目次
序文
頭字語・略語
要旨
概観
第1章 経済的成果のための人的資本の重要性
はじめに
第1節 OECD加盟国の構造的な政策の重要優先課題としての人的資本
第2節 経済的成果の原動力としての人的資本:定義と概念的枠組み
第3節 個人の教育成果を示す実証的なミクロ経済学的エビデンス
第4節 教育の全体的な影響に関する実証的なマクロ経済学的エビデンス
第5節 マクロ経済的な教育成果の推定を改善するための新しい人的資本指標
キーメッセージ
第2章 教育がもたらす広範な社会的成果――個人と社会の繁栄のための教育
はじめに
第1節 より健康的で幸福な人生のための教育
第2節 より市民的で、共生的で、包摂的なコミュニティと社会のための教育
第3節 変化し続ける世界のための教育
キーメッセージ
第3章 学校財政の運用と分配――資源と学習を効果的に結びつける
はじめに
第1節 学校教育における資金調達と支出の責任を配分する
第2節 分権化した学校財政システムの複雑性にホール・システム・アプローチで対処する
第3節 財政を運用・分配するための裁量を学校に与える
第4節 私立教育機関に対する公的助成のための規制枠組みを設定する
第5節 学校財政への総合的アプローチを確立する
キーメッセージ
第4章 学校財政の活用――教育の効率性と公平性を両立させる
はじめに
第1節 質の高い幼児教育・保育(ECEC)を支援する
第2節 教員の質に投資する
第3節 教育の失敗を減らす
第4節 学校拠点ネットワークを需要の変化に合わせる
キーメッセージ
第5章 学校予算執行の計画と監視――公平性と実績を向上させる
はじめに
第1節 予算編成を政策目標に関連付ける
第2節 学校予算の執行を評価する
第3節 予算編成プロセスにおける地方の能力を強化する
キーメッセージ
監訳者解説
コラム・図表一覧
――第1章 経済的成果のための人的資本の重要性
図1.1 構造的な政策の重要優先課題のなかの人的資本
図1.2 人的資本に関する政策提言
図1.3 生徒と成人のテストスコアの相関
図1.4 スキルと製品市場競争を改善する政策の効果の比較
――第2章 教育がもたらす広範な社会的成果
コラム2.1 教育システムのパフォーマンス測定におけるホール・チャイルド・アプローチ
コラム2.2 教育による犯罪の減少:米国における社会的利益の推定
図2.1 数的思考力の習熟度が自己報告による健康状態に与える効果
図2.2 ネガティブな感情バランスを経験した人口の割合(学歴別)
図2.3 事実と意見を区別する読解力の課題と偏った情報の見抜き方を学校で学ぶ機会
図2.4 学士号を取得した成人のうち、他者を信頼すると回答した者
図2.5 初期教育と高等教育における公平性
図2.6 情報・コミュニケーション目的のインターネット利用と比較して、多様で複雑なインターネット利用の可能性にスキルが与える効果
図2.7 授業・学習目的でのデジタルデバイスの利用と生徒の成績
図2.8 生徒の環境への意識と自己効力感、環境行動への参加
――第3章 学校財政の運用と分配
コラム3.1 教育財政分権化改革の一環としての財政移転と調整メカニズムの例
コラム3.2 学校財政の運用改革:オーストリアの例
コラム3.3 学校の資金管理責任を支援し、人件費以外の支出の効率性を向上させるためのインセンティブ:イングランド(英国)の例
コラム3.4 目的や対象を定めた特定のプログラムのための予算配分の例
コラム3.5 算定式に基づく学校への予算配分の例
コラム3.6 予算配分において学校固有の生徒の背景を考慮したイニシアチブ:ベルギーのフランス語共同体とフラマン語共同体の例
コラム3.7 学校への資金配分に用いられる指標の見直し:フランスとアイルランドの経験
コラム3.8 インフラ投資計画の例
図3.1 公教育財政における当初財源に占める政府レベル別割合と政府間移転後の支出割合の変化(2019年)
図3.2 教育機関への地方政府の支出(2018年)
図3.3 学校ガバナンスへの責任と科学的リテラシー得点との相関(教育的リーダーシップ指標別)(2015年)
図3.4 国公立・私立学校に通う生徒の割合(2018年)
図3.5 中央政府または州政府が配分算定式を用いて国公立の初等教育機関(または最も下位の運営レベル)に配分する公的資金の割合(2019年)
――第4章 学校財政の活用
コラム4.1 幼児教育・保育(ECEC)の有資格教員数を増やす取り組み:オーストラリア、カナダ、アイルランドの例
コラム4.2 教職の魅力を高めるための教員給与の引き上げ:チェコ、エストニア、スウェーデンの例
コラム4.3 新卒者にとって教職を魅力あるものにするための教員給与体系の改革:オーストリアの例
コラム4.4 給与を昇進と関連付ける:コロンビアとチリの例
コラム4.5 優秀な教員を恵まれない学校に誘致し定着させるための経済的インセンティブ:チリとフランスの例
コラム4.6 補足的な再就学支援プログラムと早期学習加速化プログラムによって、困難を抱える学習者に再就学を促し、中退を最小限に抑える
コラム4.7 困難を抱える生徒に個別化した支援を提供する:オーストリア、フィンランド、ウルグアイの例
コラム4.8 データ追跡システムを利用して、留年や中退のリスクのある生徒を特定するための早期警告指標を開発する
コラム4.9 留年率を下げるための体系的な政策努力:フランスとベルギーのフランス語共同体の教訓
