目次
偶然コンサルタントになる
第1章 数字で仕事をする
クジラ曲線
銑鉄の物語
大卒者
銑鉄物語の真実
クジラ狩りの方法
マネジメントという偶像
岸に戻る
第2章 人間を第一に
独立記念日
人間至上主義のイデオロギー的起源
反革命
人間についての正しい研究
ピラミッドとその不満足
第3章 先を読むこと
戦略はいかにしてビジネスとなったか
戦略のケース・スタディ
ローマが燃えているときに計画を立てる
プランニングで儲ける方法
戦略について語るときにコンサルタントが語ること
コンサルタントよ、汝自身にコンサルせよ
教室での戦略論
戦略論の市場価値
第4章 「超優良」を求めて
トム・ピーターズと神との対話
ようやく自由の身になる
「超優良」の科学
裁判
マネジメントの教祖になるための簡単な五つの方法
約束の地
マネジメント教育の未来
文献に関する付記
謝辞
訳者あとがき
参考文献
索引
前書きなど
訳者あとがき
本書『マネジメント神話――現代ビジネス哲学の真実に迫る』は、Matthew Stewart, The Management Myth: Debunking Modern Business Philosophy, W. W. Norton & Company, 2009 の全訳である。著者のマシュー・スチュワートは、一九六三年生まれで、プリンストン大学で政治哲学を専攻し、一九八八年にオックスフォード大学で『ニーチェとドイツ観念論』という論文で哲学の博士号を取得した(本書でニーチェへの言及が多いのはこのためであろう)。博士号取得後、スチュワートはアカデミアの世界を飛び出し、経営コンサルタントとして働く道を選ぶ。その後、著述業に転向し、The Truth About Everything: An Irreverent History of Philosophy(一九九七年)、Monturiol’s Dream: The Extraordinary Story of the Submarine Inventor Who Wanted to Save the World(二〇〇四年)(邦訳:マシュー・スチュワート著、高津幸枝訳『1859年の潜水艇――天才発明家モントゥリオールの数奇な人生』、ソニー・マガジンズ、二〇〇五年)、The Courtier and the Heretic: Leibniz, Spinoza, and the Fate of God in the Modern World(二〇〇六年)(邦訳:マシュー・スチュアート著、桜井直文・朝倉友海訳『宮廷人と異端者――ライプニッツとスピノザ、そして近代における神』、書肆心水、二〇一一年)、The Management Myth: Debunking the Modern Philosophy of Business(二〇〇九年、本書)、Nature’s God: The Heretical Origins of the American Republic(二〇一四年)、The 9.9 Percent: The New Aristocracy That Is Entrenching Inequality and Warping Our Culture(二〇二一年)、An Emancipation of the Mind: Radical Philosophy, the War over Slavery, and the Refounding of America(二〇二四年刊行予定)といった著作を世に送ることになる。本書で語られるエピソードは、博士号を取得してアカデミアから経営コンサルタントに転身した著者自身の経験がベースとなっている。以下、本書の概要と「読みどころ」について簡単に解説しておきたい。
本書『マネジメント神話』は全四章から成るが、それぞれの章が、経営コンサルタントとしての著者スチュワートの経験を語るパート(以下「コンサルパート」と呼ぶ)と、フレデリック・テイラーからトム・ピーターズに至るまでの、いわゆる「マネジメント思想家」に関する批判的解説のパート(以下「マネジメントパート」と呼ぶ)が交互に配置されているという構成を持っている。
各章のマネジメントパートで取り上げられる思想家は、フレデリック・テイラー、エルトン・メイヨー、イゴール・アンゾフ、トム・ピーターズで、それぞれ、経営管理論、人間関係論、経営戦略論、超優良企業論という「経営学」の分野が対応している。したがって、片方のパートだけを取り出して読むこともできなくはない。実際、マネジメントパートだけを読んでも読者は多くを学ぶことができるだろうし、コンサルパートだけを読み、経営コンサルタントのドタバタを楽しむこともできるだろう。しかし、この二つのパートが内容の点でも連関しているということもまた本書の特徴として指摘することができる。テイラーによる科学的管理法、メイヨーによる人間主義的経営、アンゾフの経営戦略、そしてピーターズの超優良企業論というアメリカのマネジメント思想の展開にまさに沿うようなかたちで、個体発生が系統発生を繰り返すという生物学者ヘッケルの反復説さながらに、スチュワートのコンサルタント人生は進展するのである。博士号取得後に就職したコンサルティング会社(インターネットで検索すれば実名は簡単にわかる)で儲けさせてくれるクライアントを探す「クジラ狩り」の日々を送り、やがて独立騒動と内輪揉めに巻き込まれ、給料未払いのトラブルと法廷闘争の果てに、スチュワートは、マネジメント思想の教祖たちの教えにしたがった結果会社が破滅したのだと述懐するに至る。こうして、最終章に該当する「マネジメント教育の未来」ではビジネス・スクールが提供する「研修」に対して批判的な見解が披露される。
(…後略…)