目次
序文
日本語版刊行にあたって
第Ⅰ部 異文化間教育の基本概念と論点
1.1 基本概念
第1章 文化
第2章 移住
第3章 移民
第4章 エスニシティ
第5章 マイノリティ
第6章 統合――包摂
第7章 同化――文化変容
第8章 異文化間能力
1.2 議論の展開
第9章 インターカルチュラリティ―マルチカルチュラリティ―トランスカルチュラリティ
第10章 ダイバーシティ
第11章 移住と言語教育
第12章 移住と宗教
第13章 移住とジェンダー
第14章 人種主義と差別
第15章 移住と人口統計
第16章 移住と社会化
第17章 バイカルチュラルなパートナーシップと婚姻
第Ⅱ部 異文化間性へのアプローチ(隣接学問領域)
第18章 社会学における移住研究
第19章 政治学の視点
第20章 コミュニケーション学:移住とメディア
第21章 文化に対する心理学的観点
第22章 多言語性
第23章 異文化間にかかわるドイツ語・ドイツ文学研究
第24章 移住史研究
第25章 地理学における異文化間概念
第26章 経済学における異文化間性
第27章 さまざまな哲学の視点
第28章 医療と保健機関における異文化間性
第29章 民族学と異文化間性
第30章 カルチュラル・スタディーズとポストコロニアリズム
第Ⅲ部 教育学の研究対象としての異文化間概念
3.1 研究領域別にみる理論的展開
第31章 異文化間教育
第32章 比較教育学
第33章 人間形成研究
第34章 幼児教育
第35章 学校教育学
第36章 学校の質研究
第37章 学校開発研究
第38章 授業研究
第39章 社会教育
第40章 特殊教育
第41章 成人教育/継続教育
第42章 教科書研究
3.2 異文化間教育の理論と取り組み
第43章 教育の一般的課題としての異文化間教育
第44章 政治教育における異文化間学習
第45章 人権教育
第46章 グローバル学習と持続可能な開発のための教育
第47章 教育活動における人種主義批判アプローチ
第Ⅳ部 異文化間関係をめぐる政治的・法的課題
4.1 政治
第48章 移民受入政策・統合政策の教育への影響
第49章 移民受入政策・統合政策の国際比較
第50章 EUの教育政策
第51章 地方自治体の統合政策
4.2 法
第52章 基本権の保有者としての移民
第53章 EU域内の移動・居住の自由
第54章 第三国国民の入国方法
第55章 避難と庇護
第56章 滞在資格:安定化、終了、帰化
第57章 教育修了資格・職業訓練修了資格の承認
第58章 法的概念としての統合
第59章 少数者保護
第60章 学校における移民の子どもの法的問題
第Ⅴ部 異文化間教育の施設と場
5.1 教育施設
第61章 保育
第62章 移住社会における学校・学校モデル
第63章 バイリンガル学校
第64章 職業教育における異文化間学習
第65章 市民大学における異文化間教育
第66章 大学:国際化とダイバーシティ
第67章 自治体という教育圏と地域の教育ネットワーク
5.2 社会化の空間
第68章 社会化を担う場としての家族
第69章 若者とピア
第70章 教育のパートナーとしての親
第71章 協会・青少年センター・市民センター
第72章 若者の交換プログラムと交流活動
第73章 移民の自己組織
第74章 統合コース
5.3 文化活動の場
第75章 異文化の学びの場としての図書館
第76章 演劇
第77章 博物館
第78章 記念碑と追悼の場
第79章 デジタルメディアと異文化間性
第80章 デジタル学習日記
第Ⅵ部 保育施設・学校における異文化間教育
6.1 教育政策の枠組みと基本理念
第81章 保育カリキュラム
第82章 教育政策目標の設定―カリキュラム―教育スタンダード
第83章 新規入国の子ども・青少年の統合
6.2 乳幼児期における異文化間教育
第84章 3歳未満の子どものケアと教育
第85章 異文化間教育の構想
第86章 異宗教間学習
第87章 言語教育
6.3 学習領域・教科
第88章 一貫した言語教育:教科横断的課題
第89章 ドイツ語科
第90章 第二言語としてのドイツ語教育
第91章 外国語科
第92章 政治教育
第93章 歴史教育
第94章 地理教育
第95章 事実教授
第96章 自然科学系科目
