目次
はじめに
序章 児童相談所とは、児童相談所の現状
第Ⅰ部 児童相談所小史
第1章 戦後から現在に至るまでの児童相談所と児童虐待の変遷
1.1 第1期:戦災孤児・浮浪児及び非行児対応に追われた時期(昭和20年代)
1.2 第2期:個別の指導や治療に目が向けられていった時期(昭和30年代)
1.3 第3期:知的障害児等の支援を中心とした障害児の在宅サービスに直接、児童相談所が関与していった時期(昭和40年代から50年代にかけて)
1.4 第4期:情緒障害児への対応を行った時期(昭和50年代から60年代にかけて)
1.5 第5期:被虐待児が注目され、児童相談所の緊急対応ばかりでなく機関連携や協働を行う時期(平成12年以降)
1.6 第6期:虐待ケースへの治療指導を行う時期(平成15年以降)
1.7 まとめ
第2章 児童相談所運営・実務マニュアルの変遷からみる児相史
2.1 児童福祉マニュアル(昭和26年1月)
2.2 児童福祉必携(昭和27年3月)
2.3 児童相談所執務必携(昭和32年3月)
2.4 児童相談所執務必携(改訂版)(昭和39年3月)
2.5 児童相談所執務提要(昭和52年3月)
2.6 児童相談所運営指針(平成2年3月初版以降度々改正)
第3章 過去と現在の児童相談所に寄せられる相談内容から読み取れるもの
3.1 事例A:離婚による経済的、精神的負担等が起因する要保護家庭
3.2 事例B:サラ金の取り立てに追われる要保護家庭
3.3 事例C:主に本人の性格と発達課題や自己同一性の問題
3.4 事例D:保育園からの虐待通告による緊急一時保護と法的対応
3.5 事例E:近隣住民による虐待視から逃れるために転居をする母親(私こそ被害者です)
3.6 事例F:多問題家族(継父、実母の依存症と本人のPTSDの疑いを背景とした不登校)
3.7 事例G:ゲーム、インターネットにのめり込む子どもたち
3.8 まとめ
第Ⅱ部 変化を迫られる児童相談所から進化する児童相談所へ
第4章 虐待通告と介入
4.1 通告に対する介入について
4.2 虐待通告から介入そして支援へ:初期介入を民間委託すること
4.3 公的機関による初期介入(神戸市こども家庭センター他)
4.4 児童相談所の一極集中型でできる東京都特別区
4.5 初期対応と警察との連携
第5章 家族再統合事業:単に家庭に戻すのではなく地域に戻すという視点
5.1 家族再統合に関する国の考え方、通知、根拠
5.2 保護者に対する心理アセスメントの必要性と保護者支援プログラム
5.3 事例1:埼玉県児童相談所における家族支援、家族再統合
5.4 事例2:宮城県における家族再統合事業
5.5 事例3:神奈川県相模原市児童相談所
5.6 事例4:栃木県中央児童相談所
5.7 事例5:東京都児童相談センター
第6章 大都市部においてセンター化する児童相談所
6.1 児相の一極集中化あるいは機能分散化(児相のセンター化が持つ意味)
6.2 単独児相から「センターの児相」になるまで(さいたま市児相の経緯)
6.3 さいたま市児相の当時の所長・菅野氏インタビュー
6.4 児相が入るさいたま市子ども家庭総合センター
第7章 新しい児童相談所は何をめざしているか:東京都特別区児童相談所
7.1 東京都特別区における「子供家庭支援センター」
7.2 荒川区子ども家庭総合センター
7.3 港区児童相談所
7.4 板橋区子ども家庭総合支援センター
7.5 中野区子ども・若者支援センター
7.6 豊島区児童相談所
7.7 葛飾区児童相談所開設準備室
7.8 まとめ
第8章 地域の社会資源との連携・協働
8.1 児相が地域(家庭)にアウトリーチする
8.2 地域(民間団体)が家庭にアウトリーチする家庭訪問型子育て支援ホームスタート
第9章 地域の施設を活用する:親子ショートステイ・ショートケア
9.1 子育て短期支援事業(子どものショートステイ事業)
9.2 中野区母子等一体型ショートケア事業
9.3 おやこショートステイ「VOGUE千葉」
第10章 一時保護中の子どもの権利擁護と心理教育
10.1 一時保護所における権利擁護
10.2 事例1:埼玉県の児童相談所
10.3 事例2:荒川区子ども家庭総合センター(児童相談所)
10.4 事例3:港区児童相談所
10.5 事例4:中野区児童相談所
10.6 入所児童の心の安定を図る心理教育(埼玉県の一時保護所における取り組み)
第11章 司法関与のあり方
第12章 これからの児相は何をめざすべきか:現状と課題
12.1 さいたま市児童相談所(南部・北部)所長インタビュー
12.2 これからの児童相談所のあり方
12.3 介入と支援(ケア)を分離する
12.4 家族再統合・保護者支援プログラムの構造化
12.5 本当に「家族再統合事業」という言葉で括ってよいのか?見かけだけの家族をどうするか?
