目次
はじめに
序章 永遠の地獄だと思いながら日々を生きていた。人生の早い段階で、何度も「永遠」を感じたことは、私の人生観を特殊なものにした。――編著者・横道誠の宗教2世体験
第Ⅰ部 談話:宗教2世が宗教2世を支援する
第一章 自分がこう感じているとか、ほんとうはこうしたいとか、これがやりたい、これが好きだとかを徹底的に否定されながら育つんです。――統一教会を脱会して声をあげた、ぷるもさん
第二章 私の人生は、悔しさと怒りで突っ走ってきたようなもので。絶対成功してやろうと、それだけを思って生きてきました。――オウム真理教を脱会して発信を始めた、まひろさん
第三章 親も被害者であり、子どもも被害者であると思います。――天理教教会の五代目、ヨシさん
第四章 弟の葬式が終わってから、すぐ家を出ました。この家にいたらやばいなと。もう一秒たりともいられないと思ったんです。――エホバの証人を辞めてピアサポーターとして活躍する、ちざわりんさん
第五章 「なんで怒っちゃいけないと思っているの?」と尋ねられたときに、「あ、私のなかにまだ宗教の教えが残っているんだ」という衝撃がありました。――宗教2世マンガの作者、菊池真理子さん
第Ⅱ部 対談:各種のプロフェッショナルはどう考えるか
第六章 末冨芳×横道誠 宗教2世問題をいかに世間、社会、支援者に知ってもらうか――子ども政策を専門とする、末冨芳さんとの対談
第七章 安井飛鳥×横道誠 子どもの権利の観点から、子どもの信仰の自由をどう保障していくのか――ソーシャルワーカー兼弁護士、安井飛鳥さんとの対談
第八章 藤倉善郎×横道誠 カルト問題の知識はじつは必須じゃないんですよね――『やや日刊カルト新聞』代表、藤倉善郎さんとの対談
第九章 塚田穂高×横道誠 「宗教2世」問題が、多文化共生、多文化理解の文脈につながっていくということは非常に重要だと思っています。――宗教社会学者・塚田穂高さんとの対談
終章 支援について考える
おわりに
前書きなど
はじめに
(…前略…)
銃撃事件の数日後、ツイッターで「#宗教2世に信教の自由を」というハッシュタグを見かけた筆者は心を打たれ、同じハッシュタグをつけていくつかのツイートを投稿した。気になって調べてみると、統一教会2世の高橋みゆきさん(仮名)が、事件の翌日からこのハッシュタグをスローガンとして宗教2世支援のための署名運動を開始し、それが多くの賛同者を得ていた。高橋さんは合同結婚式を経た両親のもとに生まれた「祝福2世」で、署名は七万人を超えた九月二八日の段階で、厚生労働省などに提出された。筆者はこのハッシュタグを本書の副題に使用したいと要望し、担当編集者の深澤さんが高橋さんに打診して、承諾を得てくれた。
「宗教2世に信教の自由を」というスローガンに疑問を持つ人もいるかもしれない。信教の自由さえ保障されれば、すべてが解決に向かうのかと詰めよられれば、そんなことはないと答えるほかない。しかし私たち宗教2世は、親への「信教の自由」が日本国憲法によって保障されているのが原因で、親に子どもたちの信教の自由を犯すことを許してしまっている。伝統的には、子ども信者が親信者の信仰を継承するのは普通のことだったはずだが、そのような信仰の継承は時代の流れに合わなくなりつつある。いわゆる宗教2世として、宗教被害に声をあげている人々には、その事態がもっとも濃厚に体現されているわけだ。「宗教2世に信教の自由を」という訴えが叶えば、宗教2世問題に根本的な解決がもたらされるとは思わないが、このハッシュタグがきわめて多くの人を揺さぶるものになっていることはまちがいないだろう。
本書は当事者や研究者にも向けられているが、それ以上に支援者に読まれてほしいと考えている。筆者は当事者として2世問題に関わってきた。そして、宗教問題を専門とするのではないが、研究者として生きてきたために、宗教社会学の論文などもそれほど苦労なく理解することができる。そのうえで思うのは、いま何よりも足りていないのは、支援者からの関与だと思わざるを得ない。その思いを踏まえて、本書をつぎのように構成した。
まず序章では、筆者自身のエホバの証人2世としての宗教体験と、その後の人生の歩みを提示する。第Ⅰ部では、統一教会の教団施設で育った祝福2世のぷるもさん、オウム真理教2世として育ち、過酷な迫害にさらされたうえに、かつての信者仲間を絞首刑によって失ったまひろさん、天理教5世として信仰と不信仰の葛藤に苦しんだヨシさん、エホバの証人2世として自己形成し、弟の自殺を体験してしまったちざわりんさん、そして創価学会2世としての過去を持ち、母親の自殺を体験した菊池真理子さんの声を届ける。菊池さんは前述した宗教2世マンガの作者で、本書では依頼してジャケット画を書いてもらったほか、おまけマンガも寄せていただいている。
序章と第Ⅰ部を通じて、読者はカウンセラーの信田さよ子さんが『家族と国家は共謀する』の一節にさりげなく書きつけた「どんな専門書も極限を生き抜いた当事者の言葉に勝るものはない」という言葉を理解できるようになるだろう。この言葉を筆者はちざわりんさんのツイートから知って、深く勇気づけられた。本書ではヨシさんのみが、脱会しなかった宗教2世として宗教2世のために発言してくれたが、おそらく脱会して傷ついた2世たちには、ついに脱会しなかった2世は、自分たちに対して完全には理解してくれないものなのだと感じられてしまうかもしれない。
なお、第Ⅰ部に関しては、個人情報の保護のために、一部の背景に改変を加えていることをご理解いただきたい。
第Ⅱ部では、筆者がさまざまな分野の専門家たちと意見を交換していく。教育行政学を専門とし、政策への提言もおこなっている末冨芳さん、ソーシャルワーカーと弁護士を兼ねた安井飛鳥さん、カルト問題に関する第一人者でジャーナリストの藤倉善郎さん、宗教社会学者で、銃撃事件以後に宗教問題のもっとも重要な発信者のひとりとなった塚田穂高さんが、宗教2世当事者の筆者と意見を交換してくれた。それぞれ多忙な方々だが、「宗教問題の専門家」とはけっして言えない筆者に真摯に対応してくださったことを心から感謝している。それぞれの示唆に富んだ見解をじっくり味読してくれれば、ありがたいと考える次第だ。