コラム4.10 早期トラッキングの年齢を引き上げ、より包括的なシステムに向かう政策:オーストリアとベルギーのフラマン語共同体の例
コラム4.11 学校拠点ネットワークの非効率性に対処する協働と資源共有:ベルギーのフラマン語共同体とスペインの例
コラム4.12 学校拠点ネットワークの非効率性に対処する学校クラスター化:コロンビアとポルトガルの例
コラム4.13 農村部の学校を対象にした支援:チリとコロンビアの例
図4.1 3歳未満児の幼児教育・保育参加率(サービスの種類別)(2015年・2020年)
図4.2 生徒の社会経済的背景による就学前教育参加率の格差(2015年・2018年)
図4.3 就学前教育機関への教育支出の公私負担割合(2018年)
図4.4 高等教育修了労働者の給与と比較した前期中等教育教員の実際の給与(2021年)
図4.5 前期中等教育教員の法定初任給および最高給与と比較した実際の平均給与(2021年)
図4.6 社会経済的に恵まれない家庭出身の生徒の割合別にみた初任期教員の分布(前期中等教育段階)(2018年)
図4.7 留年による損失(2009/10学年度)
図4.8 留年、社会経済的状況、読解力得点(2018年)
図4.9 最初の振り分け時の年齢と読解力得点の公平性(2018年)
図4.10 中等教育学校の生徒1人当たりの年間(推定)費用(2011年)
図4.11 農村部・都市部間の中等教育学校生徒の読解力得点差(2018年)
――第5章 学校予算執行の計画と監視
コラム5.1 国の目標設定を用いた教育予算運営:デンマークの例
コラム5.2 達成目標を連邦予算に統合する:オーストリアの例
コラム5.3 戦略的・多年次教育予算編成:エストニアの例
コラム5.4 評価を学校財政支援メカニズムに関連付ける:ベルギーのフラマン語共同体と米国の例
コラム5.5 「バリュー・フォー・マネー」イニシアチブと教育支出レビュー:スロバキアの例
コラム5.6 学校の予算編成責任:一部のOECD加盟国の例
コラム5.7 学校と地方自治体の予算編成の支援:デンマークの例
表5.1 中央政府による教育予算編成に用いられる情報(ISCED 0~3)(2016年)
前書きなど
序文
(…前略…)
質の高い教育は生産性の向上、イノベーション、長期的な経済成長など、さまざまな経済的成果だけでなく、生活の質と市民としての行動の向上、不測の事態に対する個人と社会のレジリエンス(耐性)の強化など、個人と社会の双方にとってのより広範な社会的成果にもつながるため、教育への公的支出には強い根拠がある。強靱で公平な教育システムは、変化に適応し、新しい課題に積極的に対応し、誰一人取り残さない、より包摂的で公平な社会の礎である。しかし、質の高い教育の継続的な提供は、個人と社会の繁栄と混乱からの回復を可能にする知識、スキル、コンピテンシーへの長期投資であるものの、教育省は教育投資の方法を再考して、より賢明な投資を行い、教育システムにおいて費用に見合う価値(バリュー・フォー・マネー)を高める必要がある。
本書では、質の高い教育がもたらす豊かな経済的利益と幅広い社会的成果を取り上げて明らかにする。実のところ、質の高い教育は経済的利益のほかにも、個人とコミュニティと社会に多大で多様な効果をもたらす。しかし、より適切で優れたスキルにつながる質の高い教育に投資するには、投資した費用からより高い価値を引き出せる幅広い政策手段を賢く利用することが欠かせない。本書では特に、教育投資の恩恵を得るために学校財政を効率的に運用・分配し、学校財政を活用してより高い効率性とともに公平性を実現し、学校財政の活用とその効率性を計画、監視、評価する重要性に焦点を合わせる。
より賢明な投資決定を行うには、財政の引き締めと監視が求められる時期においては特に、財務省2と教育省との連携の強化がこれまで以上に重要になる。本書は、OECD教育・スキル局とOECD経済局が、フランスの教育担当省と財務担当省と協力して2022年2月16日に開催した「ポストコロナ時代の教育におけるバリュー・フォー・マネーに関するハイレベルセミナー(High-Level Seminar on Value for Money in Post-COVID Education)」のバックグラウンドノートとセミナーでの議論に基づいている。セミナーではOECD加盟国の財務と教育を担当する省庁から上級代表者が集まり、教育効率とより公平で包摂的な教育のための予算に関する分野で重要テーマを中心に対話が行われた。セミナーと本書のベースにあるのは、OECD経済局が持つ、構造的成長の決定要因に関するOECDの専門知識と、教育・スキル局による多様な、具体的には(「OECD学校資源レビュー(OECD School Resource Review)」の一環として開発された)学校教育の財源調達、効果的な公共予算、教育成果の測定に関する業務や研究の成果である。なかでも本書は、生徒の学習到達度調査(Programme for International Student Assessment: PISA)と、国際成人力調査(Programme for the International Assessment of Adult Competencies: PIAAC)」の成果「成人スキル調査(Survey of Adult Skills)」のデータのほか、『図表でみる教育(Education at a Glance)』で公表されている国際比較可能な教育指標データを利用している。
(…後略…)