12.6 児相の多機能化、地域に根ざす児相、児相を含む様々な機関が構成するセンター化のメリットと注意点
12.7 一時保護中の権利擁護と家庭復帰に向けての親子一時保護によるショートケア
12.8 児童虐待を依存症ないしはアディクションと捉えた場合のケアのあり方
参考文献・資料
あとがき
前書きなど
はじめに
この本は、歴史的経過を踏まえ、今もなお変化し続ける、というよりも、進化し続ける激動期の児童相談所の姿を映し出したものである。そして、執筆の原動力となったのは児童虐待の防止であり、あまりにも様変わりした大都市(政令指定都市、東京都特別区)における児童相談所である。
(…中略…)
児童相談所は長い間、子どもの「よろず相談所」であった。そのことは後述する児童福祉必携(昭和27年)のなかで挙げられている相談例と現在の相談内容を比較してみれば一目瞭然である。かつて児童福祉法第15条の2において児童相談所の業務は「児童に関する各般の問題につき、家庭その他からの相談に応ずること」と規定され様々な相談を受けていた。児童福祉法の改正により、児童相談所の役割が市町村の後方支援にシフトした現在も相談の間口は同じであるが相談の多くは虐待を含む養護相談が多数を占めるようになってきている。そこで、児童相談所における相談事例の変遷をたどっていくと、時代の要請に応じて相談の内容が変化していったことが分かる。
(…中略…)
児相は単独で機能することはもはや限界に来ているということをあらわしている。児相はあまりにも多くの役割を引き受け、担わされてきた。こういった児相機能は子育て環境に応じて単に「変化せざるを得なかった」として捉えるのではなく試行錯誤を重ねながら自ら改革し「進化」したものととらえるべきである。
国は平成28年に児童福祉法等の一部を改正する法律を成立・施行した。その概要は「全ての児童が健全に育成されるよう児童虐待について発生予防から自立支援まで一連の対策の更なる強化等を図るため、児童福祉法の理念を明確化するとともに、母子健康包括支援センターの全国展開、市町村及び児童相談所の体制強化、里親委託の推進等の所要の措置を講ずる」として、以下を挙げている。
(1)児童福祉法の理念の明確化等
(2)児童虐待の発生予防
(3)児童虐待の発生時の迅速・的確な対応
(4)被虐待児童への自立支援
この法改正をベースとして「社会的養護の課題と将来像」に代わって「新しい社会的養育ビジョン」が示され「子どもが権利の主体であること」「家庭養育優先の理念が規定されたこと」が強調されている。
この本ではこのことを踏まえて上記の(1)~(4)における児童相談所とその関連する機関が現在に至るまでどのように対応してきたかをいくつかのテーマを選んで重点的に記述したものである。そこでまず、進化を遂げてきた児相について私なりにその歴史を紐解いてみた。過去をたどらないと現在の置かれている状況が分からないからである。
最初にお断りしておくがこの本はまた、虐待の病理と治療論を主なテーマとしたものではない。ただし、第12章の「児童虐待を依存症ないしはアディクションと捉えた場合のケアのあり方」のなかで若干の考え方を示した。メインは児相が取り組むべき喫緊の課題と現状をリアルに伝える中で提案できることを模索したものとなっている。前半は戦後、児童福祉法の下に児童相談所が各都道府県等に設置され、公的機関として児童相談をオールマイティに行ってきた期間をある自治体(埼玉県)を例にとり簡単にその経緯を説明した。後半は児童虐待通告・相談が急増し明らかに転換期に差し掛かっている現代の児相を含め児童相談諸相にスポットを当てた内容になっている。話の中心は「家族再統合」と「児相のセンター化」に絞った。児童虐待防止のために、児相はなぜこれほどにまで変わらなければならなかったのか、そして進化しているのか、最後まで目を通していただければご理解していただけると思う。
また、この本の特徴として、私の撮った画像、提供された画像、図表を多く掲載してあることだ。これは一般読者を意識し、児相とはどういう機関なのかをわかりやすくするために挿入したものである。そして、第Ⅱ部は現状をリアルに伝えるためにルポ形式で筆を進めた。
(…後略…)