目次
序文 中世後期ヨーロッパの政治モデルをめぐって[フロセル・サバテ(久米順子 訳)]
本書の位置付け[阿部俊大]
第一章 アラゴン連合王国における領域、権力、制度[亀谷学、阿部俊大 訳]
第二章 一四世紀のカタルーニャにおける王権の言説と戦略[阿部俊大 訳]
第三章 アラゴン連合王国における権力濫用(一三‐一四世紀)――病的逸脱、汚職、戦略、あるいは典型?[向井伸哉、阿部俊大 訳]
第四章 中世後期カタルーニャにおける都市自治体と王権[内村俊太 訳]
第五章 中世後期カタルーニャにおける王権――定義と逸脱[久米順子 訳]
第六章 中世後期カタルーニャにおける諸身分、主権、そして政治モデル[黒田祐我 訳]
第七章 アラゴン連合王国――アイデンティティと政治的・社会的特質[中嶋耕大、久木正雄 訳]
原註
アラゴン連合王国年表
地図・系図
後書き[久米順子]
前書きなど
本書の位置付け
1.アラゴン連合王国とは
本書『アラゴン連合王国の歴史――中世後期ヨーロッパの一政治モデル』は、一四世紀のカタルーニャ(バルセローナ伯領)を中心に、中世後期のアラゴン連合王国の政治体制を多角的に論じた著作である。
アラゴン連合王国は、中世において、現在のスペイン東部をはじめ、南イタリアや南フランス、バレアレス諸島やシチリア島、サルデーニャ島やコルシカ島、ギリシアの一部などに版図を広げ、また都市バルセローナを中心にイスラーム圏や西欧各地と活発な交易活動を展開して、イベリア半島のみならず、地中海全体に強い政治的・経済的影響を与えた国家である。
しかし、日本の学界において、同国についての研究はきわめて少ない。中世スペインの歴史については、一五世紀末までナスル朝グラナダ王国と対峙し続けるなど「レコンキスタ」の主役であったカスティーリャに関心が集まり、また地中海交易については、ヴェネツィアやジェノヴァに関心が集まる傾向があり、結果的に、アラゴン連合王国はいわば脇役となってしまっていることが主たる原因であろう。そのような状況の背景として、この国家では王権が制限され、きわめて分権的な政治体制が発展しており、政治や経済の面で、一体性を持って周辺地域と競争していけなかったという事実を指摘することができる。