目次
はじめに
フェミニズムの「時」
なぜグローバル?
理論、アクティビズム、そして使い道
第1章 夢
レディランドとハーランド
偉大な愛
ユートピアの実現
夢の限界
差異を夢見て
第2章 アイディア――考え・概念・思想
女性、理性そして美徳
家父長制
「トルコ・コンプレックス」
男女(Nannü)
女性の解放と家父長制
「二重の危険」
家父長制と男性運動
第3章 空間
労働の空間
市場
フェミニズムのビジネス
礼拝の空間
自立の空間
第4章 物
フェミニズムのブランド化
フェミニストの身体
アフリカの代替策
抵抗と「世界を作る」物
第5章 ルック――装い・外見
美、ファッション、政治
合理的な衣服と異端のファッション
解放の装い
服装の規制
反体制的な自己装飾と階級がもたらす緊張
スカートをはいた男性
ヒジャビスタたち
ベール、ナショナリズム、そして植民地へのまなざし
第6章 感情
フェミニストの怒り
愛情
母性
世界的なネットワーク
第7章 行動
石の主張
闘争性と形を変えた暴力
ストライキ
ピケ
身体と裸
第8章 歌
女性参政権運動の音楽
ゴスペル、ブルース、そして人種排斥
音楽産業と「女性文化」
ハミングでの威嚇
ライオットガール
国際女性デーと国家フェミニズム
おわりに――グローバル・フェミニズムズ
包摂と排除
過去は使えるか
次は?
謝辞
解題[井野瀬久美惠]
さらなる読書のために
註
事項索引
人名索引
図版リスト
前書きなど
解題[井野瀬久美惠]
本書を手に取った、あるいは手に取ろうとしているあなたは、タイトルに掲げられた「フェミニズムズ」(複数形であることにご注意!)という言葉から何を連想されただろうか。そもそも今フェミニズムを考える意味はどこにあるのだろうか。
こんな問いから始めたのは、現代日本ではフェミニズムという言葉の有効性を感じにくいかもしれないことが危惧されるからである。フェミニズムという思想、運動、そして文化が高揚するたびに押し寄せた反動のことを言っているのではない。二一世紀に入る前後から欧米を中心に目立つようになった「ポストフェミニズム」という時代認識――「フェミニズムは終わった」「フェミニズムはもうたくさん!」という雰囲気が、日本でも広がっているように見えるからである。「ジェンダー平等」が「男女共同参画」へと読み替えられ、性差別の実態は曖昧にされたまま、「女子力」「婚活」といった言葉が「女性活躍」と共存する日本のフェミニズムについて、どこか「学問的」なイメージがつきまとい、「否定的な評価が目立つ」と菊地夏野『日本のポストフェミニズム』(大月書店、二〇一九年、八二頁)は指摘する。
ネット上に目を転じると、#MeToo運動(性被害を告白、共有、告発する動き)のような女性たちの連帯(そしてそれ以外の社会的弱者や男性たちとの共闘)を求める活動が注目を集める一方で、声をあげた女性へのバッシング、発言した「有名人」に厳しい報復を求めるキャンセル・カルチャー、女性嫌悪の言説が氾濫している。#WomenAgainstFeminismのように、明確にフェミニズム不要論を主張する動きも顕著である。
こうしたフェミニズム・ヘイトの状況は若い世代と親和性があるようで、そこでは「女性だからという理由で社会のなかで差別されたことはない」「女性であることを個人として楽しみたい」という声が聞かれる。ここから導き出される不要論に「ちょっと待った!」をかけるのは、『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど』(晃洋書房、二〇二〇年)の著者で社会学者の高橋幸だけではない。
少なからぬ人たちが、社会と個人とを別次元のものと考え、「フェミニズム」を「女性解放のための社会運動」と解し、「フェミニスト」とは、「女子力」にも「婚活」にも批判的で、複雑な問題を単純に見せかけることを許さない「むずかしい女性」だと想定している。だが、この紋切り型の見方は適切だろうか。
だからこそ、「フェミニズム」ではなく「フェミニズムズ」なのだと、本書は高らかに謳いあげる。この違い、考えてみる価値がありそうだ。
(…後略…)