目次
まえがき――「学び方改革」に挑む
第Ⅰ部 『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』と日本
1 はじめに(イントロダクション)[浅井春夫]
1 SDGsと包括的セクシュアリティ教育
2 『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』の目的と対象
3 「ガイダンス」の構成
4 なぜ「ガイダンス」改訂版が必要なのか
5 開発過程
2 包括的セクシュアリティ教育の理解[浅井春夫]
1 包括的セクシュアリティ教育(CSE)とは何か
2 「ガイダンス」5.2の8つのキーコンセプトの補足的説明
3 包括的セクシュアリティ教育の当面する実践的課題を考える
3 若者の健康とウェルビーイング(幸福)[あっきー]
1 書かれていることのまとめと考察
2 おわりに
4 科学的根拠に基づいた包括的セクシュアリティ教育[村末勇介]
1 ここには何が書かれているか――科学的根拠についての概要
2 わが国の若者の性の現状
3 今、性教育はどうなっているのか――大学生の「性教育履歴」を読む
4 まとめ
第Ⅱ部 8つのキーコンセプト
5 キーコンセプト、トピック、学習目標
5.1 目標、年齢グループ、構成[浅井春夫]
1 到達目標
2 年齢グループ
3 構成
5.2 キーコンセプト1 人間関係[星野恵]
1 ここで書かれていることのまとめ
2 みなさんと考えたいこと(問題意識)
3 キーアイデアの説明
4 学習者ができるようになること
5 具体的な実践の提案
6 まとめ――人間関係の学びを実現するために
5.3 キーコンセプト2 価値観、人権、文化、セクシュアリティ[小泉玲雄]
1 ここで書かれていることのまとめ
2 みなさんと考えたいこと(問題意識)
3 キーアイデアの説明
4 学習者ができるようになること
5 補足しておきたいこと――社会的・文化的規範とは何か
6 まとめ
5.4 キーコンセプト3 ジェンダーの理解[浦野匡子]
1 ここで書かれていることのまとめ
2 みなさんと考えたいこと(問題意識)
3 キーアイデアの説明
4 学習者ができるようになること
5 補足しておきたいこと――おとなの学びこそ重要である
6 まとめ
5.5 キーコンセプト4 暴力と安全確保[土屋麻由美]
1 ここで書かれていることのまとめ
2 みなさんと考えたいこと(問題意識)
3 キーアイデアの説明
4 学習者ができるようになること
5 補足しておきたいこと――信頼できるおとなに伝えること
6 まとめ
5.6 キーコンセプト5 健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル[谷村久美子]
1 ここで書かれていることのまとめ
2 みなさんと考えたいこと(問題提起)
3 キーアイデアの説明
4 学習者ができるようになること
5 補足しておきたいところ――「ガイダンス」は語らない……ガイダンスの読み方について
6 まとめ
5.7 キーコンセプト6 人間のからだと発達[渡邉安衣子]
1 ここで書かれていることのまとめ
2 みなさんと考えたいこと(問題意識)
3 キーアイデアの説明
4 学習者ができるようになること
5 補足したいこと――障がいのある子どもへの性教育
6 まとめ
5.8 キーコンセプト7 セクシュアリティと性的行動[田部こころ]
1 ここで書かれていることのまとめ
2 みなさんと考えたいこと(問題意識)
3 キーアイデアの説明
4 学習者ができるようになること
5 補足しておきたいこと
6 まとめ
5.9 キーコンセプト8 性と生殖に関する健康[岩佐寛子]
1 ここで書かれていること
2 みなさんと考えたいこと(問題意識)
3 キーアイデアの説明
4 学習者ができるようになること
5 補足しておきたいところ
6 まとめ
第Ⅲ部 効果的な実施体制に向けて
6 サポート体制の構築と包括的セクシュアリティ 教育プログラム実践のための計画[辻奈由巳]
1 ここで書かれていることを受けて
2 まとめ
7 効果的な包括的セクシュアリティ教育プログラムの実施[水野哲夫]
1 「ガイダンス」7章 「効果的な包括的セクシュアリティ教育プログラムの実施」
2 「効果的なカリキュラム開発」には何が必要か
3 モニタリングと評価
4 7.5 包括的セクシュアリティ教育を拡大する
5 私の考える包括的性教育推進のためのプロセス
