市における「ルカズマン」
結語
終章 アルジェリアにおけるフランス植民地主義と歴史認識
第一節 アルジェリアの土地制度――イスラーム法からフランス近代法へ
第二節 植民地社会の構造と変容
第三節 アルジェリア戦争における住民再編成政策――誰がその歴史を書くのか
第四節 現代フランスにおけるアルジェリア植民地史をめぐる「記憶の戦争」と歴史認識
あとがき
初出一覧
参考史料・文献リスト
註
索引
Structure et évolution du régime colonial en Algérie.
前書きなど
序章 問題の所在と研究方法
(…前略…)
本書は、フランス植民地帝国の中でももっとも重要な位置を占めたアルジェリアの植民地時代の土地政策と農村社会の変容を分析しようとするものである。すなわち一九世紀のフランスの植民地政策と入植民社会の形成過程、そしてそれに伴い原住民(当時の歴史史料や研究書のIndigèneという表記に則り本書ではあえて「原住民」という表記を基本的に用いる)が土地を失い部族共同体が解体していくというアルジェリア農村社会の変容過程を明らかにすることであるが、それはアルジェリアの民族運動が芽生え発展していく背景を、社会経済史の視点から解明しようとするものでもある。
(…中略…)
本書では、アルジェリア社会が土地政策によってどのような変容を蒙るのかという社会経済史の観点から、次のような三つの段階を想定して研究を進める。まず第一は、オスマン政権崩壊を受けてトルコ支配地(ベイリクbeylik地、ハブウスhabous地)を収用する、第二は、部族の抵抗に対する政策として部族地を没収(sequestreなど)する、第三は、部族地の法的解釈を行った上で部族を分割して村落をつくり、さらに原住民の中に私的土地所有権を導入確立するという三段階である。
以上述べてきたように、本書の中心テーマは、一八三〇年から一九世紀末までの土地政策の展開過程を、とりわけ一九世紀中葉の一八六〇年代から七〇年代に焦点を合わせて検討するものであるが、それは第二部で取り上げる。アルジェリアの農村社会がフランス植民地政策によってどのように変容するかを分析するためには、その前提として植民地化以前のアルジェリア社会を捉えておく必要がある。そこで第Ⅰ部でオスマン帝国支配下のアルジェリアの土地制度と社会階層をアルジェ政庁のトルコ政権との関係から明らかにしておく。
そして植民地期を扱う第二部と第三部では、フランス植民地政策で生み出された二〇世紀のアルジェリア植民地支配の構造がどのようなものであり、それはいかにして崩壊の過程をたどるのかを検討する。
(…後略…)