目次
第2版によせて
はじめに
理論編
第1章 少年・刑事事件
1.犯罪心理学のアプローチ
2.司法(Forensic)とは
3.少年事件の手続き
4.国内外の少年法制
5.日本の少年法の歴史
6.非行の原因は何か――コホート研究から
7.日本の犯罪に関する統計
8.少年非行と家庭環境
9.少年非行と被虐待経験
10.少年非行と知能
11.少年非行と学習習得度
12.少年非行とLD(学習症)
13.少年非行とASD(自閉スペクトラム症)
14.非行・犯罪の「予防」とは
15.非行・犯罪をした人への「支援」とは
16.高齢者と触法行為
17.地域生活定着支援事業
18.犯罪の防止は可能か
19.治療的法学と司法福祉
第2章 家事・民事事件
1.家事・民事事件からのアプローチ
2.離婚の制度・法的諸問題
3.面会交流
4.裁判所命令による面会交流における子どもの心理
5.親権
6.子どものための面会交流
7.養育費制度の諸問題
8.子どもを育てるのは,親か社会か
9.後見
第3章 心理アセスメントとチーム支援
1.BPSモデル
2.新幹線内殺傷事件をBPSモデルで考える
3.さまざまな心理テスト
4.長所活用型アセスメントと支援
5.司法心理アセスメントの情報共有の問題
6.心理アセスメントのフィードバック
ケース編
第4章 少年・刑事事件編
ケース1 県営住宅の家賃が払えずに中学生の娘を殺してしまった母親のケース――千葉県銚子市~ソーシャル・サポートの理論と実際
ケース2 祖父母を殺害した少年のケース――埼玉県川口市~虐待された子どもの心理と支援
ケース3 親から放任されてぐ犯行為(家出)を繰り返す少年のケース――埼玉県寄居町の補導委託「寄居少年塾」
ケース4 校内暴力を繰り返す中学生のケース――心理教育アセスメントを活用した長所活用型支援
ケース5 元名大生による放火・薬物投与ケース――自閉スペクトラム症(ASD)の人による触法事件の理解(1)
ケース6 福岡:少年院を仮退院した少年による殺人事件――刑事裁判で情状鑑定がなされたケース
ケース7 鉄道マニアの少年の窃盗ケース――父母がASD傾向の自閉スペクトラム症(ASD)の人による触法事件の理解(2)
ケース8 いじめを受けた中学生による校内での窃盗ケース――自閉スペクトラム症(ASD)の人による触法事件の理解(3)
ケース研究特別編 神戸児童連続殺傷事件4つの手記から考える――少年Aの手記,母親の手記,被害者遺族の手記,担当裁判官の手記少年の精神鑑定とは,被害者学とは
ケース9 家庭内暴力により少年院送致された少年のケース――地域生活定着支援とは
第5章 家事・民事事件編
ケース10 別居している子どもに会いたい,歌手岩崎宏美さんのケース――親権と面会交流とは
ケース11 別居親から子どもの養育費が送金されないケース――子育ては,親の責任か社会の責務か
ケース12 高齢者を地域で支える市民後見人のケース――品川区における成年後見
ケース13 子どもの意思を尊重する面会交流ケース――自閉スペクトラム症(ASD)を持つ子どもと家族
ケース14 子どもへの虐待と児童福祉法28条ケース――発達障害のある子どもへの虐待と,家族への支援
ケース15 ネグレクトにより貧困に陥った高校生のケース――社会資源とつなげるユースソーシャルワーカーの役割
終章 司法犯罪心理学とは何か? 生きづらさ,困難を抱える人々への支援とは Go to the people, Go to the community
あとがき
第2版あとがき
著者略歴
前書きなど
第2版によせて
2020年に本書「ケースで学ぶ司法犯罪心理学─発達・福祉・コミュニティの視点から」を上梓した。
あれから3年が経過したが,この3年の間に,司法犯罪心理学分野では大きな二つの社会的事象が生じている。
一つは,2022年の少年法改正,二つめは家族法制審議会による共同親権等の導入の可否についてである。
2022年の少年法改正は,これまで一律に20歳未満を対象としていたものを,18,19歳を「特定少年」として,殺人や傷害致死など故意に人を死亡させた事件に加えて,強盗や強制性交など法定刑が最低で短期一年以上の事件について,原則として検察官送致とすることや,「特定少年」のぐ犯の廃止,推知報道(いわゆる実名報道)の解禁など,少年法の歴史の中で相当の変化であり,18,19歳の少年についていわゆる「厳罰化」の方向に舵を切るものとなった。本書では,この少年法改正問題について,その背景や,若年成人を刑事裁判に付すことがどのような効果をもたらすのかなど,米国の研究成果なども盛り込んだ。世間は,少年も事件を起こしたのであれば罰するべきとの考えも根強いが,実際に刑事罰を与えることで,再犯防止になるのか議論していただきたい。
また,2020年に少年院を仮退院したばかりの15歳少年が,面識のない女性をショッピングモールで殺害した事件が検察官送致となり,2022年7月に福岡地裁の裁判員裁判で不定期刑上限の懲役10年以上15年以下の判決が言い渡されている。もちろん被害者や遺族の悲しみは想像を絶する。一方で,なぜこのような事件が起きたのか,虐待を受けた発達障害傾向のある少年の心理鑑定の見地からも解説を加えた。
家事事件関係については,2021年からはじまった法務省家族法制審議会では,共同親権の導入の可否など家族法に関する審議が始まっている。離婚後の子どもの養育を「共同」で行うということは,一見すると子どもにとって良いように思われる。しかし,家庭裁判所の調停で争っているケースやDV,子どもへの虐待が疑われるケースで離婚後の「共同」が行われることは,離婚後もDVや虐待などが継続したり,子どもの希望する進学や医療について別居親の合意が得られず子どもの意見・希望が拒否されることも予想される。海外では面会交流の際に子どもが殺害される事件も頻発しており,英国司法省は2020年に発表したレポートで,こうした面会交流の問題点を指摘し,親の権利よりも子どもの安全を重視すべきと述べている。このような国内外の親権や面会交流をめぐる情勢について,司法犯罪心理学を学ぶ読者に知っていただきたく,改訂版に取り組んだ。
司法犯罪心理学のテキストの多くは,犯罪理論や罪種ごとの説明から成るものが多いが,本書のオリジナルな点として,非行や犯罪を,特別支援教育学,コミュニティ心理学,司法福祉の3つの視点を軸に,なぜこのような非行や犯罪が起きたのか,生物学的要因,心理的要因,社会的要因からその背景を探るとともに,非行や犯罪をした人への個別的なアプローチだけでなく,地域でよい人生を送ることができるためのメゾレベル・マクロレベルの支援体制の構築について論じている。非行や犯罪をする人の背景を理解し,どのように地域で共生していくか,また,DVや虐待から子どもをどうやって守っていくか,その視点から,改訂された本書を読んでいただき,議論の一助となれば幸いである。