目次
はじめに[山下幸子]
第1部 障害の理論と研究
第1章 反優生と障害学――優生保護法の真の撤廃に向けて[市野川容孝]
第2章 障害から始まるが、障害では終わらない――批判的障害学によって拓かれ、繋がる領野[田中耕一郎]
第3章 アメリカ障害学と日本への示唆[杉野昭博]
第4章 国連の障害概念――佐藤久夫名誉教授の所論をめぐって[川島聡]
第5章 正義論と障害[堀田義太郎]
第6章 インターセクショナリティを編み込む――闘いのための障害学研究へ[飯野由里子]
第7章 日本ろう者学と日本障害学の交差[高山亨太]
第2部 障害の経験
第8章 経験を表すことばを作ること[熊谷晋一郎]
第9章 障害のある女性が積み重ねてきた経験をたどる[河口尚子]
第10章 移動と抵抗――小田さんの話[寺本晃久]
第11章 自閉スペクトラム者の経験――当事者研究と共同創造[綾屋紗月]
第12章 精神障害の経験[桐原尚之]
第13章 アルビノはどうやって障害学の研究対象になったのか――「できるように強いる社会」を対象化する社会モデルの展望[矢吹康夫]
第14章 「あ、か、さ、た、な」で地域で暮らす[天畠大輔]
第15章 親の愛をけっ飛ばす/親であることをけっ飛ばす――障害のある人と家族をめぐる経験[土屋葉]
第3部 障害の政治
第16章 自立生活運動の原点としての「青い芝の会」[廣野俊輔]
第17章 専従介護の誕生――あるいは、脳性まひ者のエロスについて[深田耕一郎]
第18章 障害者介護/介助における関係性についての議論の現在[山下幸子]
第19章 就学運動――共生共育をもとめて[堀正嗣]
第20章 欠格条項・入口での排除に抗する[臼井久実子]
第21章 「ケアの自律」と障害者福祉政策の課題[岡部耕典]
第22章 知的障害者の脱施設化[鈴木良]
第23章 国際的障害者運動の展開――voice of our ownとnothing about us without us[長瀬修]
第24章 当事者参画のポリティクス――内閣府障害者政策委員会を舞台に[石川准]
おわりに[石川准]
【付録】ないにこしたことはない、か・1[立岩真也]
前書きなど
はじめに
日本の障害学会は2003年10月に設立された。障害学会は会則第2条にあるとおり、「障害を社会・文化の視点から研究する障害学(Disability Studies)の発展・普及と会員相互の研究上の連携・協力をはかることを目的とする」学術団体である。この目的に向かい、毎年の学会大会を開き、学会誌『障害学研究』を継続して発行してきた。
2023年度は障害学会設立20周年を迎える記念すべき年である。この年を迎えるにあたり障害学会では、2021年に、第10期障害学会会長である石川准を委員長とし、障害学会20周年記念事業実行委員会を立ち上げた。本誌『障害学の展開――理論・経験・政治』は、この実行委員会内に位置づく出版事業ワーキンググループにより編まれた論集である。なお、本誌は『障害学研究』第20号である。通例の『障害学研究』は会員による投稿論文やエッセイなどから構成されるが、本誌は20周年記念号として、この号のみ障害学会20周年記念事業実行委員会出版事業ワーキンググループ(以下WG)が編集を担い、WGから会員に対しての依頼論文で構成されている。
(…中略…)
(……)本誌の柱として3部構成を立てた。第1部「障害の理論と研究」、第2部「障害の経験」、第3部「障害の政治」である。
振り返れば、障害学の基本に即した部構成となっている。日本において「障害学」を銘打つ初めての書籍が、石川准と長瀬修により編まれた『障害学への招待』(1999年、明石書店)である。その第1章で、長瀬修は障害学について次のように述べた。「障害学、ディスアビリティスタディーズとは、障害を分析の切り口として確立する学問、思想、知の運動」であり、「障害学にとって重要なのは、社会が障害者に対して設けている障壁、そしてこれまで否定的に受けとめられることが多かった障害の経験の肯定的側面に目を向けることである」。この文章が書かれてから20年以上が経っているが、今もなお取り組むべき点が記されている。障害の多様な経験を元に、ディスアビリティを生じさせる当該社会の構造を批判的に分析する理論や視点を鍛え、ディスアビリティ除去に向けた実践を重ねていく営みが、障害学である(ここでは、社会的障壁により障害者が被る不利益をあらわす際には「ディスアビリティ」を用い、ディスアビリティまたはインペアメントをあらわす際には「障害」を用いる)。「理論と研究」「経験」「政治」の3部および各章は、互いに関連しあいながら、日本の障害学の現在をあらわしている。
(…中略…)
本誌末に、立岩真也氏による「ないにこしたことはない、か・1」を再録している。これは、2002年に明石書店から出版された『障害学の主張』に掲載されている論考である。この論考は、障害の経験を論じる第2部はもちろん、障害をいかにとらえるかを論じる第1部、第3部「障害の政治」のうち、特に「介助の制度化」の素地となるような論考である。本誌の各部に関連する論点が、立岩氏の論考に含まれていると考え、再録している。
本誌を通して、日本における障害学研究の20年の歩みと現在を読み取っていただけると幸いである。障害学が取り組むべき課題は山積している。それらをこれからの障害学会の場で、共に考えていくことを、私たちは願っている。