6 まとめ
あとがき――4グループのとりくみから
前書きなど
まえがき――「学び方改革」に挑む
『【改訂版】国際セクシュアリティ教育ガイダンス』(以下、「ガイダンス」)の翻訳書が、2020年8月に明石書店から出版されました。幸いにも手元に置いていただいている方が確実に増えており、日本における性教育の発展のためにも「ガイダンス」を活かしていくことが求められているという認識が広がっています。
性教育発展の国際的なスタンダード(到達すべき水準)となっているのが「ガイダンス」です。今日、性教育といっても、①「純潔強制教育」(宗教的な儀式のなかで結婚までは性行動をしないことを誓わせる儀式などによるマインドコントロール)、②性の恐怖教育(人工妊娠中絶や性感染症の怖さを強調することで、子ども・若者を性的行動から遠ざける教育)、③抑制的性教育(“過剰に”性知識を教えると、問題行動につながるという「寝た子を起こす」論に依拠した性教育で、現在の文部科学省がとっている方針)、そして現在、子ども・若者の性的諸課題に応じた、科学と人権を骨格とした「ガイダンス」に依拠した④包括的性教育があります。
包括的性教育とは、①子ども・若者のすべての年齢を対象として(ただし「ガイダンス」では0~4歳は記述されていない)、②子ども・若者の性的発達のさまざまな局面に対応できるカリキュラムとなっており、③日常生活のなかで性に関わるあらゆる場面に対応できるちからを形成することで、④豊かな共生能力をはぐくむことをめざした性教育です。それは人権をベースにした変革しつつある性教育ということができます。包括的性教育は、各国の子ども・若者の実状にあわせて創造的に発展し続ける性教育であるのです。
なお本書では、包括的性教育と包括的セクシュアリティ教育は同じ内容と意味として使っています。
そんな「ガイダンス」ですが、「買ってはみたものの自分ひとりでは難しくて、読み切れない」「読み始めたけど頓挫しています」という声をよく耳にしました。確かに「ガイダンス」はわかりやすいとはいえません。そのわかりづらさには、いくつかの理由があります。
(…中略…)
でも、どんな本や論稿でもそうだと思うのですが、読めば、そこに求めている答えがちゃんと書いてあることなどあまりないと思うのです。誰もが納得するような答えに安住するのではなく、自分なりに“答え”を探し当てることに喜びを感じる学び方をしたいものです。
そんなわかりづらさは、わかっていく学びを通して味わうワクワク感につながっていくことが多いのです。その“わかっていく学び”の内容も深まり、さらに次の課題への挑戦を拓く意思をはぐくんでいくことになると思うのです。研究発展の弁証法とはそういうものではないでしょうか。
では、意味のある興味深い研究とは、どのような研究をいうのでしょうか。社会的に役立つ、人間を大切にするための研究であることも重要なことです。でも社会に貢献する研究となるかどうかは、あえていえば研究の結果であって、その研究成果を活かした具体化にゆだねられるということもできます。私たちにとって意味のある研究とは、自身の問題意識・関心に突き動かされて行う研究ではないかと思うのです。その原動力となるのは、本書に関わっていえば、子ども・若者と向きあった実践現場で培われ、また直面している現実から逃げることのできない課題(解決すべき問題)として受け止められた内容と考えます。研究とは自由な発想のなかで生み出される努力の積み重ねのプロセスでもあります。自らが読んで学んで、心を揺さぶられた感動と意思を言葉にのせて伝えていくことが、言葉のちからになっていくのではないでしょうか。
(…中略…)
本書を手に取ってくださった皆さんも、ぜひとも本書をきっかけにそれぞれの立場で自主ゼミを行い、皆さんならではの「ガイダンス」の学びを具体的に拓いていくことを願っています。
2021年1月29日、私たちの自主ゼミはスタートしました。奇しくも、コロナ禍においてそれまであたりまえであった対面による学びの機会が奪われてしまった期間において展開されたのです。その意味で、本書には、私たちのしたたかで粘り強い学びへの情熱も込められています。それは、他ならぬ「すべての子どもや若者たちに包括的性教育を届けたい」との願い、そして自分自身が主体的に自由に生きていきたいという願いの具体的な表明であり、表現なのです。多くの方が本書を読んでいただき、「ガイダンス」ゼミ生の一員として、この輪に加わっていただければ幸いです。
(…後略…)