目次
まえがき
びっくり体験インタビュー01
びっくり体験インタビュー02
びっくり体験インタビュー03
びっくり体験インタビュー04
びっくり体験インタビュー05
第1章 挨拶の力――心の窓
第2章 パーソナルスペース――人は適切な距離を必要とする
第3章 自己覚知――自分の価値観や行動を知る
第4章 アサーションとは――自分も相手も大切にする対等な対話
第5章 傾聴――能動的に心を寄せて聴く
第6章 受容――受けとめる・きき受ける
第7章 共感――相手の立場になって感じる
第8章 きく態度と姿勢――見られています
第9章 きく時間――疲れない時間がお互いに大事
第10章 きく場所――適切な場所を選ぶ
第11章 対話――しっかり聴き、提案型で伝える
第12章 対象別のアサーション
第13章 多文化交流――積極的な関心と受容
第14章 災害時――みんなで命を守り合う
第15章 対人援助――寄り添う姿勢
第16章 多様性ある共生社会に向けて
前書きなど
まえがき
「そんなつもりはなかった」けれどそれが差別行為であったかもしれないといった経験や不安は多くの人が持っているのではないでしょうか。少数派と言われる人たちが排除や差別の対象となりやすいとされています。
少数派に関しては数の多い少ないだけでなく、社会参加の機会が少なく一般的な日常生活の中で見えにくい人たちがそれにあたると言えるでしょう。一般的に少数派というと、障害者、性的マイノリティー、外国にルーツを持つ人々などが思い浮かびます。
(…中略…)
「差別」というキーワードを議論する場は敬遠されがちで、差別をしてはいけないということはわかってはいても、何が差別にあたるのか、どうしたら差別はなくなるのかなど具体的な解消に関する対話を行う場面は限りなく少ないのではないでしょうか。特に、「そんなつもりはない」という人はたくさんいると思いますし、筆者自身も知らず知らずのうちに誰かを傷つけているのかもしれない、思い込みが偏見の場合もあるかもしれない、と不安になることもあります。
(…中略…)
筆者は2015年より障害平等研修(DET)のファシリテーターの技法を身につけ、これまでに約200回を超える研修を実施し、3,000名近くの研修参加者と出会い、筆者自身も彼らから多くの気づきが与えられました。DETは、1990年代のイギリスで差別禁止の法整備と当事者活動が連動し発展してきた障害教育です。その研修の中で、差別や平等、障害や障壁の捉え方は千差万別であり、その認識や価値観の違いは「対話」をもってのみ気づき、また知り得るものであることを実感しました。そして違う立場の人々とともに解消を目指せる行動は、対話の中での気づきをヒントに生み出されるものであると希望を見出すことができました。これが、筆者が現在でも様々なテーマにおける研修(共生社会、教育インクルーシブ、防災インクルーシブなど)を継続して実施し続けている理由でもあります。
2016年に障害者差別解消法が施行された際、「具体的な対応マニュアルについての研修をしてほしい」と言う声を多く聞くこととなりました。しかし、研修を行い多くの人の声を聞き、認識や価値観の違いを知れば知るほど、「完璧なマニュアルなど存在しない」と言う回答をすることが多くなりました。なぜならば、人間は十人十色、千差万別で、ひとりひとりが感じる社会の中にある障壁や求める配慮は一括りにできるものではないからです。
アメリカの社会福祉学者バイスティックが提唱する7つの原則の中にも、第一に「個別化の原則」があります。援助において似たような状況であっても、人間はひとりひとり違うため、ひとりひとりのニーズを丁寧に聴き受けていく必要があるわけです。しかし、そこで援助する側の個人の自由や尊重と言う言葉を持ち出し、差別的な行為をすることは容認できません。あくまでも主体は支援を必要とする本人です。
私たちは社会という共同体の中で共に幸福や自由を求めながら生きています。日本国憲法第13条に幸福の追求権がありますが、「公共の福祉に反しない限り」と書かれています。力の強いものだけがその権利を行使することができ、力の弱いものは諦めや泣き寝入りをするような社会では真の共生社会とは言えず、成熟した社会とも言えないでしょう。
また、悪気のない差別や、優しさの度合いが強い人ほど行ってしまう「無意識の差別」というものが、この世の中には多く存在しています。親切心から「良かろう」と思って、ついその親切を押し付けてしまった経験はありませんか。筆者も時々、ハッとして自身の言動を振り返って内省することがあります。しかし、この気づきこそが大事なのではないでしょうか。気づいたその先に、自分自身の言動を変えていく行動変容が大切なのです。
私たちは「差別」という言葉を口にすることを敬遠するのではなく、よりオープンな場面で対話する機会を積極的につくり、気づきをたくさん得ることが必要なのではないでしょうか。
(…後略…)