第97章 算数・数学科
第98章 哲学科・倫理科
第99章 宗教科・異宗教間授業
第100章 イスラム教授業
第101章 寛容教育
第102章 美術科
第103章 音楽科
第104章 スポーツ・体育科
第Ⅶ部 異文化間教育の担い手の養成・資格
第105章 異文化間トレーナー
第106章 異文化間・異宗教間の仲裁
第107章 第二言語としてのドイツ語講師
第108章 社会教育士
第109章 成人教育の講師
第110章 保育士
第111章 教師
第112章 大学における異文化間教育科目:追加的学修から修士課程へ
執筆者一覧
索引
訳者解説
謝辞
前書きなど
序文
人の国際移動、経済・文化のグローバルな結びつきの多様な進展が、地球上のあらゆる社会を根底から変化させてきた。ドイツ社会においても、文化、言語、社会の多様性が過去のどの時代よりも色濃く現れている。
こうした状況においては、移民にも移民でない人にも、子どもにも青少年にも大人にも、社会のあらゆる構成員に異文化間能力が求められる。異文化間学習とは、理性的に、相互理解に基づき、寛容の精神をもって共に生き、文化的・言語的・社会的な出自によらず、すべての人に対して、心を開き、分別と敬意をもって向き合うことができるようになるためのものである。相違の現れる場面で適切に行為するという能力には知識と経験が必要であるが、そうした行為をしようとする動機づけや意思も同じく必要である。教育にかかわる分野の人々にとって、これができることは専門家として必須の能力なのである。
(…中略…)
教育政策上の施策やモデルプロジェクトとそこから生じた論争にともなって、教育学で異文化間にかかわる問題に取り組まれることが増えてきた。1970年代から専門領域が形成され、1980年代からはその多くが異文化間教育という名称を用いるようになった。2000年代以降は、教育学のなかのほかの分野でも異文化間にかかわる問題や議論が取り上げられるようになってきた。同じことは、一連の隣接学問(社会科学、人文科学、言語学、法学、さらに医学)にも言える。それによって、欧州統合の一端でもあり、グローバル化を進める要素でもある移住は、教育分野だけではなく、(住宅、労働、保健、福祉、余暇、文化などの)あらゆる政策分野で国内社会を変容させていることがはっきりとみえてきた。教育の領域で問題になるのは、学校教育へのアクセスだけではない。本書の諸論考が明らかにしているように、教育機関全体、社会化の担い手すべてに難題が課せられているのである。
ここまで述べてきたような状況では、政治的・社会的発展やその教育への影響について、教育学のあらゆる下位分野および教育学以外の学問分野での関連する重点課題を含め入れて、体系的に分析することが求められる。このような観点から、われわれ編者は本書を企画し、さまざまな視点と方法を結びつけようと試みた。約150人の著者に依頼をかけ、100を超える論考でそれぞれの専門知識とその学問分野の視角を提示することができた。
このハンドブックには、最先端(State of the Art)が描かれており、刊行時点での専門知、つまり、あるテーマについての研究や議論の状況について、それぞれの著者の視点から要約され、わかりやすいかたちで表されている。本書は、ドイツでの最新の専門的な議論が中心となっているが、必要かつ可能な範囲で、歴史的な展開や国際的な視点を含めている。とくに強調すべきは、実証的に裏づけられた知見が示されていることである。理論や実践における論争点についても検討している。また、今後の研究による解明が期待される部分や教育実践への関連づけが指摘されている。このハンドブックは、教科書がもつ体系性と事典がもつ概念やテーマについての詳しい論述とを併せもつものである。
『異文化間教育ハンドブック』は、言語、文化、社会の多様性が教育にもたらした帰結に携わる学生、実務家、研究者すべてに向けられている。対象となる分野が複雑で、それがゆえにはっきりと分化してしまっているなかでの見取り図として役立ててほしい。本書は、教職課程や教育学・社会科学のあらゆる専攻の学生のために書かれたものであり、まったく同じく教育学および関連する隣接学問分野の研究者やさまざまな教育活動分野の教育職に向けられたものである。
(…後略…)