目次
訳者序文[尾上修悟]
第一章 人種差別の測定と差別の解消[トマ・ピケティ]
第二章 キャンセルカルチャー――誰が何をキャンセルするのか[ロール・ミュラ]
第三章 ゼムールの言語[セシル・アルデュイ]
第四章 資本の野蛮化[リュディヴィーヌ・バンティニ]
訳者解説[尾上修悟]
前書きなど
訳者序文
今日、人種差別や諸々の差別の問題は、どれほど真剣に、かつまた精力的に議論されているであろうか。あるいはまた、それらの問題を解消するための具体的な政策はどれほど練られているであろうか。実はこれらの問いは、社会・経済的不平等を糾弾して平等を希求する人たちにも投げかけられる。T・ピケティは最近、平等に関する歴史を描いた書物をスイユ出版社から刊行した。その中で彼は、差別と対決することを論じる章を設けて次のように唱える。これまでの平等に向けた運動には一つの限界が見られた。それは、そうした運動が権利と機会の平等に関する理論的な原則を、人々の出身の問題と切り離して求めてきた点にある。したがってこの原則が、現実の社会に真に即したものかどうかを判断することはできない。ピケティがこのようにみなすのは、実際に民族・人種的差別のみならず、性差別やその他の社会的差別が世界中で歴然として存在し、そしてそれらの差別が社会・経済的不平等と強く結びついているからに他ならない。そうであれば、平等のための闘いは差別との闘いを内包するものでなければならないし、またそれを可能とする具体的な手段が準備されねばならない。ピケティが本書で断じているように、いかなる国も、またいかなる社会も、人種差別やその他の差別と対決できるモデルを完全な形ではつくり出せていないのである。
(…中略…)
以上のように、現代に顕著に見られる差別をざっと拾い上げただけでも、それは枚挙にいとまがない。しかもそれらは、広範囲の領域に及んでいる。そこでまず、それらの差別とそれから生じる不平等をきちんと把握し、その解消策を具体的に打ち出すために必要な分析の視点が求められる。そしてそれは、一つに限られるものではない。ここで、以下の四つの視点を示しておきたい。
(…中略…)
我々は、これらの多様な視点に立った分析による結果を総合的に把握することで、差別と不平等の問題をより掘り下げて論じながら、その解消に向けた糸口を見出せるのではないか。本書は、四つの独立した小冊子を訳したものであるが、各々は以上に示した分析視点のいずれかによりながら論じられると共に、それらの底流に差別と不平等に関する共通の問題意識が横たわっている。その意味で本書はアンソロジーの形を成している。